緑の目をした怪物
甘糖むい
第1話
私は婚約者である王太子に殺された。
嫉妬心に駆られてナイフを振り上げて襲いかかった私を、彼は一振りで切り捨てたのだ。
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あの時の私は学園に入学したばかりとはいえ、今考えるとまだまだ幼い子供だった。
幼い頃から王子の婚約者として両親や周りの大人に甘やかされて育った我儘な子供はそれはそれは傲慢で高飛車な可愛さも何もない令嬢だったことだろう。
王子が一度たりとも私に会いにくるどころか、カードすら送って来なかったのが何よりの証拠だ。
そんな私は入学して早々に、問題を次から次へと起こした。
馬車のおりる場所が遠いだの、昼食のメニューが貧相すぎると言った横柄な不満を生徒先生、子供大人関係なく怒鳴りつけ、物に当たった。
両親はそれこそ王子の婚約者に相応しいお前に必要な事だとと、子供を煽てるだけ。
癇癪を起こせば、翌日には校門から1番近い場所は私の馬車置き専用となり、昼食にはフルコースが並ぶ。
思い通りにならない事が少しでもあれば、王兵を呼びつけるようになるのはすぐだった。
毎日王子を見つけると、私は王子の腕に自分のを絡ませてしなだれ掛かる。自慢の美貌で誘惑し、甘い言葉で王子の関心を引こうと躍起になった。
そうやって王子を追いかけていると、私は一人の女生徒に気がついた。
どうやら側近の方々に気にいられる何かがあったらしく、親しげに笑っていた。彼女が声をかけられている事が増え始めると王子を取られるかもしれないと、私は不安にかられた。
不安はやがて確信になり、憎しみに変わるのに時間はかからなかった。
気がつけば彼女は私よりも王子と側近のそばにいた。
自分に向けらことのない王子の笑みと近い距離で笑う編入生が気に入らなかった。すぐに彼女を呼び出して、私は自分の気がすむまで、醜い言葉で彼女を言葉の限り罵った。
編入生が耐えきれなくて泣いた時、私は歓喜に震えた。
彼女に勝ったと言う喜びは一度味わったら忘れられない甘味だった。
編入生は凝る事なく王子のそばにいた。
婚約者の自分でさえ見ることのない王子の新たな一面を引き出す編入生を目するたび、私は執拗に嫌がらせをした。
初めは編入生の机に落書きをしたり、花瓶を置いてやった。
惨めな姿で授業をうけさせ、教科書を破ったり、階段から突き落とそうとしたり。
段々手段は酷いものを選ぶようになっていった。
事が大きくなり始めると王子達に邪魔をされはじめた。
私は傷だらけの編入生をさらに傷つける事にやっきになっていく。
あまりにも我慢出来なくて、他の令嬢に髪を切らせた事もあった。そんなことばかりしていたら、人々は私を悪役令嬢と囁き、嫌煙し始めたが、私は止まらなかった。
巧妙な罠をはり、彼女に悪事を働く事が生きがいだった。
人を踏み躙る言葉をつきつけて、笑う。その時ばかりは気分がよくて、けれどたちまちその気持ちは緑の炎に染まっていった。
編入生の頬を打った現場に王子たちが現れて、私はそのとき初めて王子が機会を伺っていたことに気がついた。
編入生を護るように私に対峙した王子は、側近の一人に肩を抱かれて震える彼女に優しい眼差しを向けていた。
悔しかった。
誰よりも1番近くであろうとした人に必要とされないことはのによりも悲しかった。
ちりっ、と
心のどこかで火がついた音がした。
一度も私を見てくれない王太子など消して終えと、緑の目をした怪物が笑ったのを私は確かにみた。
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「……ぁあああ!!」
突然、悪役令嬢は、両手にナイフを握りしめて王太子に向かって大声をあげて襲いかかった。
「王子っ!」
編入生が、切羽詰まった声をあげるが、
1番近くにいた悪役令嬢を止める事は出来ない。
誰もが悪役令嬢に刺される王太子の最悪な姿を想像した。
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………え?
血飛沫が飛んだのと、私が声を上げたのは同じだった。
かひゅっと喉から息が漏れる。
顎から下、体の真ん中を真っ直ぐに切り付けられていた。
血溜まりに寝そべる私を、血塗れの王子が無機質な顔で私を石ころをみるように見下ろしている。
……ぁあ、やっと私を見てくれた。
私は死に追いやられてもなお王子の事を考えながら、短い人生を終えた。
グリーンアイ。
美しい瞳を持つ彼の、緑の双眸がやけに印象に残った。
緑の目をした怪物 甘糖むい @miu_mui
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