挟みこみ計画えぐぜきゅーしょん


「カッ……クッ……」


「どうしたの? 聖くん!」


「マルケス、気分が悪いのかしら?それならベッドに横たわりなさい。私達が看病してあげるわ」


 現在、俺はラストバスタード2をプレイ中である。

 そして俺の両隣には俺の腕を抱きしめて胸元に寄せて来るタイプの奴が二人いる。


 そしてデカイ。何がとは言わないか。

 毎日毎日、結衣の誘惑に耐えて来た思春期男子真っ只中の俺にこれはあまりにも辛い。

 一種の拷問である。


 そしてシンプルに腕の動きが制限されてやりづらい。

 単純な二重苦という奴だ。

 正直ね、結衣も春も可愛い。

 可愛過ぎる。


 そんな美少女二人に胸元に腕を寄せられながらまともにゲーム出来ている俺は何かの賞に値すべきである。


「邪魔ッ……ですッ……!」


 俺は血涙さえ流しそうな苦悶の表情を浮かべながら二人に話しかける。


「あっ、ごめんねっ! ゲーム中だもんね、ついうっかり……」


「別に良いの、坂本結衣。マルケスが私を警察に突き出した時もこんな態度だったから。照れ隠しよ」


「そっかぁ……じゃあ……えへへっ♡ぎゅ〜っ♡」


「勝手に納得して勝手にまた抱きつくな!!!」


 今日の朝頃、コイツらが結託し始めた時からずっとこの調子。

 俺が正気を失っていないだけ偉いと思う。


「マルケス、私がここにしばらく泊まる事になってからずっとその調子じゃない。そろそろお腹が減る頃じゃないかしら?」


「確かに腹は減ったけどまだ終わってない……! まだこの主人公色変え野郎を……! あっ、畜生……また負けた……」


「じゃあ、一緒にご飯作ってあげようよ〜! 前世が二人夫婦なら聖くんに丁度いいご飯が作れるはず!」


「良い案じゃない、坂本結衣。貴方の呼び名も早く思い出さなければならないわね……」


 俺が作り出した記憶だから前世なんて無いんだけどね。

 まぁ、どうせ春ならまた記憶を作り出せるからOKか。


「それじゃ、行ってくるね〜! 聖くん、ゆっくりしてていいからね♡」


「マルケス、覗き見はしないでおきなさい? 楽しみは取っておいた方が良いのよ」


「あいあい……俺はゆっくり待ってますよ……」


 二人が出ていった後、俺は叫びたい思いを抑えてベッドに横たわる。

 しばらくしたら戻ってくるだろう、俺はゆっくり目を閉じてアイツらの帰還を待つ。

 結衣は料理が出来る方なのは知ってる、だけど問題なのは春の方。

 料理出来るかわっかんないんだよな……不安だ。


──────


「お〜い、起きて〜! いや、起こさない方が良いか……このままチューしちゃっても……えへ、えへへ……♡」


「良い案ね、前世の貴方は軍師か何かだったのかしら? 口付けだなんて、節操のない事はしない主義だけれど……今なら良いかしら?」


 やばい、凄く不穏な気配がする。

 俺の純潔が奪われてしまう気がする。

 急いで目を開けると、目の前には極限まで近付いた二人が居た。

 俺は勢いよくベッドからローリングすると勢い良く地面に叩き付けられる。


「あだ〜っ!」


「あっ……起きてたなら言ってよ! んもう……でも、起きてたならファーストキスの相手が私ってわかるからいっか♡」


「待ちなさい、彼のファーストキスは前世の私よ」


「今世じゃまだかもしれないでしょ〜っ!」


 醜い言い争いだ……。

 俺は片腕をさすりながら起きると、テーブルに置かれている料理が目に入る。

 どうやら焼きそばのようだ。

 うんシンプルで失敗のしょうがない、焦げ目が付いていても美味しい料理だ。


「えへへ、焼きそばだよ〜! どーぞ、召し上がれ〜♡」


「なんか変な物入れてないよな……鉄アレイの粉塵とか」


「そんな変な物入れる訳ないでしょ〜っ! 入ってるのは……あ・い・じょ・う♡単品だよ♡」


「私達の愛情、とくと召し上がりなさい? マルケス」


 二人はドヤァッ……と言った顔で焼きそばに手を向けている。

 俺はテーブルの前に座ると、置かれた箸を手に取り軽く焼きそばを持ってみる。

 焼きそばには青のりがかかっており、人の好みに寄るが俺は青のりが好きなタイプなので何気にちょっと嬉しい。


「ほら、一気にぱくっと行っちゃって〜!」


「相変わらず箸の進みが遅いわね、貴方」


「別に食うスピードは咎めなくても良いだろ! いただきます……」


 四本程度を箸で掴み、口の中に引きずり込む。

 舌に触れた瞬間、ソースの甘い香りと青のりの独特の風味が絡んで実に美味しい。

 言うなれば美味い方の屋台。

 家で食べる感じはしないし、カップ焼きそばとも違った趣がある。


「えへへ、美味しいでしょ? 春ちゃんが大体教えてくれたんだよ〜?」


「妻として、夫にある程度味の保証がある物を食べさせるのは礼儀よ?」


「あぁ……真面目に美味い、言う事無しだな!」


 ここで好感度を稼ぎたい場合「良い奥さんになりそうだな!」だとか言うべきなのだろうが、あえて言わない。

 これ以上好感度を稼いだら俺はぐちゃぐちゃにされてしまう。

 恐怖である。


「あら、マルケスにしては箸の進みが早いじゃない。そんなに美味しかったかしら?」


「珍しいね、食べ物食べてる時に焦ってないの!」


「うん、真面目に美味しい。結衣も春も頑張ってくれたんだろうし、悪い事言える訳ないよ……」


 この二人はきっと、普通の恋愛をして、普通の結婚をしてくれたら良い奥さんになるはずなんだ。

 なんで俺なんかの事、好きになっちゃったんだろ。

 また、時間があったら聞いてみるか。


 ある程度食べて、二人の方を向くと二人共モジモジしていた。

 言うなれば、何かを言おうとして言えてない様な……。


「ねぇ、貴方……私達と一緒に『あ〜ん』ってしてくれないかしら……?」


「げっ……」


「げってなぁに♡」


「ナンデモナイデス」


「してくれないかな〜って♡」


「シマス」


 春は圧かける事は基本しないのに……本当に結衣は特別圧が強い。

 でも……何だか嫌な気分はしない。

 俺が結衣に惚れていってしまってるのか、それとも圧に慣れて来たのか。

 どちらにせよ、これ以上ここ長居すると後戻り出来なくなる気がする。


「ほら、私達が先にしてあげるから……口、開けなさい?」


「ほら、あ〜ん♡えっへへ……♡」


 基本的に強引な二人だが、恥ずかしがっている様子が目に見える。

 ちょっとだけ俺もドキッとしてしまった。


 この二人には特に嫌な感情と言う物はない、結衣に関しては子供の頃から付き添って来た幼馴染だし。

 春に関しては中学の頃に結衣以外に唯一遊んでた友達だし……嫌いになれる訳が無い。

 あまりにもストーカーが悪化して両親から言われて警察に突き出す羽目になったが……本心では無かった。


「あ、あ〜ん……」


 二人が手に持つ箸の先にある焼きそばに口を付ける。

 先に結衣の方から食べて、次に春の方に口を付けた。


「やった、私の方先に食べてくれたーっ!♡」


「順番なんて関係ないわ、愛の濃さこそが肝心よ!」


「はいはい……」


「ね、次は聖くんからあ〜んってして〜?♡」


「早く箸を持ちなさい……あっ、さっきから使ってた箸で良いわ、むしろそっちの方が……♡」


「やだよ! 新しい箸くれよ!」


 二人共小さく口を開けてこちらの動きを待っている。

 くそっ……正直かなり可愛い。


「ほら……あ、あ〜ん?」


 二人の口に春から順番に優しく焼きそばを突っ込むと、二人は美味しそうに食べ始めた。


「えへへ、試食の時からもう一回食べたかったって思ってたんだ〜! 聖くんの愛でもっと美味しく感じるね……♡」


「前世の貴方なら恥ずかしがってしてくれなかったでしょうね……♡これも大空聖という生を体験しているからかしら……?♡」


「あ〜、良いから良いから!」


 俺達は三人で残りの焼きそばを食べ始めた。

 その後もあ〜んを求めて来たりだとか……ガヤガヤ話しながら食べる焼きそばは、悪くなかった……いや、楽しくて美味しかった。

 正直、この空間を悪くないと思っている自分もいる。


 俺はこれからどうなるんだろうか……そんな考えさえ忘れて、この三人での空間を楽しみ始めていた。

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陽キャな幼馴染に愛されてる陰キャな俺、幼馴染が実はヤンデレで監禁される事になった。 ハンノーナシ/たいよね @taiyonekun

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