第17話『清々しく順調に物事は運ぶ』

「そっちに行ったぞ!」

「はい――!」


 僕は、滝戸たきどさんが対応できない【ミニウルフ】を剣で薙ぐ。


「おらよっと!」


 滝戸たきどさんは第一印象とは少しちがった、豪快な大立ち回りを主な戦い方としていた。

 盾を防御というより弾いたり殴打に使用し、剣もブンッブンッと急所を狙うというより当たればいいという感じに。


 葉瀬はせさんは逆にそのままで、短剣を抜いて戦うと言うよりは短杖を右手に回復などの補助系スキルを使用している。

 しかし安心しきって後方に居るのではなく、しっかりと盾を左手に構えて周囲も警戒してくれていた。


 莉奈りなも、体調不良や気落ちしているのかと心配はしていたけど、戦闘になったら目の色が変わり、足元が覚束ないということもなく立ち回れている。


「いいねいいねぇ、この調子でじゃんじゃか倒していこうぜ」


 戦術や陣形はなく、ひたすらに前進してモンスターを討伐し続けている。

 そして僕たちは第6階層へ進出。

 さすがに莉奈りなのことが心配ではあったが、荒い戦い方ではあるもののそこまで粗くはないためか、そこまで心配の色が見えない。


 そして第二回である配信の方は、悲しくも視聴数は2人。

 コメントに関しては0のため、あまり気にせず居ようと思う。

 始めて間もないし、目立ったことをしているわけでもないからね。


「兄ちゃん、一番レベルが低いんだから無理はするなよ」

「ありがとうございます。でも、パーティの役に立ちたいからできることを探してこのまま頑張りたいと思います」

「かぁ、いいねぇ。礼儀正しくも貢献する姿は、こっちの視聴者からも大好評だ」

「お世辞じゃなく本当よ。私を護ってくれる騎士様みたいで、安心しちゃうわ」

「おいおい、パーティ内で色恋は勘弁してくれよ。顔見知りの惚気姿なんぞ見たくないからな」

「あらあら。少しだけ歳の差はあっても、恋愛に年齢なんて関係ないのよ」

「あ、ははは……」

「そんな冗談言ってないで、戦いに集中してくれ」


 滝戸たきどさんの言う通り、生死を分ける戦いを強いられるダンジョンでする話ではない。

 お世辞笑いしかできない僕だけど、このまま引き続き気を引き締めて行こう。


 第6階層と言っても、そこまでモンスターの傾向が変わるわけではない。

 引き続き好戦的な面は含みつつ、モンスターの種類が増える程度。

 四足歩行のモンスターや飛行している蝙蝠みたいなモンスターなど。


「よしよし、今日はこのまま行けるところまで行っちゃおうぜ」


 滝戸さんの『ガンガン行こうぜ』みたいな作戦は嫌いじゃない。

 無鉄砲な突っ込み方をする戦い方をしていたら止めに入るが、ここまでの感じから無茶な真似をするようには見えないから大丈夫そう。


 さて、前よりは長めに配信しているし視聴者数は……。


<――――>

<――――>


 変わらず2人のまま、コメントは0。

 くっ……気にしないとは言いつつも、『もしかしたら、コメントが来るんじゃないか』と淡い期待を抱いてしまう。


「おらおらおらっ」


 滝戸さんは怖いもの知らずなのか、そもそもこの階層で何度も狩りをしていて自信があるからなのか、盾でタックルや殴打をするという戦い方はそのまま。

 でも荒々しく見える戦い方だけど、ほとんど隙を見せていないことから安心感さえある。


 そのことから、僕は莉奈りなと距離を近めに戦えるし、葉瀬はせさんの方へ意識を向けやすい。

 今のところは安定しているし、気持ちよく事が運んでいる。


「やーっ!」


 慣れていない階層での戦闘ということから、莉奈からは不安の色が見える。

 だけど、ダンジョンに入る前ほどの懸念はなく、自分にできることを探して迷いなく戦えていると思う。


 僕は気を張っていて大胆には動けないけど、ここまで連携がしっかりできているから、このまま遊撃の立ち位置で問題ない。

 知識や経験のおかげで、出現するモンスターの特徴や種類、弱点や行動パターンを把握しているから焦ることもないし。


「ふぅ、さすがに休憩しながらだな」

「そうですね」


 本当に前進しかしていないから、すぐに第7階層へ向かう階段まで辿り着いた。


「お金も稼げてストレス発散! ダンジョンってのはこれだからやめられないんだよなぁ」

「私もお金が稼げるからダンジョンは大好き。他のみんなみたいに社会の歯車になってまで働ける自信はないわ」

「稼ぎ方は人それぞれでいいだろ。みんな頑張って生きてんだから」

「別に、私は自分には合ってないわって話をしているだけよ」

「だったらもう少し言葉に気を付けろ」

「何よ、別にいいじゃない」

「まあまあ、これからのことを話しましょ」


 さすがにちょっと焦った。

 こんな場所まで来ておいて仲間割れ、なんてことは絶対に避けなければならない。

 別に仲良しこよしである必要はない。

 でも、個人の感情が優先されて連携が乱れてしまえば、冗談抜きで大惨事になりかねないから。


「一応、どこまで進行するかは決めているんですか?」

「ん~、行けるところまで行きたい気持ちはあるけど。でもさすがにこのレベル帯かつ初見メンバーでボス攻略までは考えてないな」

「ですよね、それを聞けて一安心しました」


 第10階層にあるボス部屋。

 この情報は、こっちの世界でも簡単に手に入れられる情報だから滝戸さんが把握していてもなんら不思議ではない。

 それに、レベルだけを考慮せず『初見メンバー』というところも含めていたのは、もしかしたら別メンバーで攻略済みの可能性もあるし、ちゃんと情報を仕入れ居ている可能性が高い。


 僕が初めてボス攻略をしたときは、さすがに情報不足を悔いた記憶が鮮明に残っている。

 本当、あのときはいろいろと焦っていたからというのもあるけど。


「でもとりあえず、このまま第8階層までは行こうと考えている。なんせ、もっと体を動かしたいからな」

「最近、何か嫌なことでもあったんですか?」

「お、兄ちゃん良い勘が働いてるじゃないか」


 滝戸さんは、階段で危ないにも関わらずガシッと僕の肩へ腕を回した。


「それがよぉ、夜に女遊びし過ぎてお金が無くなっちまったんだよ」

「ほどほどにが一番大事ですよ」

「だよなぁ、だよなぁ。俺もそうはわかっちゃいるんだけど、やめられないんだよ。同じ男なら、わかってくれるだろぉ?」

「あ、あはは……」


 僕は愛想笑いしか返せない。

 なんせ、あっちの世界ではダンジョンを攻略し続け、生活費を稼ぎ、ただ必死に生きることを目的にしていた。

 別の冒険者からそういった・・・・・夜の遊びに誘われたりしたことはあったけど、行ったことはないし、年齢=で彼女が居たこともない僕にはいろいろと刺激が強すぎる。


 それに、あっちの世界では成人扱いされていても、こっちの世界では未成年だし。


「あ、そろそろ第7階層ですよ」

「きたきたーっ。お金を稼ぐぞー!」

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