げぇむ
「聖く〜ん♡ゲーム買ってきたよ〜♡」
「ゲーム?! 結衣、俺に施しを下さるのですか……」
「そんなに喜ぶ〜? ほんと、男の子ってゲーム好きなんだねぇ……ま、聖くんが喜ぶなら良いや♡これ、ラストバスタード2」
「なんで2?」
結衣が差し出して来たのは、俺の知らないゲームのしかも続編だった。
お母さんが似てるゲーム買ってくる現象かよ。
「これ、売れ残ってたらしくて……情に絆されて買っちゃった! えへへ……」
「ゲームに感情移入するなよ……とりあえず、やれるゲーム機ある? 売れ残ってたとしても、神ゲーの可能性もあるし……」
「あるよ〜! 横スクロールの昔のゲームらしくて、一緒にゲーム機も買っちゃった! えーっとね……これ!」
結衣が取り出したのは、いかにも古臭いゲーム機であった。
年代で言えば1900年代を越えるギリギリ位であろうか。
確かプレミア価格が着いていた気がする。
「よくそんなの買えたな……よし、じゃあ暇つぶしでやろうぜ。俺の方が上手かったらここから出してくれよな!」
「なんでそう出ようとするのかなぁ♡」
「ちょっと外の世界を見聞したくて! ええ!」
俺だって、こうやって圧に負けたくて負けている訳では無い。
しかしこれは仕方の無い事である。
何故ならば……。
──────
「なんで私の言うこと聞いてくれないの! 聖くんの偽物かなぁ!?」
俺の心臓に突き刺さる包丁pt2!
「ウギャー!!!」
bad end
──────
……の可能性が微塵だが有り得るのである。
俺は死の可能性の極力薄くしなければならない。
死んでからここを出ても意味が無いからね!
「とりあえず始めるか……うわっ、チープな画面してんな〜……」
取り敢えず画面が映ったのは良いが、俺の目の前には宇宙の背景と音がズレッズレなBGMと謎フォントのラストバスタード2と書かれた文字。
多分、前作が好評だったから無理して作った感がありありであった。
「不協和音、だね……やっぱり、やめとこっか!」
「いいや、俺にはこのゲームの行く末を見守る義務がある。任せろ結衣、良い所見せてやっからな!」
この一時は監禁されている事を忘れて、ゲームに集中してみる事にした。
STAGE1と表示されると、銃を持った兵士らしき主人公が左端に現れた。
「よし、やるぞ……」
「が、頑張れ聖く〜ん!」
俺はコントローラーの右スティックを軽く倒す。
するとどうだろうか。
主人公は……まるで、亀みたいな速度で歩き出した。
そう、亀。亀以下もありえるかもしれない。
こんな速度で攻撃をどう避ければ良いんだ。
「おっっっっそ……」
「亀さんみたいだね〜……あはは」
逆に考えるんだ、この速度が平均なら敵の攻撃速度も同程度かもしれない。
それならば救いの余地はある。
「おっ、右端からなんか来」
死んだ。
爆速で主人公があの世に行ってしまった。
右端から白い四角の物を飛んで来たのを視認した瞬間爆速で主人公の元に四角が飛んで来た。
このままではバランス調整が小学生が作った、プレイする人を苦しめようとしている調整である。
「というか主人公体力1しか無いのかよ……」
「集中して頑張ってる聖くん、かっこいいなぁ……♡」
「俺も結衣。が! 持って来たこのゲームに興味津々だよ」
「そっかぁ……♡買って来て良かったなぁ♡」
男子はゲーム好きである。
だが同時に。
男子はクソゲーが好きなのである。
間抜けなBGM、気の抜けた調整、粗末なグラフィック。
男子はその全てを笑いを見出す生き物。
俺はこのラストバスタード2にプレイ数分で魅了されかけていた。
俺一面のこの部屋の唯一の娯楽。
「やってやる……やってやるぞ……! 詰みだとしてもやるという気概が大事だ!」
「頑張ってね、聖くん♡」
そして、数時間後。
──────
「初弾、やっと、避けれた……」
「おめでと〜!!! 流石聖くん、信じてたよ〜♡」
俺は右端から飛んで来る謎の俺の中の通称、豆腐を避ける事に成功した。
バカみたいな難易度のコマンドを入力するとしゃがみが出るのだが、一時間程度経った後自力でそれを発見した。
実際は気が狂ってコントローラーを投げるのを躊躇ってガチャガチャしていた時にたまたま見つけただけだが。
「そろそろ休憩にしよっか♡クッキー焼くよ〜♡」
「焼いといてくれ、焼けたら一旦辞めるか……がぁっ!!! コマンドの猶予フレームが短すぎんだろ……!!!」
「頑張ってね、聖くん♡」
結衣が笑顔で扉から出ていく。
多分この地獄を見るのに飽きたんだろう。
俺は諦めない、飽きてはいけない。
このゲームのまだ見ぬ真髄を覗かなければならない。
俺は血眼でコントローラーを握り、ゾーンへと入っていく。
バカみたいな頻度で襲ってくる豆腐をバカみたいな猶予フレームのしゃがみコマンドを入力し回避する。
俺は、この時ステージの最奥に進んだ。
「ボスか……! ボスだな?!」
現れたのは、あまりにも主人公の色を変えただけの銃持ちエネミー。
これがボスとは、とんだ拍子抜けである。
「一瞬でぶっ飛ばして勝利のクッキーでも頬張るとするか……!」
俺は初めて20分程度で見つけた発砲ボタンを連打する。
ボスは白く点滅し、少なくともダメージは入っている様だった。
「行ける……!」
緊張が走る、手汗が止まらない。
心臓がバクバクと高鳴り始めた。
そんな時だった。
ボスが突如ジャンプ行動を繰り返し初め、豆腐を銃口から発砲し始めた。
突如の行動で、俺はしゃがみボタンを押せずそのまま呆気なく終わってしまった。
「がぁぁぁぁ!!!!」
「おっまたせ〜! ありゃ、負けちゃったの?」
「許せねぇ……許せねぇよ……」
俺は涙を流しながら、コントローラーを握る手を離す。
今日は一旦諦めてやる。
俺はリベンジを誓い、固く手を握るのだった。
「お疲れ様のクッキー♡食べてね〜♡」
「ん? なんで指怪我してんだ? まぁ、ありがと……いただきます」
「包丁置いてる所で間違えて切っちゃって……えへへ♡」
結衣の手作りクッキーの味は俺の涙が混ざってしょっぱかった。
後なんか奥底から鉄っぽさを感じた。
隠し味に鉄アレイでも入れたんだろうか。
そうやって、この空間から逃げられぬまま一日が過ぎていく。
少しこの空間に居心地の良さを感じ始めた自分もいる。
早く脱出せねば……ラストバスタード2をクリアしてから。
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