黒夜叉

第2話

　地元の人間も滅多に通らない裏道。

　葉子は這いずって、子授け稲荷と呼ばれているちいさな社までどうにかたどり着くことができた。

　這った跡がわかるほど出血している。少し離れた位置に立つ少年は、なにかをしきりに呟いている。叫んでいる。泣いているのかもしれない。何故。

　葉子の体温はみるみる下がっていく。寒い、寒いと繰り返す。葉子は死に向かっている。切ないほどまっすぐに、逃げ場のないほど濁りなく。

　葉子は血にまみれた自分の下腹をおさえた。天からの最高の贈り物を知ったその帰路に、どうしてこのような目に遭わなくてはならない。

　恐怖と狼狽と悲憤。すでに痛みを感じていないことが、自分はもう死ぬさだめにあることを葉子に強く意識させた。

「……じょう、ここに来て……、会いたい、顔を……見せ、て……もう一度……あなたの子、」

　名を呼んでも葉子の願いのかなうはずもなく、彼女に近寄ってきたのは手にナイフを持った少年であった。

「じょう、またね……」

　葉子はこと切れた。

　涙も血まみれであった。

　地元の人間しか知らない小さな稲荷社。

　背を何度も刺されて尚、新しい命を宿した身を雨に濡らしてはならないと、葉子が思っていたかどうか。

　やさしいひと、だった。

　少年は死んだ葉子を犯した。

　雨はやまない。