第2話 委員会
チャイムが鳴ると、廊下で別れを惜しんでいた生徒たちも一斉に自分のクラスへと入っていく。俺達も例に漏れず、急いで席を探す。席はクラス替え後らしく出席番号順であり、黒板に張り出された席順を確認すると、隣の席には見慣れた名前が載っていた。
「うわ、凛音のとなりじゃん」
「うわとは失礼ね。でもせっかく隣なんだし、しばらくの間授業中に寝てたらたたき起こしてあげるわ」
「いやいや、勘弁してくれよ。俺にとっての居眠りは、日々の疲れを癒すための回復魔法みたいなものなんだ」
「ちゃんと聞いてあげないと先生もかわいそうでしょう。涼太はもっと勉強してテストの順位を上げる努力をしなさいよ。またお母さんに怒られるわよ」
「だんだん凛音が俺の母に近づいてる気がする...というか俺は平均点を狙ってとってるんだから別にさぼってるわけじゃ……」
そこまで口に出して、クラスメイトからの視線が集まってることに気付く。クラス替えで皆緊張しているようで、私語の少ない教室で話す俺たちは少し注目を集めてしまっているようだった。凛音もそれに気づいたのか、馬鹿言ってんじゃないのと小声でつぶやきながら顔を少し赤くして席についた。
俺たちが席に座って少しした後、ガララと扉を開けて先生が入ってきた。俺は去年授業を受けたことはないが、英語の先生である山中先生が今年の担任のようだった。
「みんなおはよう!はじめましての子が多いかな?このクラスの担任の山中です。1年間よろしく!」
最近四十路にはいったばかりでまだ若々しさがある山中先生の明るいあいさつで、クラスの緊張もいくらか溶けてきたようだ。チャーミングな性格が人気で多くの生徒に好かれているらしい...とどっかで聞いていた事前情報を反芻しハズレではないようだと安心していると、バッチリと先生と目が合う。
「よし、じゃあ早速自己紹介をお願いしようかな!目が合ったそこの君から!」
ウインクしながらこっちを見つめる先生を、恨みを込めて見つめ返す。今日はやっぱり厄日のようだ。こういうときは先生との目があったら負けなのに、すっかり忘れていた。というか、自己紹介は名前順じゃないのかよ
キーンコーンカーンコーン
「よし、これで自己紹介は終わったかな?配った自己紹介カードは明日までに記入して持ってきてくれよー。次の時間で委員会も決めるからやりたい人は考えておくように。やりたくない人は運を使わないようにしておくといい!」
先生の発言でクラスは笑いに包まれ、初めての休み時間へと突入する。慎太郎がニコニコしながらこっちの席までやってきた。
「いやー涼太、いい自己紹介だったな。お前のおかげで自己紹介のハードルが下がったよ。」
「やめなさい、慎太郎君。いくらカミカミだったからって、笑ったら可哀そうだわ」
2人ともいい笑顔で俺をディスってくる。
いきなり指名されてあまりにテンパった俺は、とりあえず何も考えずに喋り始めたもののあまりにも噛みまくってしまった。何を言ったのかもあんま覚えてないし、まだ顔が熱い。
「いきなりだったんだからしょうがないだろ。というかあんな当て方をして俺が不登校になったらどうする気なんだ?いや、不登校になってやる...!」
「お小遣いが減るわよ」
「そうだった!くそ、策士だな」
「先生は別に涼太をはめようとしてないわよ。勝手に自爆しただけでしょう」
10年以上一緒にいるからか、こういう時の凛音は容赦がない。おそらくこれもそのうち、俺の知らない母親会のいち話題として昇華されることだろう。南無
「それ以上はオーバーキルだぜ、夕篠さん。にしても、二人はほんとに仲いいんだな。去年は2人で話してるの見なかったから驚いた」
「そうでもないわ」
「即答だ」
「まあ学校でそんな話してたわけでもないからな。クラスも違うし。仲がいいのは、10年以上一緒にいるんだからそりゃそうなるだろ、な?」
「10年以上お世話してあげてるんだから、当然よ」
凛音の方を振り向いて同意を求めると、凛音はちょっと不満げに返してきた。凛音と話してると割とコロコロ表情が変わるから面白い。
「そういえば、涼太は何の委員会入るの?」
「え、当然何にも入らないつもりだけど。凛音は何か入りたいの?」
「私は文化祭実行委員になりたいなと思って。ほら、去年の文化祭も楽しかったし私もちょっと参加したくなったのよ」
「そうなんだ。でも前に出る系の仕事、凛音苦手じゃなかった?」
中学生の時、生徒会の選挙のスピーチをするときの顔が真っ白になっている凛音を思い出した。そういえば、セリフの多い役を変わってあげたこともあったな。
「いつの話をしてるのよ。私も高校生になって、多少は慣れたわ。それに、基本裏方だしそんなに前に出ることも多くないの」
「なるほどー頑張ってね」
「どの委員会にも入る気がないなら、涼太も実行委員になりなさいよ。私も、知らない人とやるよりは涼太とのほうがいいし」
おっと、嫌な予感がしたから話を切り上げようとしたのに逃げられなかった。慎太郎にやれば?と聞いてみたものの、あいつは去年と同じ体育委員になるらしい。逃げ場はなくなった。
「分かったよ」
「ほんと!ちゃんと指示してあげるからきびきび働きなさい」
「格差あるのかよ!まあ妥当な気もするけど!」
期待がこもった目で見つめられると断れず、しぶしぶ承諾する。昨日の俺に、今年は委員会に入るんだと伝えたらとても驚くに違いない。委員会名の下に板書された自分の名前をみて、そんなことをぼんやりと思った。
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