第4話 イーセの国

 海風に守られた古くから有る聖地の国「イーセ」、山と海に挟まれた縦長の平野部に広がる国である。

 平野部にある丘に城が築かれ守護代の一族が住み、周りに広がる平野部には街が広がり港を備えている。港には多くの漁船が停泊し食料生産に貢献しているだけでなく、テートとの交易船もたまにやってきてブルーマーなどの今では限られた地域でしか生産できない工業製品のやり取りなどが行われ、今の時代に7万の人口を誇る国である。

 その豊かな国イーセは強化コンクリートで固められた白壁に囲まれていた。高さにして10メートルもあり砲弾すら防ぐ。魔界からあぶれてくる魔物のイーセへの侵入を防ぐ為に今よりずっと工業力があった時代に作られたもので、今もイーセを守っている。

 北東部の外壁の上で歩哨に立っていた若い兵士がおかしなものを見つけた。

「ん、あれは何だ? 

 タクさん、あっちから何か近づいてきます」

「どれ」

 もう一人の30代くらいのベテランの風格が漂い出す兵士のタクが直ぐさま装備の望遠鏡で見ると羽百足が地平より滲むように表れ、地を滑るように向かってくるのが見えた。

「羽百足があんな低空を!!!

 確かライガンさんが姫様探しで来ていただろ、急いで呼んで来い」

 タクは慌てふためいて若い兵士に指示を飛ばす。

 これまでも魔界から魔物があぶれ出て向かってくることが有り、タクも何度か遭遇したことが有る。だがそれは角猪や赤熊くらいでヌシクラスの羽百足なんて初めてである。ここにいる数名の兵士では迎撃はおろか追い返すことすら危ういと思っている。そのベテラン兵士のタクの不安が伝わったのか若い兵士も慌てて駆け出すのであった。

「分かった」

 

「どうした」

 近くの待機所にいたライガンは一人の若者を引き連れてやって来た。

 ライガンは巌のような顔に歴戦の傷が刻まれた男で、齢50前後と思われるがその体は未だ鋼鉄のように鍛え上げられていた。服装こそ鎧どころか篭手すら付けていない平時の姿だが腰には大剣を差していて歴戦の戦士を彷彿させる。

「ライガンさんあれを」

 タクが羽百足が向かってくる方を指差す。

「うむ。大弓を持て」

 羽百足を一目見てライガンは命令した。

「はい」

 若い兵士は急いで砦に設置してある大弓を重そうにして持ってきてライガンに渡した。ライガンは若い兵士から渡された並の男ではびくともしないような大弓を一息で引いた。そしてぎりぎりと近付く羽百足に狙いを定める。

 この大弓でも羽百足の甲羅を真正面から貫いて一撃で仕留めるのは難しい。何発も打ち込む必要がある。だがライガンは焦らない。弓の威力が十分に発揮できる距離まで引き付け一撃にて手傷を追わせ追い払うつもりである。魔界ハンターでなくイーセのサムライであるライガンにとって魔物を仕留める必要はない。イーセを守れればいいのである。

 あと少し

 あと1メートル

 ライガンが弓を放とうとした瞬間羽百足の頭の部分が捲られた。

「待って待って、私よ私よ」

 捲られたところからはブルーマーに乗ったナァシフォが表れた。みんな大物を見て驚いてくれるかなって思っていたナァシフォだったが、驚くどころが外壁の上が大騒ぎになっているのを見てナァシフォが慌てて羽百足の甲羅を捲って呼びかけたのだ。

 内臓とか肉を削ぎ落とされた羽百足の甲羅の頭の方をナァシフォがブルーマーの上に乗っけ、引き摺らないように尻尾の方はガイガが担いで運んできたのである。

 慌てるナァシフォの顔を見てライガンは無事で良かったと胸を撫で下ろしつつお目付けとして雷を落としてやらねばと思うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る