第5話 ご招待

 外壁の門の前には人が集まりナァシフォを囲んでいた。

「姫様。やんちゃは程々にしてください」

 歴戦の戦士の風格が漂うライガンがナァシフォを叱りつけると、流石に堪えたようにナァシフォは体を縮込ませるが直ぐにケロッとして言う。

「じい、御免なさい。でも羽百足の素材が手に入ったわ」

 ライガンをナァシフォはじいと呼ぶ。姫様呼びとじい、確実に貴族階級の身分、もしかしたら領主一族である可能性もある。

 ガイガは面倒臭い奴と関わってしまったと内心嘆いた。ガイガ的には大都市であるイーセにはひっそりと来てひっそりと命の洗濯をしてひっそりと立ち去るつもりだったのである。

 面倒になりそうな予感に今のうちにフェードアウトできなかと模索するが、外壁の門は人だかりの向こうである。

「そんなことでは誤魔化されませんぞ」

「でもこれは見事ですよ。こんないい死骸がよく見付かりましたね」

 懲りてないと見てライガンがナァシフォを再度叱りつけようとしたが20代くらいのまだ線の細い青年がナァシフォを庇うようにライガンに言う。

「これは見つけたんじゃないわ。

 この人が狩ったのよ」

 輪から一歩外れて様子を伺っていたガイガをナァシフォが誇らしげに紹介する。

「誰ですかな?」

 ライガンが初めて見る男に鋭い目を向けて誰何する。

「流浪の旅人のガイガと言います。一夜の宿を求めこの国を訪れました」

 もはや逃げられないと諦めた。ならば領主一族に取り入った方が睨まれるよりかはマシとガイガは手を腹に当て腰を折って滑らかに頭を下げて一礼をする。無法者や無教養の者では出来ない綺麗な所作で、これだけである程度の信用を獲得する。当たり前のことで旅から旅の流浪者など何処に行っても怪しまれる。礼儀作法は旅人にとっての身を守る処世術なのである。

「儂の名はライガン、姫様の教育係をしている」

「私はシトヤ、姫様のお目付けです」

 ガイガの礼に一目置いた二人が礼儀正しく対応する。

「此方の方角から来る客人は久方ぶりだが、もしかして北から来たのか?」

 ライガンははるか先に広がる魔界を見ながら問う。

「ええ、北より魔界を突っ切って来ました」

 取り巻く空気が変わった。周りの人々が畏怖の念を込めてガイガを見る。

 ガイガはただの旅人と言ったが、この魔界に世界が覆われつつある時代国と国の間を旅することがどれだけ過酷であるのか皆知っている。まして街道が魔界に覆われてしまった所から来るなど並大抵のことではない。今の時代自分の国から一歩も出ないで生涯を終える者がほとんどである。

「旅人よ。歓迎しよう。イーセ城まで案内しよう」

 ライガンは早速貴重な他国の情報を得ようと抜け目なくガイガを城に誘う。長距離通信網が断絶して久しい時代旅人は貴重な情報源なのである。

「いえいえお構いなく。旅の汚れも酷いですし。いずれ城にはご挨拶に伺いますが今日の所は宿を取りますよ」

 ガイガは楽しみにしていた命の洗濯が出来ないなんて冗談じゃないと思いつつ、表面上は謙虚な姿勢で辞退する。

「駄目よ。色々お話聞かせてください」

 ナァシフォが逃がすまいとガイガの腕を取ってせがむ。その様子にシトヤは一瞬顔を顰めた。

「まあそれはそれとして、まずはこれを片付けたいんだが。どこに持っていけば引き取って貰えますかな?」

 たしかに重要な案件ではあるが露骨にガイガは話を逸らすようにライガンに尋ねる。

 どこの街でも魔物の死骸は貴重な資源で魔界ハンターなどから高値で引き取ってくれる市場や店があるものである。

「馬車を用意させよう。お前達も手伝ってやれ」

「はい」

 集まっていた人々はライガンの一言で各自準備に動き出す。

 あれよあれよと言う間に話は進みガイガはもはや流れに乗るしかなかったであった。


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