第4話 新パーティ結成!
アムリタさん、もといリタさんと協力関係を結ぶこととなってすぐ。俺達は次の依頼をこなすため、ギルドへ向かうことにした。
……はいいのだが。
「えっと、リタさん? 一つ質問いいかしらん?」
「何? 気になることでもあるのかしら?」
「色々と事情はあるんだろうけどさ、その仮面はどうかと思うよ」
ギルドへ行くと言ってから、リタさんはこの調子で変な仮面で顔を隠し出した。
一体どこのお土産屋で売っているのか、そもそもお土産で貰っても微妙な反応しかできないような、とても奇抜なデザインをしている。
「しょ、しょうがないでしょ。私、顔バレするワケには行かないし……」
言いながらリタさんは、更にフード付きのコートを羽織って、体を隠す。そうしてでも見られたくない人がギルドにいるのだろう。
しかし無理もないことだ。
今俺達が拠点としている街の名は「フィステリア」。大陸中で二番目に大きい王国であり、冒険者養成施設や装備屋などの施設が多く設置されている。
更にはこの近くには下級の魔物が多く潜む平原がある。まさに新米冒険者達にとってうってつけの街なのだ。
そのためこの街には『はじまりの街』という別名が付けられている。それほどにも、この街で学び巣立つ冒険者の卵が多いのだ。
そして、恐らくリタさんもこの街で剣術を学んだ冒険者の一人。歴から言って半年程か、まだまだ浅い。
とどのつまり、リタさんを追放したパーティの人達はまだこの街にいることになる。
「まあ、リタさんがそうしたいのなら俺はもう何も言わないよ」
「そうしてくれると有難いわ。ほら、早く行くわよ」
余計に目立って仕方ない、とはとてもじゃないが言いにくい。
けれど、追放された相手と再会する時にどんな顔をしたらいいか分からない。
***
閑話休題。リタさんの奇抜な格好についてはアレだが、俺は気にせずにギルドへと直行した。
この街のギルドは酒場と併設されており、今日も沢山の冒険者や酒飲み達で溢れかえっている。
酒飲み達はジョッキに注がれた酒を豪快に飲み、冒険者達は今日挑む依頼をどれにするのか、仲間達と議論している。
幸いにも、今日はラトヌス達の姿はない。にしても、朝が始まって間もないのにこの大盛況だ。
今日も受付嬢達が慌ただしく働いている。彼女達の頑張りを見ていると「俺も頑張らないと」って気持ちになる。
で、リタさんは相変わらず仮面姿のままで変わらない。
「ゴブリン退治に、コンドル退治……やっぱり、あまり大きく稼げる感じじゃないわね……」
「まあ初級の魔物ならこの程度だろうな。ミノタウロスはここだと異例中の異例だし」
魔物が危険な生き物であることは当然のことだが、フィステリア平原にいる魔物の危険度は低い。
ここで生計を立てるというのは非常に難しいが、新米はここで経験を積みつつ、防具や次の拠点へ移動するための費用を貯める。
彼女の目的である5兆ゼルンを稼ぐには、最低でもミノタウロスよりも危険度の高い魔物を倒していくしか方法はない。
しかし一体何故、あんな上級の魔物がこんな平原に現われたのだろうか……?
「――さん、エリックさんってば!」
「え、あ、ああ! な、何かな?」
「このゴブリン退治って奴、他の依頼より報酬金高いの。これ、引き受けない?」
振り返ると、リタさんは既に依頼を選んでおり、手にはゴブリンの絵が描かれた依頼書を持っていた。
確かに現在の平原の状況は平和そのもの。(ミノタウロスの一件を見るに本当か疑うけれど)
他の依頼を見るに、1番報酬金が高いのはゴブリンの討伐だった。
***
奴らの住処は、平原の少し東側にある森の中。ゴブリンはこの森に住み、ここで暮らす動物達を狩り根絶やしにしている。
ゴブリンの戦闘力は大して強くない。攻撃の方法が実に単調で、動きさえ読めば簡単に封じ込めることができる。
それだけで終わればスライムと同等の雑魚なのだが、ゴブリンには高い報酬金が懸けられる理由がある。
「ねえ見てエリックさん、アレ!」
「居るねぇ。ざっと1、5、17体くらいか?」
リタさんが指差した方に目をやると、そこには今日狩ったであろう獲物を囲んで騒ぐゴブリンの姿があった。
数はざっと17体くらいか。そう、コレがゴブリンを脅威たらしめる理由である。
「一匹だけじゃ弱いけど、それをカバーするように群れを成す……。図鑑で読んだ通りだわ」
「死角からの連続攻撃に気を付けるんだ、行ける?」
「勿論。回復は任せたわよ、エリックさん」
言葉を交し、俺達は息を合わせてゴブリンの群れに飛び込んだ。
突然お祭り会場に現われた冒険者に、ゴブリン達は驚いて鳴き声を上げる。その隙に、目の前にいたゴブリンを斬る。
肉を切り裂く感触が、剣先を伝う。やっぱりコイツだけは慣れない……。
そんな調子で、リタさんは混乱に乗じてゴブリンを三体纏めて斬り裂いた。
だがそんな快進撃はそう長くは続かない。
「リタさん、右に避けてッ!」
草陰の中から漂う殺気。俺は咄嗟に叫ぶ。
すると次の瞬間、草陰の間から無数の矢が飛び込んできた。
「キャッ! な、何コレ、矢?」
「マズイ、弓兵もいる……! 一旦退避だ!」
指示を出しつつ、俺とリタさんは一度ゴブリンの群れから抜け出す。
しかし同胞を殺したのだ。怒ったゴブリン達は武器を手に、俺達を執拗に追いかけて来る。
草陰からも、ザワザワと草木の音が鳴り響き、時折矢の雨が降り注ぐ。
想像していたよりも遙かにゴブリンの数が多い! このままでは逆に俺達がやられてしまう!
「畜生、こうなりゃモノは試し!」
踵を返し、俺はゴブリンの群れを振り返る。背が低い分足が速いらしい、振り返ればすぐそこにまで迫って来ていた。
だがこれでいい。一か八か、ゴブリンの攻撃をバックステップで回避しつつ、着地と同時に地面の木の根に触れる。
「リタさん、避けてッ!」
リタさんに警告しつつ、木の根に魔力を送り込む。
刹那、魔力の注ぎ込まれた木は急成長し、まるで生きているかのように暴れ出した。
幹は魔力を吸い取ってブクブクと太り、隣接している木々を押しのけて大木に成長していく。
更に木の根や胴体から無数の枝を生やし、触手のようにゴブリン達に絡みつく。
「な、何コレ……!」
「リタさん、今だッ! 一気にたたみ掛けて!」
「わ、分かったわッ!」
リタさんは肯くと飛び上がり、剣の峰に手を当てながら詠唱を開始した。
「凍れ、《フリズ》!」
すると、峰の方から剣に霜が付き、白い煙のようなものが現われる。
「全部纏めて、斬り捨ててやるわ! 《フリージング・ストラッシュ》ッ!」
技の名前を詠唱し、リタさんは地面を蹴って飛び上がる。
そして、氷の力を纏った剣を振り回し、ゴブリン達を大木ごと斬り割いた。
氷魔法の力か、斬られた大木はゴブリン諸共凍結し、
「チェック・メイトよ」
彼女の決め台詞と共に、大木諸共爆散した。
爆散した氷の粒は太陽の光を反射させ、凜と佇むリタさんの姿を煌びやかに演出していた。
「ふ、ふぅ。何とか倒せた……やっぱり掃討はまだ慣れないや……」
魔力を使いすぎたせいで、気を抜いた瞬間に全身の力が抜ける。俺はそのまま後ろに倒れ、膨張した木の根に腰掛けた。
「それよりもエリックさん、説明して!」
「おっと、な、何を?」
「さっきの動き出した木、あれも魔法の仕業なの?」
その答えを言うのであれば、イエスだ。しかし俺自身も、どうなるか全く予想できなかった。
「ああ。ミノタウロスを倒した時、雑草が急に生長したから、まさかと思ってね。俺の魔法の効果範囲がどこまで効くのか試したんだ」
「その結果が、この大木ってこと……?」
言いながら、リタさんは急激に成長した大木に触れる。
突発的だったから気にならなかったが、リタさんが並ぶと非常に大きく見える。
全長4メートル以上だろうか、たったの一瞬でここまで急成長するとは……。これは少し手加減を知っておかないとマズイな……。
「……まだまだ不思議な所はあるけど、結構使い勝手は良さそうね」
「そう、だね」
まだこの能力の真価は未知数。回復術しか能の無い俺でさえ、限界があるのかすら分からない。
ただ唯一分かるのは、この能力は人も簡単に殺すことができる。もし加減できずに人間を回復させすぎたら――
「エリック、さん?」
「……いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないな」
「?」
「ごめんリタさん、それじゃあそろそろ帰ろうか」
こんなこと、リタさんに背負わせるような事じゃない。この苦しみは、俺だけが全部背負えばいい。
***
そうして依頼も達成し、無事に街まで戻って来た俺達は、一度態勢を整えるために武器屋を目指していた。
「あれー、確かこの辺りだったと思うんだけど……」
リタさんは辺りをグルグルと見渡しながら言う。俺も一緒になって探すが、しかし武器屋らしい店はどこにもない。
あっても、美味しそうな食事処しか見当たらない。道具屋もなければ、防具屋すらもない。
「あのー、リタさん? ここ10分くらい探し回ってるけど、見当たらないね」
「そそ、そうかしら? 本当にここにあるはずなのよ!」
と彼女は自信満々で言っているが、俺の記憶からしても、少なくとも今居るのはレストラン街だ。
とどのつまり、道に迷った。
「もしかしてリタさんって……方向音――」
「違う! こ、これは偶々……道を間違えたとかで……その……」
しまった、図星だったのかめちゃめちゃ口ごもっている。
でもクールな印象のある彼女がここまで焦っている姿には、何か萌えのようなものを感じる。
などと心の中で思っていたその時だった。
「テメェ、待ちやがれェ!」
「今度と言う今度は逃がさんぞクソガキがァ!」
遠くからともなく、ドスの効いた男の怒声が響き渡る。その物騒な怒声に、街行く人達は後ろを振り返る。
「ん?」
「何かしら?」
当然俺達も後ろを振り返る。するとその刹那、俺の腹に衝撃が走った。
「うおわぁっ!」
「ちょっと、どこ突っ立ってるですか!」
聞こえてきたのはややハスキーな少女の声。ゆっくりと下に目をやると、果たしてそこには黒髪ボブの少女がいた。
更に視線を上げると、いかにもゴロツキですといった見た目をしたスキンヘッドの筋肉ダルマ達が現われ、少女を指差した。
「いたぞ! あそこだ!」
「ああもう、オッサンのせいで追い付かれたです!」
「オッ……」
まあそんな歳だけれども、元はと言えば君がぶつかってきたんじゃあないか?
しかし彼女、一体あの男達に何をやらかしたのか。とにかく、嫌な予感しかしない。
「むむむ~、こうなりゃヤケです!」
少女は頭の上に電球を浮かべた。かと思いきや、少女は俺の背中に回って叫んだ。
「お願いします、ボクのこと助けてください!」
「え、ちょ、ちょっと⁉」
悪い予感的中! 少女は俺を盾にした。
「ちょっとアンタ、いきなり現われて何よ! どうせアンタが何かしでかしたから――」
「お願いします! ボク、本当に何もしてないです!」
リタさんに詰められるも、少女は必死に弁解している。顔を見ても、嘘を吐いているようには思えなかった。
「おい兄ちゃん」
そうこうしているうちに、ゴロツキ達は既に俺達の回りを包囲していた。
人数的に4人、そのうちの一人が声をかけてきた。威圧感が凄い……。
「な、何です?」
「そのガキンチョをオレ達に引き渡してくれや。ソイツはウチのシマで粗相してなァ?」
「……そのケジメを付けてもらう、って事かしら?」
「話が早いじゃねえの、嬢ちゃん。とにかく、ソイツには身体でケジメを付けて貰わねえと困るのよォ」
ゴロツキの男はニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、背中にいる少女に手を伸ばす。
少女はガクガクと震え、俺の服の裾を握る。
「エリックさん、ここはこの子を引き渡した方が――」
「…………」
確かに俺達と少女は関係がない。ついさっき出会ったばかりだ。
けれど、もし彼女が本当に無実で、男に引き渡したら? どの道、彼女が酷い目に遭うことは確実だ。
関係ないからってだけで見逃すのか? 否、少なくとも俺には、そんな非情な選択はできない。
「断る、って言ったらどうする?」
勇気を振り絞り、俺は男の手を払った。
「ほぉ、何だい兄ちゃん? 良い度胸じゃあねえの?」
手を払われたことに驚きつつも、ゴロツキは仲間に目を配りながら指の骨を鳴らした。
今ので完全に、男達の怒りを買ってしまったようだ。
「ちょ、ちょっと! 何余計なことしてんのよ!」
「ごめん、でも見逃すワケには行かなかった……」
「仕方ない、これで死んだら絶対恨むからね!」
そう言いながらも、リタさんは剣を抜いた。なんだかんだと言いながらも、協力はしてくれるらしい。
いや、巻き込んだのは俺の方だけれど。……後でお詫びに美味しいものでもご馳走しよう。
「おうテメェら! コイツらまとめていてこましたれやァ!」
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