第27話『作戦変更、やりすぎ注意』
かれこれ2時間ほど車に揺られて到着した、山の麓に立つ工場地帯。
「それで、俺たちはどんな感じに立ち回ったらいいんですか?」
車中で散々頭をこねくり回して苦労していた
「一応は、先ほど注文した通りです。基本的には、敵構成員の殲滅――いえ、全滅させてください」
「それは文字通りの意味で捉えて大丈夫ですか?」
「はい。生け捕り、など緩いことは一考しなくて大丈夫です。抵抗がなければですが」
拒否権のない要求をしておいて、とは自分でも思いつつも。
しかし、そんな心配とは裏腹に秋兎は即答。
「問題ありません。ご心配いただきありがとうございます」
「そ、そうですか」
華音は、その表情一つ変えない様子に――初めて、『文字通り人間離れしている存在』として認識を改めた。
「華音とやら。外見は年相応の少年であるが、それは表面だけだぞ。我が保証しよう」
「それはどういう?」
エグザが秋兎と華音の間へ入り、腕を組んで胸を張る。
「大前提として、アキトが成し遂げてきた偉業を全て耳にすればわかるぞ」
「な、なるほど」
「それに、人を殺めるということに抵抗がないわけじゃないんだろうが……大義名分を得て、正義の天秤が自身に傾いたとき――アキトは絶対に負けない」
「それはさすがに言いすぎでしょ」
「何を言っている。我を一瞬の一撃で仕留めておいて」
「え……?」
「まあ、さすがに我もあのときは冷静な判断をしたとは言い難いからな。悪いことをしたな、とは思うようになった」
「あのぉ……エグザさんは、あちらの世界ではどんな立ち位置だったのですか? てっきり、アキト様のお仲間だとばかり思っていたのですが」
エグザは、両手を腰に当てて鼻高らかに話を始める。
「我は魔界最強の魔王だった。それも、歴代最強! 人間界とは長年の戦争状態だったのだが……結末はさっきの通り」
「なるほど……」
「対面したのはたったの1回だけだというのに、驚きの連続だった。信じられるか? 勇者と英雄が手を組んでいるだけではなく、勇者パーティじゃなく、英雄が勇者をパーティに加えてるんだぞ。普通逆だろ」
「ええ、おっしゃる通りですね」
「しかも、別の世界から来た人間だというのだからふざけている話だ。さ・ら・に! まさかのまさか。邂逅一言目に『魔王、俺の仲間になってくれないか。一緒に戦争を止めよう』なんて言い始めたのだぞ?」
「わーお……」
「まあたしかに、そこに居る勇者じゃ言えない話だったんだろうが……まさかの便乗してきたからな。だからこそ、我はブちぎれて先手攻撃をしたわけなんだが――まさかの無抵抗で死んだんだ」
さすがに自分の話が繰り広げられてきたから、オルテも秋兎の左隣へ立つ。
「僕は、アキトの考えに賛同し尊重することを選んだ。だから、命令とか使命で敵対しなくちゃいけないとわかっていても、それに背くことになるなら抵抗しない、と決めただけだよ」
「ありえるか? 自分が死ぬんだぞ?」
「あやつらもそうだが、何がそうまでさせるのか――とは疑問だったが、アキトを俯瞰して観ていたら嫌でもわかったが」
「お2人はお亡くなりになられたのに、どうやって今のようになられたのですか?」
「俺がフォルの力を借りて空間を形成し、2人の時間を永久の聖域に閉じ込めました。そして完全に傷を癒し、神の目すら欺いてこちらの世界へ連れてきたんです」
「えぇ……なんだかもう、理解できない話過ぎて頭がパンクしそうです」
「だろ? 我にも理解できぬ」
「ちなみに僕も」
オルテとエグザは諦めの表情で手の平をゆらゆらと揺らす。
「あ、あのぉ……やはり要望をさせてください。これからの作戦、一応は地形を変えない程度でお願いしたいのですが」
「大丈夫ですよ。俺にそんな力はありませんから。オルテ、エグザ、フォルに意識してもらいましょう。この際、失敗を未然に防ぐという意味で3人には待機してもらった方がいいか」
「え、ここまで来て?」
「え、お預けなの?」
「ほら、華音さんにもしものことがないようにね。それに、移動用に車両も護っておいてほしいから。帰りが徒歩なんて嫌でしょ?」
「た、たしかに」
「それはたしかにそうだね」
「ということで、不満げなフォルには悪いけどそういうことになったから」
口をひん曲げながらフォルも前へ、セシルとマリーも集合。
「後からくる皆さんには、俺たちの支援として同行してもらうかたちでもいいですか?」
「はい、わかりました。人数はどのように割り振りますか?」
「俺に1人、セシルに1人、マリーに1人という感じでお願いします」
「かしこまりました。その、ここまで話を進めておいてなのですが」
「はい」
「相手の人数は、想定でも数十人は居るとされていますので、その……大丈夫なのでしょうか。相手の能力や武器なども未知数ですし」
「たぶん大丈夫だと思います。それに、だからこその待機メンバーです。俺たちも危険ですが、万が一でも逃亡を図った人間やここを反撃の的とされる可能性もありますから。あと、仲間の攻撃が一番怖くもありますし」
「たしかに、それそうですね。狭い場所で広範囲の攻撃は危なそうに思えます」
華音は、戦場での死因の一つでもある『仲間の誤射』、という情報が即座に脳裏へ過った。
そして、そんなこんな話をしているともう1台の車両が到着。
「お待たせしました」
リーダー、コードネーム『クリムゾン』、紅色の髪。
サブリーダー、コードネーム『コスミック』、藍色の髪。
遊撃担当、コードネーム『エメラルド』、緑色の髪。
援護狙撃、コードネーム『クロッカス』、紫色の髪。
それぞれの情報は、既に全員が移動中に確認済み。
「お久しぶりです、というほど日は経っていませんが、本日はよろしくお願いします」
「ああ、よろしく。ってか、前より人数が増えてる様子だが」
「説明は後でさせていただきます。それで、早速ですがお願いがあります」
「ああいいぜ。今回はそちらが主体となる任務って話だからな」
「今回は3人で殲滅任務を進行することになりました」
「ほほう」
「それで、1人に対して1人の支援をお願いしたいと思っています」
「そっちの3人で対処はする、だからバックアップを頼む、と」
「はい。お恥ずかしながら、俺たちはこちらの世界についてはかなり疎いですので」
秋兎は、『主に俺が』という言葉をとりあえず心の中にしまっておく。
リーダーであるクリムゾンはクリムゾンは顎を撫で、一瞬の迷いも心配の色すら見せない秋兎へ関心を向けつつ、様子見も兼ねているからこそ快諾。
「ああわかった。あれだろ、女の子には野郎じゃない方がいいだろ? 同行するのは、俺、コスミック、クロッカスだ。エメラルドは待機」
「お留守番は退屈そうですが、大人数なので逆に楽しそうですから大丈夫です」
「全然かまわないけど、どの子なの?」
「わたくしと」
「ボクです!」
「なるほどね、じゃあ私は元気いっぱいな子と一緒に行くよ」
「よろしくお願いしまーすっ!」
「元気があってよろしい」
「えへへっ、ありがとうございます」
照れ笑いをするマリーに、どこか妹味を感じて微笑むコスミック。
「それでは、よろしくお願いします」
「……よろしく。絶対に誤射はしないから」
対極に、サラッと挨拶が終わるセシルとクロッカス。
「てな感じで、よろしくな」
「よろしくお願いします」
秋兎とクリムゾンは握手を交わす。
「それで、最初はどうするんだ?」
「真正面から堂々と歩いて行きます」
「お、おう……」
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