第24話『他力ではなく、自力で』

「ふっ! はっ!」


 団体になっている【ファウルフ】たちを、わざわざ自分たちのところに来るまで待っている必要はない。

 混戦となる前に、僕は飛び込んで行って2体を討伐――そのまま、右に逸れながら2体を討伐。


「残り16体」


 でも、ただ討伐し続けるだけでは、莉奈りなの方へ想定以上の数がなだれ込んで行ってしまう。


 そうならないため、もう一度あの中に飛び込んで1体でも多く注意を引きつけておきたい。


「ふんっ! たぁっ!」


 既に足を止めている2体の【ファウルフ】をそのまま討伐し、莉奈りなの方へ向かっている14体の群れに突っ込んでいく。

 通過する際中に3体を討伐――反対側へ抜けると、5体が僕へ目線を向けて足を止めた。


「マズい――はぁっ!」


 僕は漆黒の直剣と短剣を投げて2体を討伐。


「くっ、残り4体」


 今の莉奈には、対処できない。

 2本の武器を紐で手繰り寄せても、目の前に居る5体を無視して駆けつけられない。

 だけど、討伐を視野に入れていたら――!?


「はぁああああああああああっ!」


 ど、どうして前進を?!

 そのまま接敵したら、危険な攻撃を正面から受けることになるし、取り囲まれてしまう。


「……なるほど、随分と思い切った立ち回り方だ」

太陽たいよう!」

「ああ、だったら俺も――」


 莉奈は、4体の【ファウルフ】をすり抜けてこちらへ駆け出している。

 なら僕も同じことをして、一緒に走り出すだけだ。


「ふっ、はっ、はっ!」


 前進し、全ての足へ少しずつ攻撃して傷を負わせる。


『ンガァッ』

『ガアァ!』


 討伐することなく、移動能力を著しく低下させるために。


「このまま走り抜けよう!」

「うんっ!」


 僕たちは、後方で膝を突いたりしている【ファウルフ】たちを置き去りに、第11階層へ向かう階段がる方向へ駆け出した。




「はぁ……はぁ……はぁ……ここって、12階層のどれぐらいなのかな」

「やっと半分ぐらいかな」

「え、えぇ……上の階層だったら、もう移動用の階段に辿り着いてるよね」


 僕たちは勢いに乗って、ダンジョンの特性を活かしてモンスターが居ない場所を駆け抜けてきた。

 だけど、まだまだ半分ぐらいの距離を残して立ち止まっている。


「ダンジョンは、本当に人間を下の階層へ進めたくない構造になっているんだ。最序層は弱いモンスターとそこまで広くない地形。でも、下の階層へ進めば進むほどダンジョンは広くなっていって、モンスターも強くなっていく」


 まあ、一定の階層からは大きさがバラバラになっていったり、入り組んでいたりするんだけど。


「そして莉奈、そろそろ恩恵が切れる頃合いだ」

「え?」

「周りを見てみて」

「あ……」


 さっきは、1体の【ファウルフ】が咆哮を上げてくれたおかげでモンスターが集まってくれて、全て討伐しなかったから楽々と進むことができた。

 しかしそれは階層全て適応されるわけではなく、一定の距離感だけの話であり、同種類のモンスターしか適応されない。


 つまり、あそこから離れてしまえば別のモンスターが立ち塞がるということ。


「あれはたしか……」

「【ゴウウルフ】だね。【ファウルフ】みたいに武器は持ってないけど、【ミニウルフ】みたいに体当たり以外にも牙や爪を攻撃として使用してくる」

「じゃあ、さっきとは戦い方が変わってくるんだね」

「基本的には【ミニウルフ】とそこまで変わらない。でも、動きが不規則で速度も上がっている。攻撃の威力も上がっているし、離れているところからすぐに近寄ってくる――って感じかな」

「うわぁ……立ち止まって戦わない方がいいけど、逃げながら戦うこともできない。足止めをしようにも、そもそも早いし、足元を狙うのが身長的に大変……」

「ついでに急かす話をすると、ここで止まっていられる時間の余裕もない」

「やるしかないってことだね」


 作成会議をする程度の時間の猶予はある。

 だけど、最短で階層移動を視野に入れるならこのまま行くしかない。

 それに自分たちから動かなくても、察知されたら囲まれてしまうし、気が休まっているときにそんな状況になってしまえば事故に繋がってしまう。


 本当だったら莉奈りなを休まさせてあげたいところだけど……。


「私、やるよ。たぶん太陽に頼ることになっちゃうんだろうけど、自分にできることは自分でやりたい」

「――わかった。今回も、基本的に【ゴウウルフ】の移動阻害を主に考えて」


 基本的に【ゴウウルフ】は、【ファウルフ】よりも動きが速い。

 僕が莉奈の前で討伐したときは動かれるより先に、視認性が悪く回避しずらい短剣を投げて攻撃を仕掛けた。


 だから、今回も……と言いたいが、莉奈は飛び道具みたいな物はないし、的確に弱点へ命中させるのは厳しい。


「そこで、だ。足が短く素早い【ゴウウルフ】は、本能的に動く。動いていない相手には考察し、自慢の速度と鋭い牙と爪で襲ってくる。今回は、それを逆手にとってほしいんだ」

「本能を逆手に?」

「ああ、逃げたら追われる。でも、逆に向かってこられたら様子を見るために回避するんだ」

「え? そのまま突進してくるんじゃないの?」

「その可能性は0じゃない。だけど、大体は攻撃を仕掛けてこられたら防御したり回避するでしょ? 莉奈も僕も」

「うん、するする」

「でもさっきみたいに、想定外な行動をしたら混乱してすぐに攻撃できない」

「あー、たしかに」

「【ゴウウルフ】も例外じゃない。そして、懸念している相手には目を狙って欲しいんだ。当然、頭部を直接攻撃してもいい」

「なるほど! 目くらましだ!」

「目つぶしの方があってそうだけど、大体そんな感じ」


 咄嗟に目を狙われたら、人間だろうがモンスターだろうが回避か防御に徹する。

 これはモンスターとしての本能ではなく、生物全般に言える本能。


 誰かからしたら『卑怯者』という烙印を押されるだろうが、生死を賭けたダンジョンでの戦いに卑怯とか意地汚いとか言っていられる余裕なんてありはしない。


「――わかった。正直、怖いけど頑張る」

「僕も離れないように走るし、横と後ろは任せて」

「すぅー、ふぅー……」

「呼吸が整ったら教えて。莉奈の好きなタイミングに合わせるから」

「大丈夫だよ、行ける」

「わかった――行こう」

「うんっ!」


 莉奈が走り出し、僕も距離を保ちつつ走る。


『ガルル』

『ガウガウ!』

『ワオォオオオオオン!』


 想定していたより過酷な状況になりそうだ。


 移動を開始した直後に察知されてしまい、咆哮によって仲間を引き寄せ始めてしまった。

 だけど止まることはできない。

 こんな状況で馬鹿正直に戦闘をし始めてしまえば、ものの数秒で囲まれてしまう。


 怖いだろうけど、頑張って莉奈。


「はっぁあああああ! 負けてたまるかぁああああああああああ!」

「その意気だ」


 懸念していた通り、足を止めなくても既に両サイドに10体、後方に5体の【ゴウウルフ】が迫ってきている。

 僕は自分にできること――短剣を投げ、討伐、回収、投げ、討伐、回収を繰り返し続けるだけ。


 莉奈もまた、自分にできる役割を言われた通りにこなし続け、正面から襲ってくる【ゴウウルフ】は横へ捌け――両側に回る。

 そして、僕はそれを次々に討伐していく。


「転ばない転ばない転ばない! 走って走って走って!」


 レベル的なステータスも体力に関係してくるから、たぶん今の莉奈は今にも倒れ込んでしまいそうな足を根性と気力だけで動かし続けているはず。


「頑張れ莉奈!」

「――かっ、はっ――はっはっはっ――くはっ」

「目的地は目の前だ!」


 直線で移動しているおかげもあって、既に移動用の階段へ続く通路が視界に入っている。

 僕にできることは、このまま莉奈へモンスターを近づけないようにして、息が絶え絶えになっているところを応援することしかできない。


「あっ――きゃっ!」


 莉奈は、自分の足に引っ掛かって転倒してしまった。

 しかし。


「よく走り切った。そこで待ってて、すぐに終わらせるから」


 ゴール手前でつまづいてしまったものの、勢いもあって転倒しながら通路へと進入することができた。

 だったら、後は追跡してきていたこいつらを反転して倒すだけ。


 僕は左足を滑らせ、体を翻す。


「――終わりだ」


 漆黒の短剣を投げては頭部へ突き刺し、回収。

 右手に持つ直剣で接近し、切断、薙ぎ斬る。

 動きを止めることはなく、回避しようと飛び退いたとしても空中で仕留め――蹂躙。


 1体すら逃がすこともせず、モンスターを経験値へと変え続ける。


「全部で30体、か。討伐数も換算されていることだし、金策にもなったかな」


 剣を鞘に納め、倒れている莉奈のところへ戻ろう。

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