黒夜叉
偽薬
第1話
これは復讐の物語。
雨のZ市。
鎮守の森と呼ばれる雑木林の横道を、ビニール傘を差した白いワンピースの女性が歩いている。
肩で切りそろえられた髪が、彼女の歩みに合わせて揺れている。
在京の大学を卒業し地元に戻ってきていた。今は郷土資料館で学芸員をしている。
名を
病院に行った帰りである。喜ばしい報告をその身に宿していた。
早く帰ろう、昼過ぎから降りはじめた雨も今はなんだか好ましい。
まだ日の暮れる時間でもなかったが、降り続く雨のせいで薄暗く肌寒い。身体が濡れないようにと気にし過ぎていたせいか、葉子はうしろからひたひたと近づく影にまるで気づいていなかった。
影はジーパンにウインドブレーカーという地味な格好で、傘もささず、フードを深くかぶって歩いている。顔は見えないが、露出した手の甲あたりの質感や、肩の張り具合かたちから、どうやら年若い男であるようだ。少年と呼んでも差し支えない年齢だろう。
朱く染まった手にはナイフが握られていた。
果物の皮を剥くためのペティナイフ。柄まで一体鋳造されたものであり、決して安いものではない。
少年はひたひたと足音なく葉子に近寄っていく。
あからさまに不穏である。
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