第三章【守護者としての在り方】
第16話『噂を小耳に挟んだので』
はて、これはどういった状況なんでしょうか。
「やっと2人きりになれた」
「はい。でも、どうしてさっきから目を合わせてくれないの?」
「そ、それはっ!」
リンが自主的に補習のテストを受けている間、どうしてかこうしてカナリと2人きりになっている、場所は他に誰も居ない図書室。
俺の疑問はそのまま言葉にした。
どうしてか目線を合わせてくれない。
「それじゃあちゃんと話ができないんじゃない?」
「……っ」
目線を左に右に、下に上に移動させては歯を食いしばっている。
そして、見え隠れする表情は――どこか悔しそうな、いや、歯を食いしばって頬を赤く染めている感じは恥じらいの感情だろうか。
いや、もしかしたら陽の光に照らされて熱くなっているとか?
あ。
「なるほど、そういうことか。あの件に関しては、リンが言っていたことを真に受ける必要はないんじゃないかな」
「そ、それでも」
「たしかに、公開告白みたいなことを堂々と発していたのは恥ずかしくもなるだろうけど、知らなかったんだから別にいいじゃない」
「や、やめろぉ! 私の傷を
「やっと目を合わせてくれた」
「なっ!」
どうやら図星だったようだ。
さて、そのままでは話が進まないから沈静化を図ろう。
「一応、申し出は嬉しかったんだけど期待に応えられる答えは出せない」
「そ、そうなのか? どうしても? あ、いや、そういう意味では!」
「大丈夫だよ。カナリに告白しようって気持ちがなかったんだから、そこまで意識する必要はない。でしょ?」
「それはそうだけど……」
「俺もそこまで重く受け止めてないわけだし、このままだといろいろとやりにくいでしょ?」
「うん……」
「というわけで、いつも通りな感じで話してくれると助かる」
「……わ、わかった」
何度も咳払いをしたり、前髪を整えたり――女の子だなー。
それにしても『お姫様』、か。
カナリが崇められるような存在みたいな立ち位置だからつけられた別称ではないんだろう。
彼女が上げ続ける、成績や実績を
俺みたいな落ちこぼれを標的にするだけでは足らずに、周りと馴染めないカナリをも目の敵にするというのは少々頂けない。
だからこその孤高とも言えるんだろうけど。
「それで、2人きりになって話す用件でもあるの?」
「こ、こほんっ。なんと言うか、気を付けてほしいという注意喚起の意味なんだが」
「何それ怖いんだけど。もしかして俺、誰かに狙われてるの?」
「そんなはずはないだろう。たかが学園の一生徒を標的にするなど」
「よかったー」
正体がバレたら、冗談抜きであり得そうな話だからね。
「巷の噂、
「と言いたいところなんだけど、そうはいかないの」
「ほう?」
「私の父から直接話を聴かされたから」
「あー」
カナリのお父様は、確か魔法騎士団の……お偉いさんだったっけ? いや、なんだっけでもたしかそんな感じだった気がする。
だけど、どの筋からよりも信憑性がある話、と。
「最近、あちこちで窃盗事件や強盗事件が相次いでいるの。確認はできていないらしいんだけど、誘拐事件も」
「うわ、そりゃあ本当に物騒な話だ」
まさかリンが言っていた噂程度の話が本当に起きているんて。
だから魔法・魔装騎士団の人たちが徘徊していたりしてたのね。
登下校のとき、ガン見ってほどじゃないけどチラホラと視線を感じてたから納得。
「一度も話したことがない人が被害に遭ったらなんとも思わないけど、さすがにここまで話をしている人には無事で居てほしいから」
「ありがとうございます?」
いやー、なんとなーく、カナリが『孤高のお姫様』なんて呼ばれる理由がわかっちゃたような気がする。
この人、超ドライじゃん、冷えっ冷えじゃん。
冗談抜きで、カナリって興味がない人には超絶失礼な態度だったりしない? 俺、ちょーっと心配になってきたよ? これからの学園生活、本当に大丈夫そう?
俺の方こそ、知人がそんないたたまれない立ち位置になっちゃうの見ていて苦しいよ?
「だから気を付けてほしい、とだけ忠告をしようと思って」
「なるほどね、知らせてくれてありがとう。もしも巻き込まれそうとなったら全速力で逃げるよ」
「ぜひそうしてくれ」
「俺、戦うことができない代わりに逃げ足だけは早いんだ」
「戦うということだけ見たらそうかもしれないが、命あってこその明日がある。むやみやたらに戦うより懸命だと思う」
「そういってくれると助かるよ」
「でも、逃げる判断ができるというのも冷静に状況を見極めなければできない。やはり、アッシュは基礎的な鍛錬だけではなく、状況把握の練習もしているのだな。さすがだ」
「ありがとう?」
言っていることは正しいんだけど、俺はカナリの洞察力とか考察力の方が恐ろしいくもあり尊敬するけどね。
しかーし。
俺は、別にそこまで周りを観ているわけではない!
ただ『ヤバい』と思ったら逃げるだけだ!
「しかし、強盗などのわかりやすい犯行の反面、騒ぎは起こすが明確な犯行をしない者たちも居ると聞いた。そちらに関しては何が目的かはわからないけど、父は『何かを探しているような気がする』という考察を立てていた」
「俺は見かけたことがないから、いまいちわからないや」
てか、家族の会話ってそんな物騒なものなの?
うちの家族なんて、仲睦まじい雰囲気しか漂ってませんよ?
「という感じで私からの話は以上だ」
「わかったよ、いろいろと教えてくれてありがとう」
「――そ、それでなんだが」
「ん?」
急にかしこまる感じで咳払いをしたと思ったら、不自然に目線を合わせたり逸らしたりしている。
「もしよかったら、私が毎日一緒に下校してもいいのだけれど」
「え」
「急な提案で困惑しているのはわかる。しかし、頭の回転が速いアッシュと戦える私が一緒なら問題が起きたとしても早急に解決できると思うのだ」
「そうなの?」
「そうだ、これだけは断言できる。だから、もしも不敬な輩たちに絡まれたとしても蹴散らすことも退避することも容易いはず」
素直に受け取ったら、デート的な提案。
現に恥ずかしがっているし、無自覚告白の件もあるから変に意識しているんだう。
でも、この感じもしかしたら。
「もしかして、探偵的な実地調査をしたいとか思ってたりする?」
「な、なぜそれを! や、やはりその鋭くも速い思考は尋常ではない。凄すぎる」
「お褒めに預かり光栄です? じゃなくって、どう考えたって危ないでしょ。評価してもらっている点は役に立つかもしれないけど、やっぱり俺は足を引っ張るよ」
「そこまで謙遜する必要はない。私は、今までちゃんと見ていたんだ」
「え、何を」
「不遇な体質であり冷遇とも言える扱いを受けながら、実技の演習や試験をその体1つで乗り越えてきていることを。たとえ魔法を発言できなくとも、その体力と知恵と知識を活かして上手に立ち回ってきているじゃないか」
「まあ……それはそうだけど。でも、普通に忘れていることがあるんじゃない?」
「ん?」
えー、この人ってもしかして天然? それとも、あまりにも敵視し過ぎて存在を消し去りたいっていう危険思想の持主なんですか?
「俺、毎日リンと登下校が一緒なんだけど。家も近いし」
「なん……だと。私が把握しているのは、門を抜けるまで。まさかそこまでマーキングしていたとは……そこまで考えが至らなかった」
マーキングって。
リンを動物とか獣だと認識していたんだね。
どんだけ敵視しているんですか、いつかどこかで決闘とか始めそうで怖いんだけど。
「ということで、その話を進めていくんだったら必ずリンも同行することになるから諦めた方がいいんじゃない?」
「くっ……意図的に赤点を取らせるしかないのか」
「物騒な話はやめてね」
「それじゃあどうしたら……」
「普通に危ないし、お父様にバレたらとんでもなく叱られるんじゃない?」
「いいや、父はノリノリの押せ押せだった。しかも、アッシュの話を何度もしているからな。ぜひとも家に連れてきてほしい、なんて興味津々で話を聴いてくれているぞ」
「ナニソレコワイ」
「大丈夫、父も母も笑顔で話を聴いてくれていたし、使用人たちも楽しそうに話を聴いてくれていたぞ」
「ん? ん? ん?」
どう考えたって怖すぎるでしょ。
それ、家に上がったら最後――「うちの娘に手を出すとはいい度胸じゃないか」とか詰められて、「こうなったら、絶対に結婚してもらうからな」とか調教&洗脳されるやつじゃない?
ヤバいって絶対に。
「と、とりあえず。今回の話は諦めてもらって、引き続き何かあったら俺に教えてもらえると嬉しいな」
「ああ任せてくれ。アッシュがそう望むなら、包み隠さず話をしよう。怪我をして欲しくないし、居なくなって欲しくはないからな」
なるほど、カナリは無自覚に行為を伝えてしまうんだな。
今の発言だって、聞く人によっては恋愛的な話と受け取ってしまうぞ。
いやでも本音なんだから、間違ってもない?
あれ、そう考えるとずっと真っ直ぐに行為を伝えられていると考え始めちゃって、俺も体の芯から熱を帯び始める感覚がする。
「そろそろ補習も終わるだろうから、今回はここまでで」
「ああ、わかった。また明日にしよう」
俺だって恋愛経験があるわけじゃないから、どうやって対応したらいいのかわからない。
んがーっ!
こんなリア充的なイベント、どうしたらいいんだー!
あの3人と一緒に居るときの方が断然、気楽だなぁ。
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