第25話『学園長との邂逅』

「――というわけでして」


 放課後、学園長室にてさくらが今までの経緯を全て説明し、秋兎あきとが補足を加えるかたちで一旦は話を終えた。

 学園長はそれらを耳にし、眉間を抑えて目を閉じて理解に苦しんでいる。

 悩めるその姿はしているものの髪型もビシッと決め、上下スーツで格好もビシッていて、初老のダンディなおじ様はスタイル抜群――しゃがれた声のイケおじ。


「これまで、様々な人間を見てきた。黒織こくしきくんは、こちらの世界とあちらの世界の差異が曖昧だと思う。この世界は、ダンジョンができて変わってしまった。黒織くんのような超人めいた人間の話はあまり聞かないが……それに近しい人間は少なからず居る」

「それが、お会いしていただいた方々になります」

「え、それをここで話題に出して大丈夫なのですか?」

「はい。極秘事項ではありますが、こちらの学園長も関係者ですから」


 現在、学園長室には秋兎あきとさくら、学園長の3人だけ。

 赤を基調とした刺繍が成されている絨緞が敷き詰められており、左右には記念品や本棚が設置してある。

 最奥に大窓があり、その前に学園長が腰を下ろしており、桜と秋兎は中央に接ししてあるローテーブルとソファへ腰を下ろした。


 他のメンバーは、用意されている資料に目を通しているため別室で待機している。


「我々学園側も、黒織くんがどのような待遇を望んでいるかは把握している。そのため、しっかりとそれが保証されるよう人員配置もしてある」

「先生方も、いざとなったら戦える人選をしてある。というわけですか」

「ああそうだ。しかし、それでは偽りの学園生活となってしまう。だから、そうではない普通の教師も居る。それに……」

「ここからが本題になります。秋兎様にも関係のある」

「ダンジョンができて以来、様々な人間が力を有するようになった。それは善もあり悪もあり。異世界のような場所でも、そのような輩は居たと思うが――現代の悪は相当にたちが悪い」

「と言いますと?」

「警棒が効かない、銃弾を弾いたり防ぐ。人間的な振りを魔法などの力によって反撃され逃亡。逮捕できたとしても護送中に仲間からの奇襲によって――と、やりたい放題状態でいろいろと苦労しているんだ」

「あぁ……」


 異世界でもそういったことは当然あった。

 だから、当人が魔法を使用できないような封印魔法や魔法無効の枷を作成したり――と、様々な対処法が用意されていたのだ。

 それと当然ではあるが、あちらの世界では取り締まる側も魔法などを行使できていたから、対応もスムーズだった。


「それに加え、最近では悪の組織が暗躍し始めている、という情報もこちらへ入ってきている」

「どういった?」

「最近だと、モンスターの使役か、とかか」

「魔法を行使した隷属、といったことでしょうか」

「まあ、もしかしたらそれもあるかもしれない。だが、現代の厄介なところは別のところにある。というのも、魔法を使えない人間でもモンスターを使役できるようにする機械などを開発しているという話だ」

「……なるほど。俺も、異世界へ召喚させられたときにいろいろと思うことがありました。『ああ、こんなものがあったいいのにな』とか『現代の何かと魔法を組み合わせたら便利なのにな』って。それが、こちらの世界で実現し始めている、と」

「たぶん、そういうことなんだろう。その発想や発明を、ぜひとも良い方向へ貢献してくれたらうれしいのだが」


 学園長は腕を組み、落胆している表情でため息を零す。


「我々としても、国としても、現状を由々しき状況と認識していてもいろいろと手が回っていない状況にあります」

「困ったことに、国内だけを気にしているだけではいけなくてね。はぁ……敵は外からも迫ってきているんだ」

「だから、自由に動かせる特殊部隊と俺たちに動いてほしい、と」

「そういうことになる」

「危険性は計り知れないですから、できるだけ早めに対処しておきたいですね」

「まさにその通りなんだが……残念ながら、しらみつぶしにやっていくしかない状況まで事が進んでしまっているようだ」


 学園長は天井へ顔を向け、まぶたを閉じて悔む。


「事情は理解しました。それで、所在の方は」

「ああ、ほぼ確定の場所は1カ所だけある。そこを潰してほしい」

「確認ですが、地上ですよね。制限の方は」

「いや、そこに関しては大規模にならなければ制限を設ける必要はない」

「できるだけ自重はしますが、本当に大丈夫なのですか?」

「それに関しては、既に随分と揉めた後でね。結論、我々が行使できる力を示す必要がある、となった。だから、ある程度は許可が下りている」


 桜は額に手を当て、学園長が伝えた内容に頭を抱える。


「私は、最後まで忠告し続けたのですが。映像を視聴してもらいましたが……それが逆効果となってしまいまして。加減は、秋兎様に委ねられましたので、どうぞよろしくお願いします」

「わかりました」


 もはや、肩の力が抜けて呆れている様子を隠そうともしてない桜を見て、秋兎はなんとなくの流れを察した。


「これより移動となりますので、お車まで」


 桜と秋兎が立ち上がると。


「我々は、黒織くんたちに期待しているからね」

「ありがとうございます」


 桜と秋兎は一礼し、そのまま部屋を後にした。

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