第26話『緩歩、蹂躙、退避』
「う、嘘……」
始まった、第11階層の逆攻略。
だけど、足を踏み入れた瞬間に絶望的な状況が広がっていた。
「これ、どうしたらいいんだろう」
基本的に階層移動用の階段はモンスターが出現することはない。
しかし入り口付近は例外である。
「どこを見ても【ダイウルフ】が沢山……」
こういう感じに、まるで行き先を阻むようにモンスターがうじゃうじゃと出現していることもある。
通常だったら、逆の方向から進んでくるから時間をかけたり諦めたりしたらいいわけだけど。
今の僕たちは地上に戻るため、どうしても突破しなくてはならない。
「この様子だと、さっきみたいな強攻突破はできそうにないね」
「だよね。じゃあ、少しずつ倒していく……のも大変そう」
じゃあ他の人たちはどうやって突破しているのかというと。
そもそも、ボス攻略を成し遂げた人がこの階層へ進むのだから、人数が多い。
だから混戦となっても対処できる。
ソロでの攻略も可能だが、それを可能とするだけのレベルやステータス、知識や経験がある人間じゃないとほぼ無理。
僕みたいにレベルを上げまくっている、とかそういうことが必要となるわけだ。
「できるだけ体力を温存したいから、駆け抜けても戦闘してもいい判断とは言い難い。でも、やるしかない」
「さっきの感じから考えると、駆け抜けるのはほぼ無理だよね」
「そうだね。やったとしても、たぶん階層の中央に到達するぐらいには40体ぐらい引き連れてることになりそう」
「だ、だよね……考えるだけでゾッとするよ。しかも、息切れし始めタイミングで戦わなくちゃいけなくなったら、本当に地獄」
できるだけ体力を消耗したくはない。
それはボス部屋が――。
「ねえねえ、変な質問しちゃうんだけどさ。
「……それはそれでありかも」
「あ、でも。ダンジョンの性質を考慮するなら、討伐し続けても出現し続ける原因になるってことだよね?」
「それもたしかにそう」
言われてみたら、たしかにそうだ。
全て
だから言われて気づいたけど、ステータス値の暴力を行使したら――歩いているだけで体力は減らないし、殴るだけでモンスターは消滅する。
「わかった。莉奈は、できるだけ僕から離れないで。そして、今回は直線的な移動を避けよう」
「どうするの?」
「基本的に壁沿いを移動する。そうすれば、少なくとも全方位を警戒しなくて済むから」
「なるほど!」
「でも、かなり強引になるから覚悟だけはしておいて。僕は大丈夫でも、莉奈はそうじゃないんだから」
「……だよね」
「それに、莉奈が言っていた通りでモンスターを討伐し続ければ、別のところでモンスターが出現するから。あと、僕も完璧じゃないから、もしかしたらがあるかもしれない」
「わかった、気を抜かないようにする」
「じゃあ、まずは少しだけ入り口付近を片付けるね」
漆黒の短剣と直剣を抜刀して、歩き出す。
最初からステータスの暴力を披露してもいいけど、それでは咆哮を上げられて仲間を呼び寄せてしまう。
だから、できるだけ静かに歩いて――短剣を飛ばして戻してで討伐する。
「――」
『――』
『――』
呼吸を乱すことなく、冷静に短剣を飛ばし、括り結んである紐で手繰り戻す。
暗殺紛いの攻撃で【ダイウルフ】たちは、声出すところか自分が死んだことにも気づかずに消滅していく。
1体、2体――5体、6体。
とりあえず、近距離の【ダイウルフ】は討伐完了。
あとは、ここから右の壁沿いを移動しつつ邪魔になる【ダイウルフ】を討伐していく。
「――」
僕は莉奈へ無言のまま頷き、合図を出す。
「――」
莉奈は合図に気付いてくれて、音を立てないよう歩き出した。
走り出したい気持ちをグッと堪えたまま足を進めて、目と目があったとしても、すぐに短剣を投げて対処する。
討伐数はすぐに10体へ。
「――」
できるだけ繰り返し莉奈へ目線を向けて、出現するモンスターへの警戒も怠らない。
「――んっ!」
しかし、それでも完璧に事が運ばないのがダンジョン。
振り返ると、短くても声を漏らしてしまったことを隠すように口元を隠していた。
声と同じぐらいのタイミングで、カランコロンと音がしたから、たぶん石ころを蹴ってしまったんだろう。
目線を上げたまま辺りを警戒していると、足元が疎かになりやすいし、緊張や疲労のせいで足が覚束なくなっていたのかもしれない。
『グウゥ』
『ガウワウ』
そう遠くなくとも、これだけ静寂に包まれているダンジョン内で、あれだけの音を出したのなら少し離れていたとしても気づかれてしまう。
だけど短剣で対処できれば――。
『ワォオオオオオンッ!』
くっ、残ってしまった方が咆哮を上げてしまった。
「――っ!」
莉奈が咆哮を上げた【ダイウルフ】を討伐してくれたおかげで、目の前は大丈夫になった。
しかし、莉奈の状態を推測したそのままだった場合、戦闘を継続しつつ移動をするのは厳しい。
だったら。
「莉奈! 壁沿いに走り続けて! 横と後ろは僕が対処するから」
「わ、わかった!」
莉奈が走り出し、僕はできるだけ左側を維持して走り続ける。
「このまま走り続けたら、屈まないと入れないけど小穴がある。それを見つけたら、迷わず飛び込んで」
「うん!」
『ワオオオオオン』
『ガウガウガウ!』
咆哮に呼び寄せられた【ダイウルフ】たちが接近してくる。
短剣の射程距離に入り次第、次々に倒していくけど嗅覚が鋭いモンスターは本当に戦いにくい。
大体は方向が聞こえた場所へ向かってくるんだけど、こいつらは嗅覚や聴力がいいから自分たちで索敵してくる。
7体、8体――10体、12体。
たしか、もう少し、もう少しで――。
「あ、あった! ケガしても治せるケガしても治せる――たぁっ!」
「わお」
まさかの、莉奈は野球選手がやる上半身からのスライディングで小穴へ突入していった。
ああ唱えていたということは初めてやったんだろうし、不慣れでやったら顎とか手を痛々しい感じに擦るんじゃないかな?
屈んで入るぐらいの時間は稼げたけど……まあいい。
「一旦、全滅させる」
注意を分散させる必要はなくなった。
「はっ! はっ!」
握る直剣で薙ぎ斬り、握る短剣で突き裂く――14体、16体。
殴って蹴って、回転してスライディングして――18体、20体。
「よし、これで大丈夫」
集まってきた【ダイウルフ】を全滅させ、僕はゆっくりと屈んで小穴へ入った。
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