第6話 空橋を追いかける途中で

*** 



 全力で空橋を追いかけた。


 並木道を抜けると、大通りへと出る。


 絶え間なく行き交う車の走行音が耳障りだ。


 道沿いに並ぶ店々。学生をターゲットにしているのか、どこもこんな朝っぱらから開店しており、非常に視界が騒がしい。


 そのお陰で辺りを見渡しても空橋の姿を確認できない。リュック背負ったままだったし、あの足の速さなら追いつけるかと思ったんだが……。


 でも、諦めることはできない。ここで一軍女子のリーダーである空橋が離脱してしまえば、俺達の作戦自体が有耶無耶になって消滅してしまうだろう。


 というか作戦の件を抜きにしても、空橋が走り出した理由にあの場で一人気づいてしまった以上、何もせずにはいられなかった。


「……あ」


 ふと、視界の端に見覚えのある人物を捉えた気がしたので足を止め、そちらに視線を向けた。


 信号の向こう側だ。


「あれ……空橋だよな」


 ウェーブのかかった金髪女子高生。


 彼女はちょうど、大通りから少し逸れた人通りの少ない路地に入って行った。


 現在信号は、残り時間の表示を見るに赤になったばかりの様子。


 このままでは絶対に見失ってしまう……信号を待ちつつも、忙しなく足踏みしてしまう。


 そんなことをしていると、後ろから声をかけられた。


「あの女子、追っかけてんの?」


 そこにいたのは見知らぬ女子生徒だ。制服をこっぴどく着崩し、市販のおしゃれな黒ジャージを羽織っているため、一瞬うちの学校の生徒だと分からなかった。


「そうだけど……」

「なら、急ぐ必要ないよ」

「え?」

「あの道行ったら公園しかないから。あたしがよくサボりに行ってる公園」


 道の先を眺めつつ、彼女はラメでキラキラ輝く目元を瞬かせた。


「そ、そうなんだ……ありがとう」

「いいのいいの、それより佐々木は最近どうなの?」

「え……なんで俺の名前」


 そう言った途端、彼女は目を大きく見開いて絶望の表情を浮かべた。小さく開かれた口は、何か言いたそうに震えているものの言葉は出てこない。ちょっと待って、どういうことだ⁉︎ 俺、この子のことなんて知らないはずなんだけど……。


 俺がなんて声をかければ良いのか分からずにいると、背後でカッコーが鳴り出す。


 すると彼女は明らかに無理やりに口角を上げ、しっしと手を払った。


「ほら、行きな。友達がきっと待ってるよ」

「あ、うん……ありがとう、ごめん」


 ひとまず謝っておくことしか、今の俺にはできなかった。本当に思い当たりがないんだよな……あんなギャルメイクした友達なんていたっけ……


 そもそも友達がいないんだよなぁ。



 ***



 「……いた」


 先程の彼女が言った通り、脇道は小さな公園へと繋がっていた。ブランコとベンチがあるだけの、住宅に囲まれた小さな公園。そして空橋は、ブランコの柵にこちらに背を向けて座っていた。


 背筋を曲げ、鞄を抱いている彼女からは嗚咽が聞こえてきている。


「空橋さん……」


 恐る恐る声をかけると、一度ビクリと肩を震わせたものの、彼女はすぐにこちらに振り返った。


「佐々木君……」


 その目は赤く充血しており、メイクは落ちかけて頬には涙の跡がくっきりと残っていた。


「あのさ」

「いや、なんでもないの、本当に」

「そんなわけ……」


 あるはずがない。


 意味もなく爆走する人間がどこにいるというんだろう。


 彼女に言いたいことは既に決まっている。


 でも、上手い言い方が見つからないな……中村君達なら、きっともっと上手く出来るだろうけど。


 閑静な公園に、小鳥の囀りが響く。



「あの、もしかして気にしてるんじゃ……名前の、こと」



 多分、俺には上手にそれとなく話を進めることなんてできない。だから思い切って本題を言い放ってみた。


 すると空橋は、反射的に勢いよく立ち上がった。


「え……」


 彼女の視線が真っ直ぐに飛んできて、逸らすことを許してくれない。


 緊張でうまく頭が回らない中、必死に単語をかき集めて言葉を紡ぐ。





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冷徹美少女風紀委員長への復讐が、なぜか全方位から愛される結果になりました。 赤木良喜冬 @wd-time

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