第14話『課題×課題+問題=頭を抱える』
!?
なんて俺はバカだったんだ!
今更考えたんだけど、あの3人って逃避行の身ということは住処がなけりゃ食事だってまともに摂れていないということじゃないか。
だというのに、俺はいつも通りに学校へ通っているし、いつも通りに不自由なく食事を摂って学園へ通っている。
そして今だって、いつも通り授業終わりのリンと放課後デー――下校して帰路に就いているじゃないの。
あー、俺はなんてバカなんだ。
こうして思えば3人はめっちゃ不憫だし、主――仲間として……? 何もしてあげられていないじゃないか。
「ねえ、聞いてるの?」
「ごめん、ちょっと空が綺麗だなって眺めてた」
「もーう! 雲一つない青空だし言ってることはわかるんだけど聞いてよ」
「ごめんごめん。それでなんだって?」
「だーかーら、最近は物騒だよねって話」
「あー、だね」
「反応軽っ」
「絶賛、空の美しさに焦がれている最中だからね」
これから一緒に行動を共にする仲間なんだから、最低限だとしてもちゃんとした衣食住は提供してあげたい。
お金持ち実家パワーを活かしてどうにかする……というのは無理そうだし、かといって衣装代に貯金は使い切ってしまった。
誰かに頼むってわけにもいかないし、かといってアルバイトをしてもらうってわけにもいかない。
でも生活の基盤がないっていうのは可哀想だし……。
食料は、たぶんなんとか……なんとかなるはずだけど、住む場所はどうしようもできないなぁ。
家の空き部屋を使わせるわけにもいかないし。
「でね、別のところでも私たちが遭遇したみたいな事件が起きたんだって」
「たしかにそれは物騒だ。あの件に関与していた犯人は捕まったんでしょ?」
「うん。でも……運ばれているところを見たけど、血みどろのズタズタのボロボロになってたけど……」
「そりゃあ大変だ」
とか驚いているけど、やったのは俺だからなんとも言えない。
やられて当然のことをしたんだから悔やむことは何もないけど、加減していたつもりでも加減できていなかった事実は反省しなければならないな。
てかそうなんだよ。
そんな悪党たちを懲らしめるために活動したい気持ちは山々なんだけど、昼間は学校に行っているから無理だし、かといって夕方に活動をしようにも門限までに帰らないと言えの人たちに心配されちゃう。
まーじーで、どうしよう。
3人の衣食住と活動時間は絶対に解決しなくちゃいけない課題だ。
「あれ、そういえば今日はカナリの様子がおかしかったような?」
「どうしてこのタイミングでその女の名前が出てくるの」
「その女って――そこまで敵視しなくてもいいんじゃない? 俺を守ってくれていたのはわかるけど、話してみたら警戒するほどの人じゃなかったのもわかったわけだし」
「そ、それはそうだけど……そうだけど、そうじゃないの」
「なんじゃそりゃ」
それぞれに抱えている悩みや考え方があるのは理解している。
しかし、リンがカナリに抱いている警戒心というか敵対心というか、負けられない何かがあるんだろうか。
成績や実力が拮抗しているというのが大きな要因なんだろうけど、高め合うライバルっていうよりは犬猿の仲と現した方が的確だと思う。
同学年の学友なんだから、ほどほどにしてもらいたいところだ。
「そういえば、リンは進路をどうするか決まったの?」
「ぎくっ」
「そんなあからさまな反応ある? まあでも、選択肢が二つなんだから結論を急ぐ必要はないんだろうけど」
「お父さんからも言われていることだから、アッシュの言う通りにもう少し進路のことを考えなきゃなんだけど」
「まだ時間はあるんだし、焦る必要はないよ」
「そんな悠長なことも言ってられなかったりするのが、また困っちゃうところなんだけど」
「家庭もそれぞれだし。あんまり考えすぎないようにね」
「ありがとう、でもそろそろ意識しなくっちゃね」
自分の身の回りの問題はさておき、自分の問題にも目を向けなければならない。
進路なんかより大切なものがある!
そう、技や必殺技につける名前だ!
いや、進路を疎かにしているわけではないよ?
でもまずは目先のことを決めないと未来のことなんて考えられないからね!
「魔法騎士団と魔装騎士団。どっちにも適性があると自分で決めなくちゃいけないのは大変だよね」
「うん……ほとんどやっていることは変わらず、みんなを守ったりする仕事なんだけどね」
「難しいよな、まあでもどっちかって言ったら魔法騎士団じゃない?」
「私もそう思うんだけど、魔力の精密操作も練習してるから迷っちゃうの。それに……」
「それに?」
何かを言いた気な目線をリンから向けられているけど、何? 俺の顔に何かついてたりするの?
「アッシュはどうするのかなって」
「ん~、どうなるんだろうね。いろいろと」
「……」
この返しは、リンにとってはちょっと酷だったかな。
「これから先のことは、なるようになるとしか考えられないからね。でも、ちゃんと卒業ができたら就職とかはやりやすそうってぐらいは考えてるよ」
「もし、もしも……」
「ん?」
「……カナリの提案を受けるって選択肢はあったりするの?」
「それもどうだろうね。正直、今はお眼鏡にかなう状況ってだけで後のことはわからないし。卒業するころには気にも留められてないかもしれないからね」
「じゃ、じゃあさ。私の部下――いや、お世話係としてとかはどう、かな?」
「え? 荷物持ちとか?」
「うん。私の家とアッシュの家は関係性的にも大丈夫だろうし。ずっと拘束しておくってわけじゃなく、アッシュがやりたいことをやっていいし後押しもできるだろうから」
正直、そんなありがたい提案は喉から手が出るほどの好条件だからYESと即答したい。
元々のアッシュだった時でも、今でも。
願ったり叶ったりな話ではあるんだけど……進路についてはもっと考えて模索していきたい。
なんせ、あの3人のこともあるし。
「嬉しい提案ではあるんだけど――」
「じゃ、じゃあ!」
「ごめん、もっと慎重に考えようと思う」
「そ……そっか」
リンの表情が明るくなった直後に暗く目線を落させてしまった。
まさに上げて落とすとはこのこと、という状況を作り出してしまったが、後々の計画で進路は大きく変わることになる……はず。
そして、俺たちの願いを表と裏で叶えるんだ。
「そういえば、そろそろ実技試験だけど大丈夫そう?」
「たぶん大丈夫。でも、グループとかだとちょっとマズいかも」
「リンの魔法の使い方だと1人の方がやりやすいもんね。逆に、俺はグループじゃないと辛いけど」
「でも本当、カナリが言ってたことはその通りだよね。魔法を発現させることができないのに、ここまで気に抜けてきているんだから。今の今まで評価されていないのがおかしいんだよ」
「お褒めにあずかり光栄です。まあでも、毎回がギリギリすぎて胃がキリキリしているけど」
「というか、勉強は常にトップで魔装具の扱いも完璧、体力だって誰よりもあるし、まさに完璧な優等生。それなのに、実技の成績がよくないからってあんな扱いを受けるなんて本当に許せない」
「まあまあ落ち着いて。多少の不満あるけど、採点はちゃんとやってくれているんだし、実技以外の評価もちゃんとやってくれているんだから差別されているというわけでもないから」
「そ、それはその通りなんだけど……でも、実技の先生は絶対に違う。筆記とかの先生は恐ろしいぐらいに平等だから大丈夫なだけだよ」
「たしかにそれはあるかもね。あの先生、実技がピカイチの生徒にも容赦なく赤点をつけてたから」
「そうなのよ、私だって例外じゃなく赤点ギリギリだったんだから――って今はそれはどうでもよくって!」
勢いあまって自分の醜態をポロッと漏らして顔を赤くしながら、手をブンブンと振ってもみ消そうとしている。
かわいい、の一言に尽きる光景だけど……。
「俺は実技をどうにか頑張らないといけないけど、リンは勉強の方をもっっっっと頑張らないとね」
「うぐっ」
図星も図星、ド直球に言葉が刺さってしまったらしく、リンは両手で胸の中心を抑えている。
「でも私はわかってるの」
「この状況で、何を?」
「アッシュに頼らない、ってこと。だって、ちゃんと毎日トレーニングを欠かさないことを知ってるし、私が勉強を教わるってことはアッシュの時間を奪っちゃうから」
「そこまで大袈裟に感がなくてもいいとは思うけど。でも素直に感心できないんだよなぁ」
「え?」
「だって、たまに休み時間とか図書室とかで――」
「そ、それ以上はダメーっ!」
赤面状態で口を塞ぎにかかろうとしているが、ちょいと小走りで回避。
少しでも羞恥心を抱いて危機感を持ってもらった方がいいだろうし。
「……な」
なんてこった!
帰路に就く、という貴重な思考時間を平凡な日常会話で終わってしまったではないか!
もう、リンと別れる地点が視界に入ってしまっている。
お、俺のカッコいい必殺技の名前を考える時間がああああああああああ!
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