第24話『賑やかすぎる昼食タイム』
「……」
(どうしてこうなった)
ちょうど6人が着席できる長テーブルに、それぞれが注文した料理が乗っているトレーを置いて食事をしているわけだが……。
通路側の席に
なんせ、つい先ほどまでは新しい転校生2人と知り合いだと把握していなかったのだから。
「この食べ物は、なんというのですか?」
「うどん、だね。消化がいいし、柔らかい歯ごたえで食べやすい。でもズルズルッとすすりながら食べるんだけど、汁が飛び跳ねるから注意してね」
「じゃあじゃあ、こっちの
「ああ、どっちも熱いかもしれないから注意ね」
セシルとマリーは、どんなものかすらわからず注文していたが、目をキラキラとさせている。
そんな感じで、各々がそれぞれの反応を示しているわけだが、それらの反応を見て
が、目の前で繰り広げられる楽し気な空気を壊したくはなく、周りから向けられる沢山の視線に発言して注目を浴びる勇気はなかった。
「アキトが食べようとしているのはなんていうの?」
「これは卵とじのカツ丼だな」
「へえ~。もしよかったら一口だけ貰ってもいいかな」
「ああ、それぐらいだったらいいよ」
「それじゃあお言葉に甘えてっと」
オルテが、自身のフォークで一切れだけ口に運ぶ。
「おぉ、これは美味しい。アキトは食を選ぶ才能もあるのか」
「いいや? これが、ここでの当たり前だ。他にも沢山の美味しいものがあるぞ。そのハヤシライスだって、間違いなく美味いぞ」
「――お、本当だ。この……なんとも言い難い美味しさは、いつでも鮮明に思い出せそうだ」
そんな、男同士の仲睦まじいやり取りを桜は眺めていたが、他は全く別の目で見ていた。
「アキトくんっ、わたくしにも一口ください!」
「ん? ああ」
「アキトくん! ボクにも!」
「おお。大丈夫か? 自分のもあるだろ」
「アキト、妾にも一口」
「おう」
「アキト、我にも」
「おいおい、みんな自分の分があるだろ。それに、次食べ――ああ!」
悲しきかな、秋兎の丼ぶりに残されたのは少量の卵と半分だけ残ったご飯だけとなってしまっていた。
「俺のカツが……」
「でしたら、わたしくのうどんをお裾分け致します」
「アキトくん、ボクの蕎麦もっ」
「妾のカルボナーラ? というやつも」
「我のオムライスも分けてやろう」
「僕のハヤシライスもあげるよ」
「お……おう」
それら全てが1つの丼ぶりに盛りつけられ、完全に見た目が歪になってしまう。
彼ら彼女らは完全な善意でやっているのをわかっているからこそ、秋兎は苦笑いしかできない。
唯一、桜だけわかってあげられるが……華やかで賑やかな状況で言い出すことができるはずもなく。
そう、桜は目の前に居る美男美女に緊張と遠慮している面もあるが、周りに集まってきている人たちの多さに萎縮中であった。
「それでみんな、勉強は大丈夫そう?」
「はい、クラスの皆様がいろいろと教えてくださっていますし、先生も優しく教えてくださいますので頑張れそうです」
「僕も同じく。未知の勉学は、ワクワクが止まらないよ」
「まあ、優等生のお前たちは大丈夫だろうな」
「アキトだって、いつも通りに理屈を紐解いてものにしてしまうんだろう?」
「オルテ、残念ながら俺にそこまでの能力はない。謙遜ではなく、桜さんに事細かく教えてもらってるから証人になってくれる」
自分が入り込めなさそうな空間を前に、黙々と食事を勧めて話を右から左へ受け流していた桜は、自身へ向けられる目線にハッと我に返る。
「え、え?」
「桜さん、俺はまだまだ勉強が必要そうだよね」
「う、うん。でも、テストまで時間があるから焦らずにやっていけばいいと思う、よ」
「ほらね。俺、勉強は正直に言って不得意だからさ。間違いなく、2人に追い越されるのはそう遠くないと思う」
「えっへん、ボクはさっぱりだよ! みんながいろいろと教えてくれても、ぜーんぜんわからない!」
「誇ることじゃないが。マリー、その気持ち俺ならわかってあげられるぞ」
マリーは、アキトの言う通り誇らしいことではなくとも、共感してもらえた嬉しさから、それはもうニッコニコで感謝を告げた。
「妾が2人と同じ枠ではないのが自問で仕方がないのじゃが」
「我も同じだ。どうしてそちら側ではないのだ」
「フォルとエグザはどうなのかわからないけど、たぶん順番をスッ飛ばして答えを出しそうだなって思っただけだ」
「ほほう、さすがはアキト。妾をわかっておるのぉ」
「我は違う、と言いたいところだが、たぶんそうなんだろう。自分でもそんな気がする」
秋兎は『これから始まる勉強及び学業を頑張ろう』、と意気込みながら、闇丼を口に運び始める。
(そういえば、放課後はお姉さんから用事があると言われていたんだった。なにやら、もう1つの方で何かあるらしいけど)
「おぉ、たしかにハヤシライスっておいしいね」
「このオムライスもなかなかに美味しい」
(まあ、学園で生活しているときだけは、そういった別のことを考えずに学生を楽しむことにしよう)
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