襲来、厨二病ヤンデレ生徒会長


「聖くん、大変! 大変だよ〜!」


 結衣が珍しく、忙しそうにドタバタと昼寝をしている俺の元にやってくる。

 俺は空返事で「あ〜?」と返す。


「今日ね、お家に生徒会長の人が来るの! 忘れ物でねっ!」


「生徒会長かぁ……」


 何も知らない奴の見方にとっては好都合だ、人に知って貰えれば脱出の手助けをして貰えるかもしれないと思うだろう。

 もし俺が何も出来なくとも、せめてSOSサインが出せれば……とも。

 でも、生徒会長は……ダメだ。


「それでね、聖くんには私と恋人同士で夏休み期間同棲してるフリして欲しいの♡まぁ、実際同棲してるんだけどね♡」


「してないっす、監禁っす」


「同棲だよね♡」


「はい……」


 やはり俺は弱い。

 あまりにも圧に弱すぎる。

 とりあえず俺は知り合いの生徒会長が来るのを待つ事にした。


─────


 ぴんぽん、と軽快なチャイムの音が鳴る。

 はいは〜いと結衣が玄関にそそくさと走り出す。

 俺はゆっくり後ろを着いていくと、玄関が開くのを待った。


「こんにちは〜!」


「生徒会長〜!! 助け」


「静かに、ね♡」


「こんな場所で何やってるのよ、マルケ……大空聖」


 生徒会長は困惑した顔でこちらを見つめる。

 俺は愛想笑いを繰り出す事しか出来なかった。


「なんで私が先生代わりの事をしなければならないのか疑問だけれど……まぁ、信頼されてるって事にしておくわ。とりあえず、話したい事があるから上がらせて頂戴?」


 生徒会長が靴を脱ぎ、玄関から歩き出す。

 俺は結衣に威圧されたままガチガチと固まって動けなかった。

 俺は弱い。

 固まっている俺に結衣が耳元で話しかける。


「恋人同士のふり、ね♡」


「ひゃい……」


 結衣に着いていくと、俺含めた三人はソファに座る。

 結衣に手を握られながら、生徒会長と見つめ合う。


「んで、何で貴方がここにいるのよ。大空聖。貴方の所にも忘れ物渡しに行ったけど、親心配してたけど? 情報があれば〜って」


「お、俺はっ!」


「私達、夏休み期間は同棲してるんです! ね♡」


「そ、そうなんですぅ〜! ほんと結衣さんってかっこよくてぇ! 俺、凄い大好きなんですよぉ!」


「普通、言うの逆じゃない……?まぁ、良いけど……貴方、連絡しなさいよ?全く……。……同棲、ねぇ」


 俺が何かを言おうとしても、結衣以外にあまり話しかけた事が無さすぎて緊張で何も言えなくなってしまう。

 俺が陰キャなのは周知の事実だが、俺自身が実感する事になるとは思っていなかった。


「とりあえずこれ、プリント。私には貴方達の関係については何も言わないわ。……どうせ、すぐに……」


 最後に生徒会長が小声で何かを呟いたかのように聞こえたが、俺の毎日イヤホンばっかりしている耳では聞き取れなかった。

 

「やったね♡生徒会長公認だよっ♡」


「そうっすねぇ……」


「もっと嬉しそうな顔してくれると思ってたんだけどなぁ……♡」


「わー!!! おりゃもう嬉し過ぎて涙さえ出ちまいそうだよ!」


「貴方達、何してるのよ……はぁ、とりあえず私達は帰るから」


 生徒会長はきっちりとした姿勢から立ち上がると、ゆっくり玄関の方から歩き出した。

 俺と結衣は耳打ちで話し始めた。


「もし生徒会長が俺の居場所を俺の母親とか警察に通達したら、お前の監禁生活も終わりだぞ! へへ、案外呆気ないなぁ、お前の作戦も!」


「大丈夫だよ? その時は『ぐしゃっ』てしちゃうから♡」


 結衣は握り拳で何かを潰すかの様な動作をした。

 俺はその意味を大概察してしまった。

 逃げてくれ生徒会長。

 そして生きてくれ俺よ。


 ん? というか、生徒会長の私達って何?


「何をやっているの、大空聖。しばらく私の管轄から消えたと思ったら、こんな場所にいたのをやっと見つけたって言うのに……私の手の届く範囲に居ないと貴方はダメになってしまうというのに。早く帰るわよ」


 ……やっぱり、ダメか。

 そうである、この生徒会長……俺のストーカーだった前科がある。

 理由は至極単純『マルケスは私が管理してあげない余計な物に付かれてしまう』だと。

 マルケスって誰だよ。


 そうなのだ、この状況。


 俺のストーカーと、俺を監禁している奴に板挟みにされている状況である。


 その他もあるぞ! 俺の部屋に盗聴器が6、7個仕掛けてたのも生徒会長だったし。

 風呂場にもあったよ、2個。

 

 どうやって侵入したのかは知らないけど、結衣と生徒会長の小鳥遊春たかなし はるの分で二つ。

 仲良しさんかな?


「……は? 聖くんと私は、同棲してるんだけど? 帰るって何処に?」


「勿論、私達の家に決まっているじゃない。貴女の様に適さない環境に無理矢理拘束して可憐な花の成長を妨げる様な奴ではないの。大空聖には適した環境という物があるの、理解出来るかしら?」


「は? は? 聖くんは私と一緒にいてくれるって、承諾してくれたんだよ? ね?」


 してねぇ!!!!

 と言いたいが……言ったら多分小鳥遊が調子に乗るか、俺が結衣に刺されるかの二択である。

 正しきは沈黙であろう。


「貴方には理解出来ないでしょうけれど、私と大空聖は前世から結ばれた仲なの。前世でも私達は夫婦として、大空聖、いや。マルケスを管理していたの。なら、今生も同じ事をするのが普通でしょう?」


「そういう、スピリチュアルなのは気持ち悪いよ! 今生も前世も知らない、私と聖くんは前世なんて無いもん。この一生の中でたまたま結ばれた、本当の運命の赤い糸で結ばれあった真実の恋人だもん!」


 スピリチュアルとスピリチュアルがぶつかると意味不明が生まれるんだ。

 ためになったなぁ。


 残された俺は、テーブルに置かれた菓子類をハムスターがひまわりの種を食す様に食べる事しか出来なかった。


「ねぇ、聖くん!」

「マルケス、そうでしょう?」

 

 うわっ、急に俺に振られた。

 ここで俺はなんと答えればいいのだろうか。

 どちらも怒らせず、絶対に平等になる方法。

 それは……!!!


「俺は小鳥遊の方を信じるよ、結衣」


「な、なんで!? 聖くん、こんなスピリチュアル女の事なんてっ……!」


「でしょう、大空聖。貴方と私は前世から結ばれた……」


 俺はここで一石を投じる。

 スピリチュアルな物が好きな奴はその世界を壊されるのが大の苦手だ。

 ならば壊さず、改変すればいい。


「前世で俺と……結衣、小鳥遊。お前らとの一夫多妻だったんだ。だから俺はどちらにも味方する。それだけだ……」


「そんな記憶ッ、私の記憶には……」


 無いだろうね。

 作った記憶に作った記憶を混ぜただけだもん。

 結衣はプルプルと震えて、俺の方を見つめている。


「聖くんの言ってることは全部正しいし……じゃ、じゃあ……ここの三人は前世からの夫と妻って事?!」


「ふふ、どうやら私の記憶が不完全だった様ね……私は大空聖に。いや、マルケスを信用するわ。坂本結衣、貴方とは良い関係を築けるかもしれないわ」


「わ、私も! 前世の聖くんが心を許した人なら、私も信頼するよ! だって、聖くんが幸せなのが一番だもん……♡」


 ちゃっちゃらちゃっちゃっちゃーん。

 ・てきが ひとり ふえたぞ!


 間を取り持とうとして、大失敗をしてしまった。

 厄介な敵に厄介な敵がブーストされてしまった。

 勝手に喧嘩されて勝手に和解されちゃあ俺に何か出来る方法はない。


 というか生徒会長ってこんなに厨二病拗れてたのかよ。

 

「ならば話は早いわ、マルケスは前世の妻の一人に先に出会ってしまっただけ……同棲、というのも理解出来るわ。ならば、私も暇さえあればこの場所に来て、夫の管理をするのが礼儀という物でしょうね?」


「前世の妻って言うのなら信頼出来るかも……えへへ♡これからは三人でよろしくね♡」


 墓穴を掘ったよ〜!!!

 大墓穴を掘ったよ!!!

 俺は、最悪のチョイスをしてしまったかもしれない。

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