第20話『深層心理の世界で』
「【暁煌の英雄】と人々から称賛の嵐だったのに、どうしてその名誉を捨てたのか未だに理解できない」
「まあまあ。でもさ、アキトがそう判断しなかったら僕は今頃ここには居なかった。でしょ?」
「それはそうだが。だからこそ、理解できない。其方は随分な好待遇よね」
「まあね。なんせ、僕はアキトの親友だから」
「かぁーっ。我に敗北して一度は命を落としたというのに、そう気やすく話しかけられるのも理解に苦しむ。其方たちは人間は、本当に理解できぬ。それとも、2人だけなのかもしれぬが」
「あはは、それはどうなんだろうね」
とある空間の中、余裕の表情で笑う人間と王座に腰下ろして顔を歪める魔王が居る。
建物などなく、空も池も土もなく、ただ光に包まれている空間に。
「我の敗北は夢かと思ったぞ。なんせ、確実に首を斬られて敗北したというのに目覚めたのだから」
「僕も同じだから、気持ちはわかってあげられるよ」
「しかしずっと疑問なのだが、この空間――英雄様のお出ましか」
2人の目線の先に、毅然とした態度で歩く
「最初は心配だったけど、2人とも仲良さそうにしていた安心したよ」
「はっ、どの口がそれを言っているんだ」
「たしかに少しだけ意地悪だったな」
「僕からも頼むよ。この空間はいったいなんなの?」
「そうだな、そろそろ説明するとしよう。簡潔に言うと、ここは俺が創り出した別世界の空間だ。そして、ここの存在意義は負傷した2人を治療するため」
「なんとなく言っていることは理解できる。あのときの傷もなくなっているし、不思議と活力も漲ってくる」
「そして、神を出し抜くための空間でもある」
「はぁ……なんとなくわかってしまうのが気にくわない。だが、この世界にオルテを連れてくるならまだわかるが、なぜ我も連れてきた」
「薄々はわかっているんじゃない?」
「……」
エグザは視線を落とし、胸の前で手を握っては開く。
「我の魔力を媒介に空間を維持し、それと同時に我とオルテの治療をする。といったところか」
「ああ、そういうことだ。フォルの力を借りるのもよかったけど、大事な場面で全力を出せなくなってしまうからね」
「我の片割れは、随分な活躍だったじゃないか。ここから全てを観ていたぞ」
「ああ忘れてた、そういえばここから俺が観ている景色を覗くができるんだったね。じゃあいろいろと説明を省けるね」
「目的を達成したから、我は用済みということか」
「いやいや、その逆さ。エグザ、俺の仲間にならないか」
「……は? なんの冗談だ? 我はお前の友を死に追いやり、人間と敵対していた魔王なのだぞ」
「そこら辺の事情はフォルから全て聞いている。この新しい世界に君の敵は居ない。そして、俺の親友はこうしてピンピンしている。他に何か問題があるか? そろそろいいんじゃないか、望まぬ地位に縛られる必要はなくなった」
「……我を縛る鎖はもうない、か。だが、元々は敵同士。寝首を狙うかもしれぬぞ?」
「俺に一撃で負けたキミが?」
「くっ! 何も言い返せぬ! 我を倒した後の活躍も全て観ていたし、神々との遊戯も全て観ていたからこそ、其方に勝てる見込みは皆無だ。それに、従者たちの力も増しているようだし」
エグザは立ち上がり、歯を食いしばりながら地面である場所を蹴る。
「でもこの世界に放り出すわけじゃない。みんなは俺が説得する。それに、俺はお前を独りにはしない」
「……」
「だから契約を交わし、互いの力を分け与え制限する」
「ほう。其方が弱体化すると? 利点は?」
「俺は仲間を絶対に見捨てない。それに甘さは捨てた、キミに負けたあのときの失敗を教訓に」
「アキト、あのときの判断は決して間違いじゃなかったよ。だから気にしないで」
「いやこれだけは譲れない。俺は、力を得始めてからどこか全てが甘くなっていた。だから、魔王と話し合いで解決できるし仲間になってくれると本気で思っていた。だがそのせいで、お前を死なせてしまった」
「……すまないが、我はその件で謝罪するつもりはない」
「いいさ、それで間違っていない。キミには自分の立場があったし、護らなければならない人たちが居た。だから、これは俺だけの問題だ」
アキトはエグザへ歩み寄り、拳を突き出す。
「契約は簡単さ、ただ拳を重ねるだけで終わる」
「まさか魔王が勇者に敗北するわけでもなく別世界から来ただけの人間に敗北し、従者になろうとはな。今でも信じられん」
「心を許せる仲間と一緒に生活するっていうのは、思っている以上に悪いものじゃないよ」
「だろうな」
エグザはアキトの拳に拳を当てる。
「それじゃあ、次に目を醒ますのは俺の部屋だ。椅子に座って待っていてくれ」
「新しい世界を少しでも楽しむとしよう」
エグザの体は光に包まれていき、そのまま姿を消した。
「アキト、僕とも契約はしてくれないのかい?」
「無理がだろ。オルテには勇者の加護があるんだから」
「この加護も斬っちゃうことってできないの?」
「さあ、それはやってみないとわからないが、いろいろと便利でいいじゃないか」
「魔王以外からの攻撃死ぬことはないってだけの加護でしかないのに、捨てられないのかな」
「いやいや、もっといろいろあるだろ。人類最強チート人間のくせに贅沢をいうな。あのときだって、俺の偽善な戯言に付き合っていなかったら死なずに済んだだろ」
「そうだったかな、過ぎたことは忘れちゃったよ」
「う、うぜぇ」
「あっはは、やっぱりアキトは僕の前では素で居てくれるんだね」
「当たり前だろ、親友なんだから」
「そう言ってもらえると本当に嬉しいよ」
「あーはいはい。その調子で、これからも頼む」
「頼まれました。じゃあお先に」
アキトがオルテを地上へ送ることなく、姿を消した。
「ったく、これだから勇者って意味がわからないんだ。俺からの誘いがなくても勝手にここから出ることができただろうが」
ため息交じりに呆れているアキトも、自身の部屋へ戻った。
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