第28話『索敵と調査と破壊』

 それぞれが、正面、右側面、左側面から施設内へと進入。


 外観通りの中は工場……というわけもなく、機械などはないだだっ広い場所に辿り着いたのは秋兎あきととクリムゾン。


「索敵と調査ですね」

「危惧していた仕掛けは無さそうで一安心だな?」

「本当に機械音痴なので、そこら辺はお願いしますね」

「だがまあ、本当だったとしても、だ。俺より若いのに珍しいな」

「年齢なんて関係ありませんよ」

「まあそうだな、悪い悪い」


 どこかに机があって、その上に書類などがあったのならどれだけ調査が楽であろうか。

 薄暗いから警戒しつつ足を進めているわけだが、そもそもそんなことが関係ないぐらい何もない。

 いっそのこと、透明に隠蔽されていると言われた方が気楽になれるぐらいに。


「敵の気配もなし、証拠も痕跡もなし」

「そのままの意味だったら、既にもぬけの殻というわけですね」

「極秘裏に進んでいる作戦が、なんらかの経路でバレた可能性は考えたくないが」

「こういった状況でまず仲間を疑うのは辞めておきましょう。視野が狭くなってしまいます」

「まあそうだな」


 張り紙の一つでもあったのなら、と壁際全てを見回ってみるも、やはり何もない。


「てか不思議なもんだよな。組織の施設内だっていうのに、警戒すらしてないってか?」

「言われてみたらそうですね。監視カメラとかがあってもおかしくはなさそうですけど」

「外にもなかったぐらいだからな」

「人目が付かない場所に建てられている工場。何かをするためにはもってこいの立地。しかし敵の気配や状況証拠すらない」

「視野を広げると、偶然と偶然が重なって敵側がタイミングよく拠点を移したりしている可能性だってあるな」

「たしかに」

「無駄足ってやつになっちまうが」


 しかし、すぐに諦めるわけにもいかず2人は捜査を続ける。


「――ど、どこなんでしょう」

「私たち、敵地で迷子になっちゃったわね」

「ボク、せっかく活躍しようと思ってたのに……これじゃ怒られちゃうよ」

「大丈夫。何も大丈夫じゃないけど、そのときは私も一緒よ」

「うぅ……コスミックさん、ありがとうぅ」


 マリーとコスミックは、正面左側面の入り口から侵入。

 残念ながら、2人の会話そのままに施設内へ侵入後すぐに迷路のような廊下と数々の部屋で苦戦していた。


「いろいろわからないし、鍵がかかっているから壊して入っていこうと思うんだけど、ちょっとやりすぎかな」

「ちょうどボクも同じことを思ってました!」

「あらあら、私たちって案外意見が合うわね」

「じゃあ早速、1部屋ずつ全部壊していきましょーっ!」


 やりたい放題が始まる。


 マリーは扉を殴ったり蹴破ったり、コスミックもまた同じく。

 破壊衝動に駆られているのでは、と思われそうだが、2人は意気投合して面倒を片付けているだけ。

 後先考えず、というわけではないが音を出すことによるデメリットは考慮していなかった。


 しかし2人の破壊行動は止まらず、次々と扉という扉がぶち開けられていく。


「――さて、私たちは当たりを引いたみたいね」

「ええ」


 正面右側面の入り口から侵入した、セシルとクロッカスは1室の奥にあった隠し扉を解錠し、机の上に置かれている書類の数々を発見していた。


「こちらが入手している情報と一致するものが並んでいますね」

「モンスターを操作する装置の開発と実験――随分と恐ろしいことを考える人間が居るのね」

「難しいのが、非人道的な所業ではないこと」

「人類の敵を意のままに扱うことができると言うのは、判断が難しいところね。あちらの世界では、モンスターを手懐ける魔法などはあったけれど」

「モンスターと信頼関係を築くというのも、こちらの世界ではどう判断されるんだろうね」

「さあ。少なくともわたくしには関係のない話だから」


 散りばめられている書類を集めつつ、情報を摘まむ2人。


「敵組織というのは、明確な攻撃を加えてきている存在なのかしら」

「ええ、いつも陰湿的に回りくどいやり方で。ダンジョンで人を襲うこともあれば、テロのようなことも」

「ごめんなさい、テロというのはなんのことかしら」

「簡単に言ったら奇襲ね。不意を突いた騒動を起こしたり、こちらの行動を妨害する行為。民間人を巻き込んで立てこもったりも」

「卑劣で非道な連中がやることは、どこの世界も一緒ということね」


 2人は脇に書類の束を抱え、部屋を見回す。


「これ以上の情報収集は難しそうね」

「わたくしはアキト様の元へ行きたいのだけれど」

「それは必要なこと?」

「どういうことかしら」


 セシルは踵を返し、クロッカスへ鋭い目線を送る。


「私もあなたたちの能力は観させてもらった。だから、3人の能力は非常に強力ということも把握している」

「3人?」

「あなたと、紅髪の子と銀髪の子。見事というより、もはや怪物の領域よね。逆らおうとも思わない。でも」

「でも?」


 セシルは次に来るであろう言葉を予見し、眉を曲げて感情をむき出し始める。


「あなたたちの、主様? は、どれぐらいの能力を有しているのか把握できていない」

「……」

「というより、測らずとも従者に劣っている、と推測できる。あなたたちがなぜ崇拝しているのかはわからないけど、それはきっと優れた能力ではなく、尊敬に値する人間性にあるものなんじゃない?」

「クロッカスさん、最後の推測が素晴らしいから首を落さないでいてあげる。でもね、あなたもすぐにアキト様の素晴らしさを拝めることができるわよ」


 クロッカスは危機感をさほど抱いてはいないが、セシルは仲間だからと油断していた。

 しかしセシルは違った。

 次にアキトへ向けられる侮辱の言葉が飛んできていたのなら、書類を捨て容赦なく首を斬り落とそうとしていたのだ。


 本当に間一髪の状況で、クロッカスは運よく良い考察と発言をして首の皮一枚繋がっていた。


「煽っているように聞こえたのなら謝るわ。でも、あなたみたいな強者が従う道理を私は理解できないのよ」

「焦らずとも、すぐよ。そう、この後すぐ」

「じゃあ、それを期待することにするよ。だったら、私たちは私たちでやることをやるわよ」


 クロッカスは、左腕で抱えている書類を右手でポンポンと叩く。


「わかりました。今回は、アキト様のお戻りを待つことにしましょう。本当は、すぐ近くでご活躍を拝見したくはありましたが」

「ならちょうどいいことを思いついたわよ」

「どのような?」

「これ、音声通話できるだけじゃなく、連絡先を交換しているなら映像の共有もできるの。だから、隊長に連絡して待機しているメンバーで視聴すればいいのよ」

「わからない単語がいろいろありましたが、なんとなくわかりました。ではそのように」


 セシルとマリーは入手した書類を抱え、華音かのんたちが待機している場所へと向かい始めた。

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