第24話『悪意に屈指るはずはなく』
「まずは1体っと」
「楽勝だな」
俺とリンは手を出すことなく、2人によって1体のゴーレムが討伐され、これで1点獲得。
実力を知っているからこそリンは手出しをしなかったわけだが、記憶に残っている印象から少し変わっていた。
前はたしか、右が風、左が炎の魔法を標的に対して確実に真っ直ぐ飛ばすことができず、威力はあるものの的に当たるのを苦戦してた。
今回は的がデカいから当てやすいのもあるだろうが、間違いなく成長している。
転生当初は、キミたちをどこかのイベントでやられたり逃げるだけの雑魚キャラなんて思っちゃったときもあったけど、それは訂正させてもらうよ。
彼らもこの世界で生きているし、何かしらの目標や目的に向かって努力しているんだ、本当にごめん。
まあ、とは言っても名前は知らないんだけど……。
「あれは私に倒させて」
彼らを観て闘争心に火が点いたのか、リンは威風堂々とゆっくり前進していく。
ああ、彼らに対しての認識はさっきので正解だった。
最初からずっとリンに対しては侮辱の目線や言葉も送っていなかったし、現にただ歩いている姿をガン見している。
本人は誰かからの好意に鈍感だから今のところは気が付いていないけど、彼らはリンに好かれるようなこととは真逆を行っていてなんとも救いがない。
てかさ、あの2人を観ている感じ互いに好きな人が同じって言うのをわかっていないんだろうな。
恋愛に疎いんだろうけど、そんな仲良しなのに
あらやだ、お兄さんちょっと応援したくなっちゃったわ。
「うおぉ」
「すげぇ」
彼らがピッタリのリアクションをしたのを合図に、リンの水と風を合わせた水風船が破裂するような魔法でゴーレムの上半身が消し飛んだ。
2人は、少なくともその素直な感想をリンに伝えたり勝利を称賛したりすればいいんじゃないですかね。
なんだっけ、こういう見守る感じの……ああたぶん、後方腕組お兄さんだったっけ。
まあでも、今までの所業の積み重ねを考えると、リンが2人に――どちらかにでも行為を向けることはないだろう。
悲しきかな、彼らの初恋? が叶うことはない。
しょうがないよね、好意を向けている相手を貶したり侮辱いる人には敵意をもって答えるのが必然だし。
俺としては役得でしかない話だけど。
「どうだった? これが今の私。前より強くなったでしょ」
と、真っ直ぐ俺の元へ駆け寄ってくるなり、そう自信あり気に報告してくれた。
なんともかわいらしい笑顔と行動ではあるが、2人から俺へ向けられる憎悪の目線がグサグサを全身に突き刺さる。
歯をグギギギと噛み締めて今にも襲い掛かってきそうな風貌になってしまっている2人。
俺は別に悪くないからね?
「ああ、ゴーレムを1撃で討伐しちゃうなんて、凄いよ」
「えへへ、でしょでしょ~」
その整った顔が緩んで笑顔になるの、控えめに言ってかわいすぎませんか?
キュんです、キュん。
まあでも、前回の授業でいろいろとわかっていたから感動が少し薄れちゃってるけど。
「次だ次!」
「俺だって!」
走り出した2人の後を追うも、そもそも小走り……早歩きぐらいの速度しか出ていないためすぐに追いつくし、揃って「ぜぇぜぇ」と息を荒げている。
本当に常々思うけど、魔法を発現する練習ばかりやっていて体力トレーニングとかやっていないの、大丈夫なんですかね。
全然大丈夫じゃないからこそ、こうやって外で実地訓練をしているんだろうけど、その意味を理解していないんだろうか。
だからこそ、体力と魔法を両立できている生徒が優秀であって、リンやカナリが学園でも上位の実力者になるわけだけど。
でもだからこそ、アッシュはずっと悔しい想いをし続けていたんだよな。
魔法を使えずにそんな彼女たちと成績だけでは渡り合ってたんだから。
もしもの世界で魔法を発現で来ていたのなら、間違いなくアッシュが学園1位の実力者だったんだろう。
下手しなくても、別の体に転生して守護の力を扱える俺と渡り合えたんじゃないか?
だって、そもそもこの体が特異体質なんだし、精密な魔力操作はもはや教師とか比べるに値しないぐらいでしょ。
個人でここまでの高みへ至れたのは、お世辞を抜きにして凄すぎる。
「おい、ここら辺で練習の成果を出すぞ」
「ああ、俺たちにしかできない連携技を」
称賛を送っている最中、2人は次のゴーレムを発見して何やら声大きく打合せをしている。
「いくぞ、俺たちの合わせ技」
「よしきた!」
な、なんだと!? が、合体技だってえぇえええええ?!
何何何、えぇ?! 炎と風がどうやってどうなっちゃうの!?
「……?」
あっれぇ。
ゴーレムが目の前に居る状況で、いつになったら発動するんだ。
戦闘中ってたった数秒でも大事なのに、なんだか硬直時間が長くない?
え、ゴーレムがこちらに向かって前進してきているけど、お2人さん目でも閉じてる?
え、え、え。
「あれ、手助けした方がいいんじゃないかな」
「自分たちで倒すって言ってたから大丈夫でしょ」
うっお、超塩対応。
まあでもようだよね、獲物を横取りするのはマナー違反だし、何より彼らにも考えがあるかもしれない。
合体技なんてカッコいい響きの魔法は射程距離が短いとかで、引き付けてからが本番だったり。
「ほ、本当に大丈夫かな」
「大丈夫でしょ」
うわー、冷えっ冷えっ。
あれ本当に大丈夫?
後2歩ぐらいで拳が飛んできそうだけど……。
「あ」
「うわーっ!」
「ぐばぁっ!」
「ださ」
リンの新しい一面を知ることができた。
彼らは悲鳴を上げながら、ゴーレムに吹き飛ばされて俺たちの前へ。
背中から着地したもんだから、呼吸を詰まらせてもがき苦しんでいる。
「はいおしまい」
「えぇ」
俺が彼らへ目線を向けている間に、リンがゴーレムを討伐してしまった。
哀れみや慈悲というものは一切ないのですね。
「あなたたち、早く移動しないと欲していた点数を獲得できないわよ」
うひょー。
なんかこう、もう少し手心を加えてあげるとかないんですか。
「お、お前が……囮になっていたら……問題なかっ、た」
「次は、お前が――盾、になれ」
胸を辺りを握り締めながら、声絶え絶えでそう指示してくる2人。
「自分たちの失敗をアッシュになすりつけるなんて、恥ずかしくないの?」
「うぐっ」
「ぐっ」
リン、それだと肉体と精神が痛んじゃうよ。
「俺は2人が最初に言っていた通り、邪魔をしないよう後ろの方に居るよ」
凛々しく悪意に屈しない姿勢を示したいけど……なんだかなぁ。
哀れみの気持ちが表情に出ないよう堪えるので必死だよ。
それにしても、随分と前進していて周りのグループが見えない。
「く、くそー! このままもっと前に行って倒しまくるぞ!」
「やってやる! やってやるぞおおおおおおおおお!」
と、急に立ち上がったと思ったら前へ走り出す2人。
「はぁ……どれだけ自分勝手なのに」
「まあまあ、今はグループなんだし付き合ってあげよう」
「もう、アッシュは優しいんだから」
「俺は完全に
「そんなことない。アッシュは居てくれるだけでいいんだから」
俺は逆に、その優しさに涙が出そうだよ。
「しょうがないわね。行きましょ」
すぐに追いつけるから、小走りでも問題なしっと。
こういう状況だからこそ冷静に考えちゃうんだけど……カナリの件、本当に大丈夫なのか?
エリーゼからの報告通りなら、どう考えてもマズい状況だ。
普通の誘拐犯でも悪い状況なのに、闇組織とかいう得体の知れない存在かつ拷問や実験されるかもしれない。
一刻も早く救出してあげなくちゃいけないってのに、今は授業の時間だしなぁ。
ちょっとでも時間ができたら3人に合流して救出したいんだけど、この様子だとそれも叶わないだろうし。
んー、困った。
「うわああああああああああああああああああああ」
「あぁああああああああああああああああああああ」
はい?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます