第16話『パーティ結成、懸念事項』

「これからよろしくお願いします」


 僕は2人の男女に頭を下げた。


「初めまして、こちらこそよろしく」

「頑張っていきましょうねぇ」


 外見で判断するのは失礼だとは思うけど、僕たちより年上で間違いない。

 男性のかた滝戸たきどさんでレベル15、女性のかた葉須はすさんでレベル14。

 僕は表面はレベル6、莉奈りなはレベル10。


 僕が一番レベルの低い立ち位置になるけど、それは表面だけ。


「いやぁ悪いねぇ、無理言って別枠手続きで対応してくれて感謝するよ」


 滝戸たきどさんは、清潔感のある好青年。

 髪はしっかりとセットしている感じがするし、髭も生えていない。

 腰に携える片手剣と背中に背負っている盾が基本的なスタイルなんだろう。


「急でもあったからね。本当に助かったわ」


 葉須はすさんは、落ち着いたお姉さん。

 細目だけど、笑みを浮かべると垂れ目になって『優しそう』という印象が素直な感想。

 短剣と短杖を両腰に携えていて、滝戸さん同様で背中には盾を背負っている。


「よ、よろしくお願いします……」


 莉奈りなは、出会ってずっと抱いていた『活気があり活発な女子』という印象とは真逆な、控えめな挨拶を返した。

 同年代には明るく素の自分で接することができるけど、年上相手には人見知りしてしまうのだろうか。

 僕と話をしていたときはずっと目を見て話をしてくれていたのに、今は目線が泳いでいるというか低く下げている。


 もしかしたら、具合が悪いのかな。


「莉奈、具合が悪かったりするなら――」

「い、いや。そういうことじゃないの、大丈夫」

「わかった。でも、少しでも不調を感じたら僕だけで参加するからすぐに言ってね」

「うん……ありがとう」


 気がかりではあるものの、本人の意見を尊重したい。

 それと同じく、2人からあった申し出も同じ。


 別枠手続き。

 本来なら受付でしっかりと手続きをしてパーティを組む。

 ただ、パーティを組む手段はそれだけではない。

 書面で行う手続きと口頭で行うものに分かれ、前者は解散までも書類にサインをしたりしかければならないが、後者はそのときそのときで気軽に対応ができる。

 お手軽がゆえに流行るものの、手柄の分け前などで揉め事が起きやすい。


 ちなみに現在、莉奈と組んでいるパーティのやり方がまさにそれで、簡単に言えば仮パーティ状態。

 正規パーティに必須なのが、書類での手続きというわけだ。

 当然、面倒ではあるけど各種保証があったり怪我治療代が0円になったり食事代が割引されたり――と、悪いことばかりではない。


 まあ、全てはリーダーの采配次第でどちらもいいところが活かされるんだけど。


「それで、リーダーはどうしましょうか。僕はレベルが一番低いので候補から外れると思いますが」

「うーん。どうしたものかなぁ、その理論でいくと、俺が第一候補になるが人をまとめるのは得意じゃない」

「それを言ったら、わたしだって得意じゃないわよ」

「となるとどうしましょう。間違いなく、僕たちもその類は得意分野じゃないです」

「なら、提案してもらった通りにレベルが一番高い俺がリーダーになるしかないか?」

「そうですね、僕は手柄などより経験が欲しく、できるだけ連携などを意識して戦う練習がしたいですので」

「わ、私もそれで大丈夫です」


 今日初めて会った人たちだけど、話をしている感じは好印象。

 所々で見せる明るい表情や気さくさも相まって。


 さて、ここまで話が進んでおいてなんだけど。

 僕自身の能力をどこまで披露するかが悩ましいところ。

 間違いなく、圧倒的な力量差を見せ付けたいわけでもないし、そこまで意地が悪くはない。

 この人たちなら、莉奈は信じてもらえなかった話をしたら信じてもらえるかもだけど……それは関係性を深めていってからでもいいか。


 ちょこちょこと配信活動もしていこうと思っていたけど、初対面の人が居るのに無理なお願いはできない。


「じゃあ、【経験値分配】【ドロップ品分配】【金銭分配】全部を均等分配にして。レアドロップに関しては、申告の有無は自己判断かつ獲得者が所有権を破棄しない限りは譲渡不可能とする――って感じでいいかな」

「ええ、むしろ親切にありがとうございます」

「いいんだぞ、そんなにかしこまらず。俺たちはこれからパーティメンバーになるんだから、わだかまりを作ったら嫌だろ?」

「そう言ってもらえると嬉しいです。ありがとうございます」


 葉須さんもニコニコと優しい表情をして頷いてくれているし、本当にいい人たちだ。

 莉奈の方が気になるけど、僕が気に掛けておこう。


 それに、パーティを組むのはこっちの方が楽でいい。

 ブレスレットを操作して空中に出てくる画面をタッチするだけで完了できる。

 正規の申請もこの端末からできたらいいのに――という愚痴はやめておこう。

 たぶんなりすましを防止する、とかなんとかあるんだろうし。


「ああ、そうだそうだ。俺たち、配信活動をしているんだ」

「人に自慢できるほどの有名配信じゃないんだけどね」

「それはこれからだろ。てなわけで、配信をしながら狩りをしてもいいか?」

「あ、じゃあ僕からもいいですか。僕も配信活動を始めたばかりで、操作方法もまともにわからないので慣れるために配信をさせてもらえたら嬉しいです」

「……ああ、大丈夫だ。誰しも最初は初心者だからな、頑張っていこう」

「ありがとうございます」


 今の間、変な違和感があった。

 一瞬ではあるけど、滝戸たきどさんと葉須はすさんが目を合わせたような……?

 まあ、気のせいか。

 探索者同士であっても、若干の警戒心はあるものだし、配信者同士で同じことが起きても不思議ではないし。


「よし、じゃあ最後に最優先事項を決めておこう。命の危機を感じたら、その場から逃げる――命大事に!」

「ええそうね」

「もしものときは、と肝に銘じておきます」

「……はい」

「よし、いざダンジョンへ!」

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