第18話『まだまだ学ぶことは多く』

 順調に物事が進んでいること自体は凄くいいこと。

 連携も、完璧とは言えないものの互いを意識して上手く立ち回れていると思う。


「よーし、第7階層も押せ押せで行くぞー」


 滝戸たきどさんは移動の際中に発言していた通り、やる気がみなぎっている様子が伺える。


 このままなら僕が大立ち回りをする必要はなさそうだ。

 そう、このままだったのなら。


「そっちの配信はどんなもんだ?」

「僕の方は全然です。視聴者数も2人のままです」

「あー、そりゃあ判断が難しいところだな。パトロールボットっていうなんちゃらが、ランダムで視聴していたいするから本物の人間が視聴しているかわからないんだ」

「なるほど……よくわかってないですけど、そういうものもあるのですね」

「俺も最初は、2人も視聴してくれているって飛び跳ねて喜んでたもんだ。だが後からその事実を知ったときは、さすがに顔が熱くなっちまったもんだ。今思い出しても恥ずかしくて仕方がない」


 冒険者もとい探索者の心得はあるものの、配信者としてはまだまだ日が浅いし右も左もわからない。

 このありがたい機会を活かして、滝戸たきどさんと葉須はすさんにいろいろと教えてもらおう。


「おっしゃ、金だ金だ金だぁ」


 普段と配信をしているときの差が配信としては人気が出たりするのかな?

 あんなに欲をまる出しにしている方が、本当の滝戸さんみたいだと錯覚してしまうほどだ。


 もしかしたら、武器と防具の選択は『動きが大きくみえるから』、という理由で揃えている可能性だってある。

 2人組、というのを最大限に活かして統一感を出していたりするのかな。


 互いに配信中で込み入った話をゆっくりできないから、地上に戻ったらいろいろと質問してみよう。


「――はっ!」


 莉奈りなも戦闘に集中していて、調子もいい感じに見える。


 しかし僕までも戦闘に集中するわけにはいかない。

 ダンジョンを進んで行けば、その分だけモンスターの出現数や頻度が増える。

 葉須はすさんが辺りを警戒してくれているとはいえ、今の戦い方を続けるには厳しい状況が近い。


 そろそろイレギュラーやトラップにも対応しなければいけないから、役割を決めておきたい――けど……。

 レベルが一番低いだけではなく、莉奈視点でも一番経験が浅いと思われているから、どうやって提案をしたものか。


 ダンジョン攻略ばかり必死にやっていたから、こういうときの話術を持ち合わせていないのが悔やまれる。


「あの滝戸さん」

「どうしたどうした」

「そろそろ――」

「ん、たしかにそうだな」


 次のモンスターへ攻撃する前の隙を狙って、声をかける……まではよかったんだけど、何やら別の意味で捉えられてしまった。


「よし、じゃあ第8階層に行こうじゃないか」

「え、でも――」

「まあまあ、不安な気持ちはわかる。まだレベルが一桁だもんな、でも大丈夫だ。このパーティは3人が二桁なんだからちゃんと護ってやるさ」

「いや、そういうわけじゃ――」

「なんだ、まさかの初めての場所で怖いって話か? まあ無理もないか。だが大丈夫だぞ、俺も初めての階層は今でもビビるからな」


 滝戸さんは最後に高笑いをしている。


 僕が話をしたいのはそういうことではないんだけど、まあ……滝戸たきどさんと葉須はすさんが初めてじゃないのなら、気を付けることもわかっているだろうし大丈夫か。


 莉奈りなは……さすがに不安そうな様子。

 再びダンジョンに入る前の影を差している表情が戻ってきてしまっている。


「大丈夫そう?」

「う、うん。不安だけど、たぶん大丈夫」

「僕も力になれるから、何かあったら隠さないですぐに教えてね」

「……あのね――」

「よーし、てことで突っ切るぞー!」


 滝戸さんは、本当に元気溌剌という言葉が似合う人なんだな。

 あれが配信のためにやっている演技だったとしても、そもそもその気がなかったらたぶんできないはず。

 僕のわからない世界だから、もしかしたら演技派なのかもしれないけど。


 でも移動している最中は、基本的に滝戸さんが道を切り開いてくれるから配信の様子を確認することができる。


<――――――――――>


 視聴者数は2人のまま、コメントは0。

 滝戸さんから教えてもらっことを参考にすると、この2人も人間じゃないんだろう。

 だからといって、ここからどうやって視聴者数を増やしていくのかもわからないし、どうやった配信が盛り上がるのかもわからない。

 何事もそうだけど……難しいな。


 ……さて、いよいよ第8階層へ向かう階段に辿り着いた。


「そちらの配信は、どれぐらいの視聴者がいらっしゃるのですか?」

「今は60人ぐらいだな」

「おぉ、結構な方が視聴されているのですね」

「夜とか休日とかは100人を超えるときがあるから、最大はそんな感じ」

「今の僕には想像もできない数です」

「始めたてはそんなもんだ。視聴者数が増えてきたら案外なれるもんだぞ」


 さすがに呼吸を整えながら、滝戸さんは嫌な顔せずに教えてくれる。


 こんなに親しみやすいと、もはやどっちの顔が本当なのかどうでもよくなってきた。

 どっちも本当でいいじゃないか、って。


「今日の目標階層だ。ウォーミングアップもいい感じにできているし、気分も上々」

「それ自体はいいけど、突っ走りすぎないでよ。私が大変になるんだから」

「わかってるって、さすがに。ここからは無茶な戦い方はせず、堅実にいくさ」

「ならいいけど」


 滝戸さんからの『堅実な戦い方』という言葉が出ててきたから、本当にここからの戦い方がわかっているのだろう。

 なんせ、第8階層にはイレギュラーやトラップがあるのだから。


 ダンジョンはいつだって、侵入者を排除する仕組みになっている。

 その中でも如実に感じられるのは、ボス階層がある階層の前後2階層ぐらいに懸念しているそれらが存在していること。


 イレギュラーは強力なモンスターだったりを区分する名前だけど、トラップに関しては様々なものがある。


 様々なデバフ付与、ワープ、落とし穴、ダメージをくらうもの――と、多岐に渡るけど、特に注意しなければならないのがワークと落とし穴。

 階層移動系のトラップは、1階層分ならマシだけどボス部屋に飛ばされたり、ボス部屋より下の階層……例えば第12階層へワープさせられたりする。

 初見の階層は苦戦するから大変、という理由はあるが、最悪なのは討伐していないボス部屋を攻略しないと地上に戻ることができない。


 そうなってしまった場合、文字通りの地獄の始まりになってしまう。


「まあ、これからが面白くなるのだけは私も期待しているから。2人とも、頑張ってちょうだいね」

「はい。僕にできることを全力でやります」

「……お願いします」

「よーし、ここで休憩し続けてたらせっかく温まった体が冷えちまう。行くぞ行くぞ行くぞー!」


 ここまで来ると、そのギャップにクスリと笑いそうになるけど、あれも一つの手段なんだ。

 僕もどんなキャラクターで行くか考えておこうかな。

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