第23話『実地訓練は再び自然にて』
な、なるほど……これはこれで厄介なことになったな。
「どうして、あなたたちと組まなくちゃいけないの」
さっきまで俺に対して向いていた怒りの矛先が、直角に曲がっていっている。
「そんなことを僕たちに言われてもね?」
「な?」
日頃から俺に対して難癖をつけてくる2人がすぐ眼の目の前に居るわけだけど。
「俺たちはあと2人足りない。そっちも同じく、2人足りない」
「利害の一致ってやつなんだし、授業なんだからこうする他に選択肢はないだろ?」
「でも、あなたたちなら他の人と組むことだってできるでしょ」
「それはどうだろうね? 周りを見てごらん」
名前も知らない彼の言う通り、周りの生徒に目を向ける。
まあ、彼らが言いたいことはすぐに把握できた。
既にほかの生徒たちは4人のグループを作り終え、2人組の人は別の2人組と組んで、あれやこれやと上手い具合にグループ分けが終わろうとしている。
というか、唯一ここだけが口論になっているだけなんだけど。
流れ的には、反論を飲み込んで組むしかない。
リンは俺のために発言してくれているのはわかっている。
だが、このままでは全員が減点対象になってしまうかもしれない。
「リン、ここは一緒に組んでもらおう」
「え、でもそれじゃ……」
「おうおうアッシュはわかってるねぇ」
「そうそう、俺たちがお前たちと組んでやるって話をしているんだ」
「最初から拒否権なんてないし、むしろ外れ枠と一緒に組んでやることを感謝して欲しいもんだ」
「あなたたち――」
「いいんだ。本当にその通りなんだから」
リンの肩に手を乗せ、なんとか制止。
当然、リンは不服そうに鋭い目線を俺へ向ける。
その目には、「どうしてこんなやつらに従わないといけないの」という反抗的な意味が込められていることは把握しているが――リンを減点に巻き込まないという意味もあり、自分の原点が超怖い。
なんせ、俺は実技の点数なんてギリギリのギリだから、下手したら1点でも減点されたら留年になってしまう可能性がある。
「立場を弁えている人間は成長の見込みがあるぞ」
「おいおい、魔力変換できない人間がこれ以上の成長ってなんの冗談だよ」
「そういえばそうだったな」
2人はお腹を抱えて高笑いを始め、対するリンは触れている方が上がり拳にも力を込めている。
「じゃあ決まることも決まったわけだし、行くかー」
「だな」
「俺は大丈夫。移動しよう」
「うん……」
という感じにシリアスな展開で進んでいますが、標的となっている俺は全然ノーダメージ。
元々アッシュもこんな感じの扱いを受けていた際、言われた瞬間こそ嫌な気持ちに放っていたが、恐ろしいぐらいに気持ちを切り替えてストレスなんてすぐに消し去っていた。
鍛錬と精神が鍛えられ、できた人間性のおかげで、こういった間接的な嫌がらせはほぼノーダメージ。
そして今となっては、強靭な肉体と精神力・精密な魔力操作・守護者の力を持つ存在となった俺もまた、彼らの戯言は羽虫以下。
本気を出さずとも、そう――デコピン1発でぶっ飛ばすことができるからな。
だがなぁ、このままだと俺を心配して庇ってくれているリンがいたたまれないしかわいそうだ。
解決策として、『鍛錬の結果、魔法を発現させることができました作戦』をどこかのタイミングで決行しようと思っているんだけど。
でもそれは適切なタイミングでやりたいし、どうせならカッコいい感じに、ここぞという目立つのが望ましい。
やっぱりほら、カッコよく決めたいじゃん。
だからリンそれまでは心を強く持って。
「――というわけで、10分の時間を設ける。その間に作戦や立ち回りなどの打ち合わせをしておくように」
授業内容としては至ってシンプル。
教師が生成したゴーレムを自然の中で討伐し、得点を競い合う。
ここで間違ってはいけないのが、得点を1番多く獲得したグループが最優秀賞というわけではなく、討伐数1点=1点となるということ。
じゃあ何が競い合いかと言うと、ゴーレムの総数が決まっているから、討伐=得点獲得は早い者勝ちというわけ。
こんな寄せ集めでは連携なんて見込めないし、俺は戦力外だから完全に足手まといであり、このグループの点数は低くなってしまうのは必然。
だが。
「先生はああ言っていたけど、俺たちに連携は必要ないだろ」
「少なくとも、俺たちは互いを意識して戦うが」
「ええ、それで問題ないわ。行動だけ一緒にする。戦闘になったら、邪魔にならなければ魔法を叩き込むだけでいいもの」
「というわけだ。アッシュは俺たちの邪魔をしないことだけを頭に入れておけよ」
「索敵なんてする必要も、ゴーレムを探しに行く必要もない」
「被弾でもされたら確実に減点になるからな、よろしく」
リンはずっと拳に力を込めている。
俺の言葉を信じて反論しないようにしてくれているけど……はぁ……こいつら、名前すら知らないけど少しは黙っていてくれないかな。
ストレスは美容の天敵って言うじゃん?
正確なことはわからないけど、リンのためにも早く授業が終わってくれるのを祈るばかりだ。
「わかった。できるだけ足を引っ張らないようにするよ」
「おう、それでいいんだよそれで」
そして、リンがさっきの立ち回りについて意見を述べなかったのにはちゃんとした理由がある。
こいつらが俺らに接触してきた理由にも繋がってくるんだけど。
1つ目は自らを上に見せるため俺をおもちゃにしたい、2つ目はリンの実力と彼らの実力。
簡単に言ったら、こう意地の悪いやつらだが魔法の威力はしっかりと出せる。
だからこそ、こいつらの横暴を止めることができたり反論できる人間が少ないというわけであり、たぶんこいつらはリンのことが“好き”なんだと思う。
本人たちの口から直接聞いたわけじゃないけど、めっちゃ観てるし、めっちゃ見てる。
そんでもって、直接話すことができないから、自分たちが優れていることを証明するために俺を貶したり暴言を放ったりしているわけだ。
まるで小学生が好きな人にちょっかいをかけるみたいな感じだけど――まあ、どう考えたってそれをこの年齢でやってたら嫌われるに決まってるだろって話。
俺たち、もう16歳なんだぜ?
ど・ん・ま・い。
「ゴーレムは合計で100体。全部は無理だろうが、せめて20点ぐらいは欲しいな」
「ああ。それだけ獲ることができたら、後が楽になるからな」
考えていることは理解できるが、だから、それを好きな女の子の前で言うのが悪いんだって。
「アッシュ、頑張りましょ。私が絶対に護ってあげるから」
「恥ずかしい話だけど、頼りにさせてもらうよ」
「うんっ、任せて」
お怒りモードからニッコニコに様変わりするのは、見ていて清々しいものを感じるが、逆に怖い。
こんなに感情を両立できるものなの? いや、分断しているの? どうなってるの?
まあだが、護りたいと願い鍛え足を止めない俺が、「護ってあげるから」なんて言われると随分とむず痒くなってしまう。
「――それでは時間です。皆さん、くれぐれも無理のないよう取り組んでくださいね」
「それじゃ、行きましょう」
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