第17話『現状を見定めるために』

 さて、と。


 リンと別れたすぐ、街の方へと足を進める。

 3人は自主的に調査をしているだろうし、忠告を受けたのだったら確認しないわけにはいかない。

 表のまま行くのは、結構なリスクではあるのはわかっているけど、人目が多いところは逆に動きやすいと思う。


 それに、そろそろ3人の力にもなってあげたいし。

 偵察兼遊び感覚で行くから、お土産でも買って帰ってあげよう。

 ずっとちゃんとした食べ物を食べていないだろうからね。


「活気があるねぇ」


 往復の時間を考えるだけではなく、3人のところに寄る時間も考え、これら全てを門限の時間までに遂行しなければならない。

 普通に考えたら無理すぎるけど、今の俺なら帰りは拘束で移動できるから……たぶん問題ない、と思う。

 速度は出せたとしても、感覚的なものはまだ慣れていないのが心配だけど。


「それにしても、美味しそうな匂いがプンプンと」


 もう少しで晩飯時だから、飲食店やら露店から漂ってくる食べ物の匂いは尋常じゃないほど空腹を刺激する。

 でもさ、3人はここら辺を調査しているかわからないけど、少なからず似ている場所は行ったりしているわけでしょ?

 そう考えると、空腹を耐えながら歩き回っているだろうから、本当に不憫でならない。


 食事の問題は、本当に早く解決しなくちゃ。


「ほえー」


 アッシュは、時々リンとショッピングモールに買い物へ行っていたが、鍛錬や勉強に勤しみ過ぎて年相応の感性や興味が培われていなかった。

 だからこんな目移りしそうな場所でも、常に目線は目的地かリンの方だけだったし、頭の中もほとんどそれだった――と、記憶を遡ればわかる。


 そして生前の俺もまた、アッシュと同じくこのような場所に来ても考えていることは大して変わらなかった。

 まあ、当時はかわいい幼馴染が居たり素敵な彼女が居たりかわいいクラスメイトが居なかったけどね!


 右から「いらっしゃいいらっしゃい!」と活気ある声が響き渡り、左から「本日のメニューはこちらになります」と満面の笑みで看板を持ちながら宣伝している人が居る。

 しかし、飲食店だけではなく衣類のお店だってあるし、小物売り店、コンビニ、スーパーなどなど……ショッピングモール兼商店街だな。


「……」


 女神様が言っていた通りだ。

 よく異世界転生や転移する主人公が直面するのは、食文化。

 行った世界に順応することはできても、やはり日本食などが恋しくなってしまう、というのはよく目にする話だ。

 だけどこの世界ではとってもありがたいことに、日本食と全く同じ料理がちゃんと存在している。


 電車とか飛行機はないって話だけど、それ以外は全部あると言っても過言ではない。

 電気的なシステムは魔気的なシステムで循環されているし、火力も水力も魔法を使用できる人間が魔力を変換して補ったり管理している。

 だからもしも魔気が、停電的なことが起きたとしてもエネルギー供給が尽きることはない――らしいけど、本当に凄いとしか言いようがない。


「――」


 人を探すなら人の中、と歩いてはいるものの、不審な気配は感じられない。

 そういえば探知の結界って、範囲内に沢山の人が居るとどうなるんだろうか。

 反動や負荷がドッと襲ってくるなら今後は使い方を考えないといけないし、実験するには丁度いいのでは?

 だったら学園でもできたじゃん、とは思ったけど、もしかしたら先生たちが気づいちゃうかもしれないしね。

 反動や負荷で倒れちゃったりしたら……まあ、周りにこれだけ沢山の人が居るから救急車ぐらいは読んでくれるでしょ。


 ん? この世界に救急隊は存在しているけど、救急車ってあるのか? まあ、それはそのとき考えよう。


「……」


 まずは狭い範囲を。

 と、結界を展開してから思ったけど、オートヒールが発動しているから大丈夫じゃんって気持ちと、肉体的な回復だけなのか精神的な回復もできるのかの実験にもあるじゃん。

 まさに一石二鳥。


 移動しつつだから人数は変動するけど、範囲内に確認できるのは10人~15人、身体精神共に正常。

 しかし今更だけど解像度が低いく、のっぺらとしている。

 立体的ではあるけど、身体的特徴はほとんど把握することができない。

 ゴーレムのときはそれほど気にならなかったし、3人は先に姿を確認していたから気にしていなかった。


 女神から授かった力はここまでだが……。

 精密な魔力操作――結界内に無数の極細い魔力線を張り巡らせ続けることによって、貫通したり触れた人間を詳細に把握することができる、というわけか。

 大抵の人間なら空気中の魔力を変換するまでに留まるから、こんなことをしたらすぐに魔力欠乏になる、が、この体なら常に吸収し続けられるから意識を保っていられたらほぼ無限に変換&保存&操作が可能と。


「ん」


 気持ち悪さ……そう、車酔いみたいな感覚に襲われる。

 オートヒールが発動している、少しだけ体が温かくなっている感じがしてきた。

 さすがにやりすぎって話なんだろうけど、逆に言ったら練習すればもっと広い範囲もできるようになるってことだよな。


 じゃあ、もう少しこのままで歩き進んだり露店に寄ってみよう。




「――ありがとうございました」


 ちょっとだけ不思議そうに観られたけど、「食べ盛りでして、あと知り合いようなんです」と言ったらすんなり納得してくれた。

 ソース焼きそば、オレンジジュース、クレープを3人前注文したら疑われるのは仕方ないけど、若さだけで乗り切れるからありがたい。


 そして、購入した物は周りの目線に注意を払いながら収納空間へスッと移動。


 今はこれぐらいしかできないけど、せめてこれぐらいは3人にしてあげたい。

 その場凌ぎだけでしかないけど、数日ぐらいなら今日みたいに調査という名の元にどうにかできる。


 お金に関しては、コソコソとせず堂々とお小遣いのお願いをした。

 普通だったら質問攻めされるだろうけど、前々から年相応な趣味や行動を望まれていたことを上手く利用させてもらう。

 遊ぶためのお金という名目だから、こうして人のために使ったとしても罪悪感はかなり薄くなる。


「んーっ、くぅーっ」


 酔いは収まり、早くも順応してきたのを感じる。

 そして魔力線を張り巡らせた結界だと限界が見えるけど、結界だけであればかなり広い範囲――直径30メートルは余裕で展開できることがわかった。

 これは、森の中で観測できる生物が少ないのと人々の雑踏の中という環境の差なんだと思う。

 ゴーレムを探っていたときは、1キロぐらいは展開できていたし。


 しかしこのまま何も収穫がないのだったら、時間的に余裕があるわけでもないし、そろそろ……。


「気になる」


 向かって右の路地裏に不自然な反応あり。

 大人が5人と小さい――なんだ? 子供より小さい?

 家族とか親戚が休憩していたりするだけならいいんだけど、そろそろ結界を解いて休憩も兼ねて目視で確認しに行くか。

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