第四章
第21話『驚愕と挨拶と困惑』
「あ」
「どうした、浮気者」
昨晩、誰にも相談せずに2人を自室に招き入れた事実は、まあ頭を抱えるほどのことではない。
オルテは自分の衣類を貸し、エグザには女性用の衣類がなかったからぶかぶかではあるもののワイシャツを貸した。
しかしベッドではキャパオーバーだったから、クローゼットの中にあった布団などを活かして床に寝た――ところまではよかったものの、じゃんけんをしてオルテがベッド、
「なんで俺の上に跨ってるんだ」
「こうして誰かと寝泊まりするのが初めてで、なんとなくやってみたかったから」
「いやいや。今、自分がどんな格好なのかわかってるのか」
「この服以外はすっぽんぽん」
「それがわかっているんだったら、少なくとも今はそれをやるべきじゃないだろ。魔王として、女としての恥じらいというものがないのか」
「なんだアキト、我を女として認識してくれていたとは驚いた」
「最初からそう思ってるよ」
「だったら少しぐらいはその気を見せてくれてもよかっただろ」
「ふざけるな。そもそも、俺は停戦を申し出て仲間へ勧誘したのに先制攻撃を仕掛けてきたのはエグザの方だろ」
「あー、そんなときもあったな。でもさすがに世界や国家間で戦闘していたのに、その申し出を受け入れられるわけもなかろうて」
「そうだったら、この状況はおかしすぎるだろ。てか、そろそろ迎えが来るからどいてくれ」
「だったら、どかしてみるんだな」
はだけているワイシャツをクイッと持ち上げてきわどい状態にしたり、ひらりひらりと裾を持ち上げている。
「くっくっくっ。神をも超えた英雄が手も足も出ないとは、随分と情けないなぁ」
「くそっ」
どこを触ったらいいかわからない秋兎は、もはや腕で目を覆う他なかった。
しかし、そんなときに助け船が――。
「おはよう2人とも」
「オルテ、ちょうどいいところに来てくれた。さすがは勇者、俺のピンチを救ってくれ」
「お取込み中の様だから、僕はあっちで待ってるよ」
「くくく、見捨てられたな」
「おい、オルテ!」
――行き去ってしまった。
「ほれほれ、英雄様が弱すぎて手も足も出てないぞ~」
「そろそろ迎えが来るから――あ」
その懸念はすぐに訪れてしまう。
チャイムが鳴り、本当に小さいが「おはようございます秋兎様」という声が聞こえてくる。
しかし、このまま出なければ『まだ起きていないから出直そう』と離れて行ってくれる――という淡い期待は、行き去った船もとい勇者オルテが崩していく。
「はーい。あれ、開かないな。これをこうしたらいいのかな――お、開いた」
初めての世界でもさすがの順応力で施錠をどうにかしてしまい、扉を開ける音がアキトの耳に届いてしまう。
「あれ、どなたですか?」
「初めまして。たしか……
「え、ええ。どうしてその情報を」
「僕の名前はオルテ。アキトの親友です」
「そ、そうなのですね?」
普通に会話しているだけならいいものの、そこへよろしくない要因が追加される。
「桜さん、おはようございます」
「おっはようございます!」
「おはようなのじゃぁー」
「皆さんおはようございます。早速で申し訳ございません、こちらの方はお知合いですか?」
「やあみんな。随分と可愛らしい制服姿でお出ましだね」
困惑気味な桜は、同じ世界の住人の可能性を見出して助け舟を出す。
「――アキト様を悲しませた勇者です」
「アキト様に付きまとっていた勇者だ」
「勇者じゃの」
「な、なるほど」
「そういうことなんです。信じてもらえましたか? フォル様は僕のことを知っていたとして。2人は久しぶりに顔を合わせたというのに、驚きもせず随分と寂しい対応じゃないか。僕、泣きそうだよ」
「冗談はやめてください。わたくしはアキト様以外の男性と仲良くするつもりはありません」
「ボクは腕試しさせてくれなかったから、妥当じゃない?」
「悲しいなぁ、僕だって仲間じゃないか」
「そんなことよりです。オルテ、そこをどいてください。嫌な予感と匂いを感じます」
「はいはい。おー怖い怖い、女の勘ってやつ?」
「アキト様、お邪魔します」
セシルは直感に従い、部屋へ上がる。
鋭い目つきで今を捜索し、次にベッドがある部屋――しかし秋兎の姿は見えず。
部屋に居ないのでは、という考えには至らず、次の部屋へ。
「おいエグザ、早くどけ」
騒ぎとすぐ近くまで迫っている足音に焦って声を小さくするも、時すでに遅し。
「――アキト様、何をしていらっしゃるのですか」
「お、おはようセシル」
「……そこに居る女、まさか――魔王エグザなのですか」
「さすがに我の存在はすぐに思い出すか」
「アキト様に一撃で敗北した存在でしたから、思い出すのに時間がかかってしまいました」
「くっ、言いよるな」
「そんなことより、早くアキト様から離れなさい――って、なんでアキト様のワイシャツを着ているのですか!」
「アキトが『これを着ろ』と渡してきたからな」
「私でもそんな羨ましいことをしていないのに……」
「ふんっ」
勝ち誇った表情で挑発するエグザに、悔しそうに歯を食いしばるセシル。
「早くどけなさい!」
「そうやって強引に引き剥がされると」
「だからなんですか!」
「我はこれしか来ていないから――あ」
「あ」
「え?」
秋兎は、見てはいけないものを拝むこととなってしまう。
そしてすぐ、エグザはセシルから本気のゲンコツをぶち込まれ叫びをあげるのであった――。
「と、言うわけで新しく2人が加わりました」
「よろしくお願いします」
「よろしく頼む」
とりあえず全員が秋兎の部屋へ入り、今で腰を下ろす。
秋兎を中心に、右にオルテ、左にエグザ、後方にセシル・マリー・フォルという感じに。
そしてすぐ、桜への挨拶が始まる。
オルテは姿勢を正してニコニコと、エグザはジンジンと痛むたんこぶを患いつつ頭を下げた。
「いろいろと理解し難いですが……そういう世界観なのですよね」
「はい、そう思ってもらえたら幸いです」
「わかりました。いろいろと手配しておきます」
「そういえば気になっていたのですが、ここは数階分あると思うのですが他の生徒も住んでいるのですか?」
「ええ、カモフラージュも兼ねていますので。全部で5階分あるのですが、ここの3階は皆様だけでして、2階と4階は誰も住んでおりませんし、住ませません。全ての家賃はこちら持ちですので、お気になさらず」
「俺たちを第一に考えてもらい、本当にありがとうございます」
「まあでも……最近の件を踏まえると全く必要がない配慮だとは思いますが……」
「いいえ、俺やオルテは別にいいとして。4人は女の子ですから、そうしてもらえるとこちらとしても安心です」
「アキト様!」
「アキト様ー!」
「ひゅーっ」
「これが英雄とやつか」
「わかるわかる、色を好むってやつね」
いろいろな方面で好き放題な言葉を耳にしつつ、なんとか無反応を貫くアキト。
桜も、オルテの言っていることは理解できてしまうため小さく頷いていた。
「ということで、学園の方も――と言いたいところだけど、2人はどうしたい? いろいろと覗いていたんだろうし、判断は任せるよ」
「我は興味があるぞ。人間の生活すら知らなかったからな」
「僕は、まあーアキトが通っているから行こうと思う」
「わかりました、手配はこちらでしておきます。ですが、通えるクラスを今はお伝えすることができず申し訳ありません」
「大丈夫です、できたらアキトと同じクラスになれたらいいなって思っているだけなので」
「我も問題ない」
「それでは早急に手配しますので、少しだけお時間いただきます。制服もこの後すぐ手配しますので」
「え、そんなに早く対応してもらえるんですか」
「もちろんです。1日でも早くこちらの世界に馴染んでもらいたいので」
「何から何までありがとうございます」
「いえいえ大丈夫です。連絡を入れますので、少々お待ちください」
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