第15話 神と魔神
男がデモサリウスに杖を向けた時、頭上から複数の攻撃魔法が注がれる。煙幕が張られる中、デモサリウスは何者かに体を引っ張られる感触を得る。
「待たせてすまない、息子よ」
「おや、じ……」
甲冑のような表皮に巨大な角。デモサリウスと似た姿だが、闇のように黒い体の息子に対して、父親は全身が黄金に輝いている。
「後は我々に任せろ」
デモサリウスが後方を見ると、魔王軍が波のように押し寄せてくる。数万はいるであろう兵士たちが、雄たけびを上げて突き進む。
「おやじ、敵はたった一人だ……だが、魔法も物理も効かない。ただのスキルじゃない、気を付けるんだ……」
「そのようだな」
魔王による複数の魔法でも、男はダメージを負っていない。
「これはこれは、魔王様自らお越しとは。それに沢山のゴミも連れて。手間が省けましたよ、ありがとう」
男が天に向かって祈りを捧げる仕草をすると、上空に巨大な光の輪が生まれる。あれは……トレイル王国を襲った光だ……!
「ダメだおやじっ!! 今すぐここを離れろっ!!」
「もう遅いですよぉ。我がスキル『神落とし』は神の力そのもの。さあ、みなで裁きを受けなさい」
空が落ちてきたかのように、光の柱がデモサリウスに、魔王軍に迫る。テレポートも使えず、深手を負った俺ではもう攻撃範囲から逃れることはできない。せめて父だけでも生き延びてくれれば……。
眩い光が全てを飲み込んでいく。音すらも聞こえないのは俺がもう死の淵にあるからなのか。静かだ。これが死か……。
懐かしい温かさを感じる。心地が良い。ただ、体の痛みは消えない。
痛い? 死んだのに? そんなことあるのか……。
「無事か、デモサリウス」
父の言葉でデモサリウスの意識は現実に引き戻される。倒れたデモサリウスに覆いかぶさるようにした父の顔は苦痛で歪んでいる。
父は立ち上がるが、脚に力が入らないようでふらついてしまう。ぼとぼとと血が流れ落ちる。背面を中心に相当な深手を受けたようだ。
「なんで逃げなかったんだ、おやじ……」
「子を捨てて逃げられる親なぞいるものか」
「それでも……おやじが死んだら魔族は、もう……」
次第に周囲の土煙が晴れていき、二人は巨大なクレーターの中にいることが分かる。近くにいたはずの魔王軍の兵士たちの姿はない。
「先ほどの攻撃で我が軍も壊滅状態だ。これは完全に私の落ち度。軍での戦いになると考えたが誤りであった。よもや、神の力そのものを宿す人間が現れるとは……」
「おやじ、あれはスキルなのか……? 破壊力も防御力も、尋常じゃない……!」
クレーターの淵に男が現れる。しきりに首を振り、操り人形のような奇怪な動きをする。
「よく聞け、我が子よ。神が人間に与えるスキルは、奴らの力の一端にすぎぬ。真の神の力の前には、我々魔族も無力だ」
「そんな……くそっ……!」
「だが、こちらにも対抗手段はある」
足元の血溜まりをびしゃりと踏みつけ、父デモグラシスは力をふり絞り直立する。
「我らが始祖、魔神の力。神に対抗しうる
「魔神……!? 始祖だって……!?」
デモサリウスは初めて聞く言葉に大いに戸惑う。その時、男が二人の姿を捉える。
「あれぇ、まだ生きてるんですかぁ? ほんと、ゴキブリ並みの生命力ですね」
男の杖から、デモサリウスの腕を吹き飛ばした光線が発せられる。満身創痍の親子に避ける術はない。
「
魔王デモグラシスの腕から七色に輝くオーラが生み出され、巨大な剣状に伸びていく。迫る光線は一刀両断され、あらぬ方向に着弾する。
「なんですかっ、それはっ!! お前たちゴミに神の力が通じないわけがないっ!!」
予想外の抵抗にジタバタと地団駄を踏む男。
「おやじ、それは……」
「神の力と同様に、魔神の力も本来この世界にはあってはならんものだ。デモサリウス、いつかお前も魔神の力を得る時が来よう。破滅ではなく、世界平和のためにその力を使うことを祈る」
七色の剣を構え、脚に力を入れる父。怒り狂う男は天に向かい叫ぶ。
「ファピアノ様のお力をお示しくださいっ!!」
光の輪が三人の頭上に浮かび上がってくる中、父は息子に最後の言葉をかける。
「デモサリウス、二度とこのような災厄を引き起こしてはならん。スキルに、神には常に警戒しろ。これからはお前が魔王だ。後を頼む」
父は限界まで収縮した脚の筋肉を解放し、男に向かい凄まじいスピードで突撃する。
「ばぁかめぇ!!」
男の全身から光が針のように突き出してくる。魔王デモグラシスの肩が、足が、わき腹が吹き飛んでいく。それでも魔王は止まらない。
「おやじぃぃぃ!!」
魔王と男が交錯する。一閃の元、男は真っ二つに両断され、同時に頭上の光の輪も消滅する。
デモサリウスは失った片腕の根本を押さえながら、父の元へと飛翔する。
男のものと思われる
「生きてる、よな……? なぁ、おやじ、返事をしてくれよ……」
返事はない。父も既に絶命しているのは明白だった。残っていた亡骸も、ボロボロと崩れていき、砂のように消え飛ぶ。
誰にでも寛大で、時には厳しさも見せたが、その中には慈愛があった。デモサリウスが、魔族が愛した魔王は死んだ。
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