第2話 少女の自信と度胸と優しさ
少女はガイガを一気に自分の方に引き寄せた。その瞬間ブルーマーの重量バランスが変わり失速したのか落とし穴に嵌まったかの如く落ちた。
「腰に掴まって」
風景が上に流れていく中ガイガは言われるがままに少女のまだ細い腰に遠慮がちに手を回ししがみつく。
少女は落下中であるというのに冷静であった。手が自由になると両手でブルーマーにしがみ付きロデオの如く暴れまわるブルーマーを制しようと挑む。
「振り落とされないようにもっとしっかり掴まって」
少女に叱咤されガイガは振り落とされないようにしっかりと少女にしがみ突き、少女の柔らかさと体温を感じてしまう。まずいかなと思って体を少し離そうかと思った瞬間にはブルーマーは急加速しガイガはそれこそ振り落とされないように更に密着するようにしがみ付いた。
大の大人が少女に必死にしがみ付く光景は滑稽に映るが当事者にとっては笑えない状況であった。
失速して垂直降下をしたと思えばいきなりの急上昇。右に左に旋回を繰り返す。三半規管の訓練をしているかと思えるほど振り回される。目前まで崖が迫ってきたときには絶叫を上げそうになった。
己で操縦するのならまだスリルを楽しめるかも知れないが人任せに味合わせられるスリルは兎角怖いものである。
何度目かの崖への激突をスレスレ回避した後、このままでは共倒れとガイガが少女の腰に回した手を離そうかと考え出したが、ブルーマーはコントロールを取り戻し空を安定して飛び出した。
「ふう。もう大丈夫よ」
少女はガイガを安心させる為か振り返って笑顔で言う。
この少女はガイガに手を離せは兎も角、背中に背負った重い荷物を投棄しろとも言わなかった。立て直せる自信と度胸があったのかも知れないが、旅人にとって荷物がいかに大事であるか思い至ってくれた思いやりに心打たれる。
「いい腕だ」
あそこから立て直せるとは思わなかったガイガの口から感嘆が溢れた。
「ありがとう。この後はどうして欲しい?」
「まずは番傘を探してくれないか、大事な商売道具なんでね」
少女は助けただけでなくガイガの手助けすらしてくれるようだ。そんないい娘に図々しいことにガイガは遠慮無く頼み事をする。だが逆に下手に遠慮するより清々しいとも言えた。
「分かったわ」
少女も二つ返事で了承してくれる。
少女はブルーマーを一定の高度で付近を旋回させ、少女とガイガの二人で目を皿のようにして森を見下ろす。
魔界の森は苔のようなものが地面をふわふわに文様を描いて絨毯のように覆っている。木々の幹の部分も半分くらい苔類に覆われていて、かつて苔を使った枯山水にも通じる美しさがある。
その美しき絨毯は落下してきた獲物を優しく受け止め、受け止めるがままに飲み込んでしまう恐ろしさを秘めている。底なし沼の苔バージョンとも言え苔類とて油断してはいけないのが魔界である。
「あれじゃない」
ほどなくして少女は目がいいようで苔の絨毯が窪んでいる場所を見付ける。その窪みの中心には番傘がめり込んでいるのが確かに見えた。だが言われて凝視するから分かったのであって普通は見逃してしまう程度である。
「いい目をしているな。ならあそこに降ろしてくれないか。礼は後でするよ」
「了解」
少女は素直にガイガの言うように番傘の傍に降りるのであった。
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