第14話 神のスキル

「ユーナ! ユーナ! 聞こえるか!」


 テレパシーに応答があるまでの間が永遠に感じ、デモサリウスの焦りは募る。


「デモサリウス! 大変なことが起こってる……! 仲間たちが……こんなことって……!」


 ユーナがここまで取り乱した様子を見せるのは初めてだった。無理もない、デモサリウスとて冷静ではいられない。


「すぐにそちらに行く」

「うん、おねが……」


 通信が途切れる。帝国側が封鎖したのだろう。トレイル王国が射程内に入ったことを示している。

 事は一刻を争う。デモサリウスはテレポートをトレイル王城に設定し発動させ、現れた黒い霧に体を押し込む。しかし、すり抜けてしまう。


 転移魔法まで封じられている……! デモサリウスは王城から離れたトレイル王国内の野原に転移先を変更し再度試みる。

 しかし結果は同じ、空しく闇をすり抜けるだけだ。王国全体が完全に外界から遮断されたとみていい。


「くそっ!!」


 デモサリウスは蝙蝠コウモリ状の巨大な翼を広げ飛び立つ。転移魔法が使えない以上、物理的に移動するしかない。


「おやじっ! 聞こえるか!?」


 滑空しながら父である魔王に通信する。


「息子よ、人間側で大きな動きがあったようだな」

「ああ、侵略のペースが尋常じゃない。このままの勢いだと俺たちの領土も危ういぞ」


 デモサリウスは決して嘘を言ったわけではないが、ユーナのためという意図も大きかった。


「うむ。静観できる状態ではないのは確かだ。私も軍を率いて向かおう」


 息子の想いをどこまで見抜いていたかは分からないが、魔王も事の重大さは理解している。


「助かる。俺はもうすぐトレイル王国に着くが、急いでくれ!」


 その時、彼方の上空に巨大な光の輪が出現し、そこから柱状の光の束が地上へと勢いよく降下していく。

 視界を奪うほどの閃光、それに遅れて轟音がビリビリとデモサリウスの体を震わせる。

 あの方向は……トレイル王国……!


「ユーナ! ユーナ!」


 デモサリウスは応答がないことは分かりつつ、テレパシーでユーナを呼び続ける。光の柱が消えた後には粉塵が高く、広く舞っているのが見える。


「!?」


 地上から一筋の光線が照射され、デモサリウスに直撃する。既にプロテクト・ウォールもプロテクト・ソーサリーも発動済みなのに、全身に痛みが走り、デモサリウスは落下していく。

 なんとか体勢を整え着地するが、少なからずダメージを負ったことに戸惑う。


 俺に傷を負わせる存在がいるのか…!? デモサリウスの目線の先には一人の人間が立っている。

 白の法衣に縦に長い白の帽子を被った、神官風の男。奴が俺を攻撃したのか?


「おやぁ、頑丈ですねぇ。流石は魔族、人間のように脆くはないんですねぇ」


 感情の宿らない声でぶつぶつとしゃべる男。間違いない、先ほどの攻撃も、そして人間たちの国を滅ぼして回っているのも、こいつだ……!


「なんなんだ、お前は!」

「私ですかぁ? 最高神ファピアノ様の遣い、とでも言いましょうか」

「何故こんなことをするっ!?」

「ファピアノ様からお告げがあったのです。このスキル『神落とし』で、神の敵を滅せよとねぇ」


 男は虚ろな目で、時々頭を振りながら答える。通常の物理や魔法の枠を超えた巨大な力。神の力そのものと言っていいスキル。こんなものが存在するのか……!?


「同族まで手にかけることが、神の意志なのかっ!」

「彼らのことですかぁ? 帝国に逆らう者、ファピアノ教を信じない邪教徒は神の敵ですからぁ」

「くそったれめ……!」

「あらあら、魔族は品もないですねぇ。神の裁きを受け入れなさい」


 男は手にした杖をかざし、再度デモサリウスに向けて光線を放つ。高速で迫る光を、デモサリウスは紙一重でかわす。


バニシング・フレア煉獄鳥!」


 デモサリウスの頭上に出現した火球は瞬く間に巨大化し、炎の鳥を形作る。鳥の鳴き声にも聞こえる風切り音を連れて、男へと直撃し、爆風が巻き上がる。

 デモサリウス渾身の一撃だった。一刻も早くこいつを倒し、ユーナの元へ行かなければならない。


「おやおや、魔族の力もそんなものですかぁ」


 土煙が晴れ、男がつまらなさそうな声を上げる。男は防御系魔法を使っている様子はないにも関わらず、デモサリウスが全力で放った一撃に傷一つ負っていない。


 どういうことだ……!? 仕掛けが分からない以上、無暗に接近するのはリスクが高いが、今のデモサリウスには一時の時間さえ惜しい。


「パワーアップ・バーストっ!」


 デモサリウスは最強の攻撃力強化バフをかけ、真っ赤な闘気をまとい男に突進する。


「うおおおぉぉぉぉっ!!」


 人間が直撃を受ければ消し飛ぶほどの威力を持つ拳が、男の顔面にヒットする。しかし……手応えがまるでない。


「野蛮野蛮野蛮。やはりファピアノ様のおっしゃる通り、魔族は滅せられるべきなのです」


 男は気味の悪い笑みを浮かべると、全身から幾筋もの光を放射する。

 

「くっ……!」


 デモサリウスは脚にありったけの力を込め後方へ跳躍するが、距離を詰めたことがあだとなり、完全には避けられない。

 

「あなたたちの血も赤いんですねぇ。おかしいなぁ、私たちと同じだなんて。まぁ、邪教徒の血も赤いですし、どうでもいいんですけどね」


 デモサリウスの左腕は消失し、根本から赤い鮮血がほとばしる。俺はこいつに殺られるのか……? ユーナの無事も確かめられずに……? ユーナ、ユーナ!!


「さあ、楽にして差し上げますよ」

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