第4話 俺がピンチ
階段を降りながら迫ってくる、野球部男子。
「テメェ、いつから見てた……?」
まずいって、これ暴力で脅されるやつだよ。他言したら殺されるやつだ……。
あ、指をポキポキ鳴らし始めた。
「今すぐこっから立ち去れ、でないと……」
坊主が目の前へとやってきてしまう。
その高身長な男に嗜虐的に見下ろされた途端、いくら足掻いても勝てないんだと確信した。
でしゃばるべきじゃなかったか……
「――立ち去るのはお前の方だ!」
ふと、廊下側からイケメンの声が聞こえてきた。不思議と声だけで、イケメン陽キャだとわかってしまう。
そこにいたのは、
背筋を伸ばした彼は、どう見ても虚勢なんかじゃない、明らかに堂々とした態度で一歩一歩こちらに近づき俺の隣に並んだ。
そして坊主の肩を、まるでそうするのが当たり前であるかのように自然な手つきで押しのけて、彼に軽んずるような視線を向ける。
「言っておくがな、お前にその女をどうこうする資格はない。なぁ?」
と、言って俺の肩にポンと手が置かれる。ちょっとやめて、こう言う時ぼっちは返答に困るんだって!
胸を張って君のような人間と並ぶ自信がないんだよ……。
突然の中村の登場に、坊主も、階段上の踊り場にいる
そんなことより。
なんで中村君がここに? そう聞こうと思ったのと同時に。
「あ、佐々木君いたぁ! 勝手に行かないでよリーダー!」
「こんなとこいたんかよ! リーダー、探したんだぜ。うし、みんなに報告すっか」
「え、あ……」
「流石だね佐々木君、早速作戦を実行するなんて。でも水臭くない? 何も言ってくれないなんて! 私達、仲間でしょ?」
「仲間…………うんっ」
頬をぷくっと膨らませた空橋が放ったその二文字が、身体全体に染み込み、心の内側に虹をかけてしまった。
仲間……ああ、そうか。
ずっと一人で勝手に、否定的に考えてたんだ。みんなは単純に、俺を仲間だと思ってくれてて、作戦のリーダーだと認めてくれてる。
だから、わざわざ学校中を探し回ってくれた。
俺が話しかける勇気が出ないばっかりに、こんな学校の端に姿を消したせいで……。
本当になんと謝ったらいいのやら。
茶化してくる陽キャ達。
「何難しい顔してんのよ」
「ちゃんとしてくれよ、リーダー!」
ああ、もう悪い方には考えていられない。
復讐作戦のリーダーとして、責任を全うするんだ。
「……結局お前ら、なんなんだ? 今、俺はお前らに構ってる暇はないんだよ。言いたいことあるならさっさと言ってどっか行け!」
俺達に順々に人差し指を向ける坊主。
すると、中村がフッと小馬鹿にするように笑った。
「言いたいこと、か」
彼は大きく息を吸い、一気に全て吐き出すように口を開いた。
「風紀委員長の風紀を乱すのは、俺達だ!」
な、中村君…………本当にそれでいいの⁉︎ めっちゃ決め台詞みたいになってるけど、明らかに君のようなイケメンが言っちゃいけない。正直シュールすぎる。……というか周囲からの評価が悪化してしまわないか心配になるんだけど。
そんなことを思っていると、ふと気づく。
しかも、風紀委員長本人の前で言っちゃったじゃん……。
「あれ、風間いないんだけど!」
空橋が階段の上にビシッと指を向けたので目をやると、確かにそこには風紀委員長の姿が無かった。
「チッ、逃げられたか……! マジでお前ら何なんだよ!」
男子生徒は俺達を一睨みにすると、風間を追うつもりなのか慌てて三階に向かった。
本当、いつの間にいなくなったんだろう。
中村君が叫ぶ前? それとも後? 後だったら気まずいなぁ……いや、それでも別にいいか。宣戦布告ができたのだから。
坊主がいなくなったことで場の空気が停滞しだすと、空橋が何かを思い出したかのように顔を上げ、こちらに接近してきた。フローラルの香水の香りがして、思わず一歩距離を取ってしまう。どうしたんですか……?
「ねぇ、佐々木君、ところでどんな作戦だったの……? それに、よく風間の場所がわかったね」
「あ、それ俺も思ってた」
中村も続き、他の一軍の皆さんも俺に返答を求める眼差しを向けてくる。
「……え? あー、それは……」
みんな、やっぱそれ忘れてなかったか……。
チラりと廊下を見やると、その薄暗い通路は相変わらず静まりかえっていた。
……本当、なんでこんなとこにいるんだよ風間。
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