第13話『非日常を過ごすのも、また一興』
「リラックスしてくれて構わない」
と言った後すぐ、3人は地面にへたり込んでしまった。
「ユシア、あなたって本当に人間なの……?」
「その目にはどう映る」
「わからないわ。私には普通の人間としか認識できないけど、それすらも偽装なのかもしれないし」
「ボクは人間じゃないと思う! こんなに強い人間を見たことないもん」
「わたしが言うのもおかしな話ですけど、同意見です」
「好きに思うがいい」
そんな風に言われると、俺だって自分が人間かどうか疑っちゃうじゃないか。
肉体だけならこの世界に生きていた人間だけど、魂は別の世界から来た人間で、でも神の力を行使できる存在でもある。
人間×精神体×神、なんて融合している存在って言っちゃえるわけだし、なんとも難しい問題になってしまった。
まあでも、俺は人間のつもりだけど。
「しかし――」
「さすがはユシア。私は兎も角、2人のことも見抜いちゃうなんて」
ん? 俺、まだ何も言ってないんだけど? 何を見抜いたって?
「私はエルフと精霊の間に生まれたスピリットエルフ」
「ボクは龍!」
「わ、わたしは吸魔姫です。魔人と吸血鬼のハーフです」
「――ほう」
全然理解できていないけど、なんとなく強かった理由がそこにあるのだけはわかった。
エルフと精霊のハーフって、そりゃあヤベー魔法を使うのは納得。
龍っていうのは物語によって姿が違ったりするからまだ判断できないけど、まあ白炎のブレスを出していたのは結び付く。
魔人と吸血鬼のハーフかぁ、あのデバフ祭りは魔人の方の能力だとして、華奢な体であそこまで動けていたのは吸血鬼の何かってわけか。
髪の毛の色がそのまんまっていうのはわかりやすくて助かる。
「なぜ俺の元に来た」
まあ、まずはここから紐解いていかないとだよね。
「私たちはとある闇組織に命を狙われているの。正しくは、捕まっていたところから逃げてきたの」
「ほう」
「そうしたら、凄い魔力を感知して吸い寄せられるようにここへ来たの」
「ボクたちはいろいろと覚悟してたんだ、最後の希望だって」
「善なる存在は頼り、会くなる存在であれば戦って死ぬ、と」
捕虜として苦痛の中生きてきて、まさに決死の覚悟で逃亡。
だが俺と接触したら判断もつかない状態で全回復してもらい、危害は加えられないかつ圧倒的な力量差の前にひれ伏し服従を誓った、と。
たぶん回復される前はズタボロだったんだろうけど、なんていうかやるせない気持ちにはなる。
しかし疑問も残る。
どうしてそこまでの力を有しておきながら捕まっていたのか。
いくら優れた魔法や魔術を扱う人間だとしても、あの全てをぶつけたらたまったもんじゃないはず。
下手しなくても街ぐらいなら壊滅させられるだろうに。
「俺の目的は除外した場合、お前たちの目的はなんだ」
「私たちは、あの闇組織に復讐したい。そして、同様に苦しみ続ける人たちを助けたい」
「あいつら、絶対に許さない」
「希少な存在や獣人を私利私欲によって実験し続けるのは許してはいけないのです」
妥当か。
しかし、実験だの他種族とか初めて耳にする単語がどんどん出てくるけど、まず闇組織って何、響きがカッコよくて羨ましいんだけど。
全部壊滅させたら名前を貰っちゃえたりしないかな? ダメかな?
「いいだろう、利害は一致する。しかし」
「し、しかし……?」
そんな3人揃ってゴクリと息を呑まれても大したことは言わないよ?
「根まで絶たなければ意味がない」
「!!」
なんですかなんですか、どうして体をビクッて震わせて目をかっぴらいているの。
「ユシアの力で蹂躙するのか簡単。でも、それは氷山の一角を潰すだけに留まってしまう。やるなら徹底して情報を探り、組織全てを完全消滅させるということね!」
「ボス凄い! 天才!」
「主様はあまりにも思慮深い……! わたしは辿り着けない考えです!」
ん? なんだか話が壮大になってない?
エルフっ子がなんだか凄ーく解釈してくれているけど、いやまあ言っていることは正しいし、組織を潰すっていうんだからそこまでやらなきゃいけないんだろうけどさ。
ちなみに俺はそこまで考えてなかったです、はい。
なんせ、そこまでスケールのデカい話だとは思ってなかったからね!
捕まっていた場所が本社で、支社なんてあると思ってないかったから!
そこ潰せば解決かーって軽い気持ちだったよ!
「だったらまずは自分たちの足で情報を集めなければいけないわね」
「街中で暴れたら簡単に誘き寄せられる!」
「そんなことをやったら別の人たちまで集まってきてしまいますよ」
「えー? じゃあ、あいつらのアジトに突撃する!」
「主様の話を聴いてなかったんですか?」
「むー!」
龍って長年生きているから知的なイメージがある。
しかし、今目の前に居るのはただの脳筋……幻想的な存在だと思っていたけど、なんだか夢が砕かれた感じで悲しくなってきた。
というか、エルフっ子と赤毛っ子はハーフなのにボクッ子は違うんだな。
囚われている人たちはいろんな種族とかハーフとかってことなのかな?
「作戦は任せる」
俺が前に出ると物事をややこしくしちゃいそうだしね。
何もわかってない人間は情報が整うまで待機していた方がいい。
「わかったわ」
「で、でも何から始めたらいいのでしょう。やっぱり情報収集からですかね」
「そうね。むやみやたらに動いても仕方がないから、時間をかけて確実に情報を集めましょう」
「もし構成員を見つけたらぶっ飛ばしていい?」
「ダメ。そんなことをしたら、尻尾を出さなくなっちゃうじゃない」
「むぅ~」
ボクッ子、何もかもが冗談に聴こえないし、さすがに脳金すぎるだろ大丈夫かよ。
「でも、時間がかかりすぎるのもよくないから……もしかしたら、魔力とかでおびき寄せるぐらいは手段として考えておくのもありね」
え? ありなの? 危なくない?
どうやって捕まっていたのかはわからないけど、常人じゃ太刀打ちできないキミたちを押さえ込むことができる人間たちなんでしょ?
……って俺が危機感を抱いていても、そんなことは当人たちが一番理解しているか。
エルフっ子も「手段として考えておくのもあり」って言ってたし。
「あ」
「ん?」
「ユシア、お願いがあるの」
無茶なお願いだけはやめてね。
「私たちに新しい名前を授けてほしいの」
ぐはっ、俺の一番苦手ジャンルがきたああああああああああ。
名前を付けるのが得意な人間が居るかと言われたら知らないけどさ、でもでもでも!
「……」
どどどどどういうこと? なんでそんなに3人して期待に胸を膨らませている、みたいな感じで俺に視線を向けているの?!
くっ……! 断ることができない……!
動揺していたって話が進まない。
考えろ、考えるんだ。
んー、ん~、んー! ん~!
エルフっ子、精霊とエルフのハーフ、魔法が得意、耳が長い、ちょっとお姉さん系、黄金の髪。
「エリーゼ」
「エリーゼ、エリーゼ……エリーゼ――エリーゼ」
え、そんな噛み締めるように復唱されると恥ずかしいんですけど!
もしかして気に入らなかった?! 知り合いに似ているとか? お母さんと同じ名前とか!?
「ありがとうユシア。私はこれから生涯を通して、エリーゼという名前で生きていくわ」
名付けって軽々しくやっちゃいけないのはわかっているんだけど、そこまで重く受け止められると責任の重圧に耐えられなくなってしまう!
「ボス! 次はボク!」
「よかろう」
うん、全然よくないけど。
龍に命名ってヤバすぎるでしょ。
さて……。
ボクッ子、天真爛漫、脳筋、近接戦闘、白髪、末っ子感。
てか、エルフっ子と違って邂逅したときに名前呼ばれてなかったけ? 赤毛っ子も。
今は考えても仕方がないか。
「ロイツ」
「ロイツ! いい名前! ボス、ありがとう!」
走り回って嬉しそうに名前を連呼し始めてしまった。
しかし、その好意は俺の羞恥心をこれでもかと刺激するからぜひともやめてもらいたい。
「主様、わたしもお願いします」
「もちろんだ」
ちょっとでも遠慮してくれたら便乗しようと思っていたのに……戦っているときと同じで、口調に居合わず強気なのかもしれない。
まあでも、ここまできて1人だけ仲間外れっていうのは可哀想だからね。
「クライス」
「主様、ありがとうございます! わたし、これからクライスと名乗ります!」
よし、とりあえずは修羅場を乗り切った……はず。
後から名前の変更を申し出られたらってことは常に考えておこう。
まあ、たぶんあんまり変わらないんだけどね!
「あ」
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