第27話『ダンジョンにある憩いの場』
「う、うぅ……いたたたた……」
「今回もいい走りだったよ」
あのスライディングは、やっぱり素肌が出ている個所は擦り傷や出血していた。
「さすがにちゃんと休憩した方がよさそうだね」
「だね。さっき走って思ったけど、思っていた以上に疲労が溜まっていたみたい」
この、ダンジョンで所々にある憩いの場所は、総じて入り口は一ヵ所のみ。
各々で広さだったり形状は違うけど、簡単に言ったら隠し部屋だ。
今、僕たちが居る場所は4畳ぐらいあって、両手を伸ばして立つことができる感じのほぼ四角くなっている。
「それにしても、凄いねここ。まさか、ダンジョンの中にこんな場所があったなんて」
「最初は驚くよね」
「うんうん。なんかこう、生活ができそうな空間なんだね」
「ちなみにその通りで、長期間の遠征を視野に入れている場合は必ず活用されたりするんだ」
「ということは、ここよりもっと下の階層にもあるんだ」
「そうだね。場所によるから、全部が全部そうじゃないんだけど。でも、一番広いところはここより10倍ぐらいはあったりするね」
「じゅ、10倍?! 何それ……もう、お屋敷とかの広さじゃん! いや、体育館とかそういう感じの」
「大体そんな感じ」
「それに、この……溜まってるお水? みたいなのはなんなの?」
「実はこれ、回復薬の原料なんだよ」
「え」
「まあでも、これも凄くて。階層に見合った分だけの回復量しか見込めないんだ」
「じゃあ、ここのはそれほどって感じなんだ」
「うん。階層とかレベルとかいろいろあるけど、簡単に言ったら、これはほとんど回復しないけど、下階層のやつを飲んだら即時回復って感じ。それでも、レベルが高い人は何回も飲まないとダメなんだけど」
「あ~なるほど、そういうことね。じゃあ、人数が多いとあんまり回復が見込めないってことだよね」
「そうそう、そういうこと」
だからこそ、地上で入手できる回復薬は効果が薄いものは安価で大量に入手することができるけど、その逆は値段が高いのもあるけどそもそも入手困難。
こちらの世界では、全体的な知識量や攻略階層数が多くないから、なおさらだろう。
でも、全部が全部そうというわけでもないらしい。
「これだけ穴が開いているのに、溢れたりしないのかな」
「それはたぶん、こういった場所で原料を採取しているか、飲んだ後だろうね」
「なるほどなるほど」
「
「そうだね、そうするよ」
「まあでも気を付けて。飲んだ瞬間から回復し始めるけど、ちゃんとお腹に溜まるから」
「――え!」
「あー、まあしょうがない」
莉奈は両手一杯にガボガボと飲んでしまった後で、既に三杯目へ突入していた。
「これ、戻すのはマズいよね」
「バレることはないからいいんじゃない?」
「……やっぱりダメだよ。もうお口付けちゃったし、衛生面的にも」
「じゃあ、当分は休憩ってことだね」
「ご、ごめんね」
ゴクゴクゴクと飲み干した莉奈は、壁に背をつけて回復を続行。
「本当だ。体の内と外から回復されている感じがする。ちょっと違うかもだけど、温泉に入っているみたいに温かい。で、でも」
「お腹がたぷたぷ?」
「うん。絶対に今走ったら間違いなく悲しいことになる」
「まあ無理せずに休もう。というか、仮眠を取ってもいいかも」
「え? ここが安全地帯っていうのはわかったけど、ダンジョンで寝ても大丈夫なのかな。モンスターって、本当に来ないの?」
「それが凄くって。ここ、ダンジョンの中なのにダンジョンの中じゃないみたいな感じの場所なんだよね」
「言われてみたらたしかに。ダンジョンは人間を拒む場所。だというのに、回復できる液体? があるし、こんな休憩できる場所もある。なんだか不思議だね」
「ちなみに、完全に空間が遮断されていてモンスターは僕たち人間を認識できなくなるだけではなく、匂いも遮断されるんだ」
「えぇ!? 何そのビックリ要素」
驚いて急に体を前のめりにするものだから、莉奈は「うっ!」と口を押さえている。
「ご、ごめん」
「無理せずにね」
「うん……」
「でも注意しないといけないこともある。ついさっきの例にすると、モンスターを引き連れてここへ入り込んだら、それだけで追跡は完全に終了する。でも、標的を見失ったモンスターが元の場所へ戻って行くわけじゃない」
「え、それじゃ――」
「大丈夫。その懸念はちゃんと潰しておいたから」
「本当に凄いね。だからこそ、罪悪感がどんどん増えていっちゃうけど」
「気にしないで、と言われても素直にそう思えないよね。今回は、いろんな不運がと不注意が重なって起きた事件だからしょうがない」
今回の件は、自分たちに非がないとは完全に言い難い。
あのような目論見をする人間が悪い話ではあるけど、こんなこと、あっちの世界でもあったこと。
ありとあらゆる経験をしてきた僕が、こっちの世界が久しぶりだったからと言い訳していい話じゃない。
初々しい莉奈と一緒に行動して、人の良さそうな2人とパーティを組んで浮かれていたのは確かだ。
ここは、判断を誤ったら簡単に命を落とすダンジョン。
既に僕だけの命じゃないんだから、少なくとも地上へ戻るまでは気を緩めてはいけない。
「私、もっと強く……なれるかな……」
「うん、きっとなれるさ」
「よかった……これで、もっと沢山お金を稼げ……る……よ……」
莉奈はコクッコクッと頭を前後させ始めた。
「具合が悪くならないなら、横になって寝ちゃっていいよ」
「うん――ごめんね――」
両腕を枕にして横になった。
さて、少しでも生存確率を上げるため、僕にできることを始めよう。
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