第三章

第15話『様々な経験が必要ということで』

「美味しいご飯と一緒に朝の時間を過ごせるのはいいね」


 白米、お惣菜、オニオンスープ、オレンジジュース。


 こっちの世界に帰ってきて第一回目の朝食なわけだけど、控えめに言って最高だ。

 豪華なラインナップなんて必要はなく、こういったお腹に優しい献立がいいんだよね。スープと味噌汁のおかわり自由というのは更にありがたい。


 あっちの世界でもこういったサービスはあったけど、味のバリエーションが多かったわけではないから外食が多かったから。


「パンコースも選べるし、値段は高くなるけど日替わりメニューとかもあるんだって」

「なるほど。それだったら毎朝が楽しみになるね」

「だよね~」


 食に対して強いこだわりがあるわけではないけど、楽しみが一つ増えた。


「それにしてもだよ、昨日だけでレベルアップしちゃったの凄いって」

「いい感じに叩けたからね」


――――――――――――――――――――


 隼瀬はやせ太陽たいよう Lv6

 Hayase Taiyo

 HP160/160――――――――――

 MP160/160――――――――――

 

 体力  106

 防御力 106

 攻撃力 106

 俊敏力 106

 精神力 106

 知力  106


 振り値 6

 

――――――――――――――――――――


 僕もレベルアップしたんだけど、戦闘技術とか経験の前に莉奈りなとのステータスの差を大きく感じた。

 不自然すぎてまだ質問できていないけど、たぶん莉奈りなと僕ではちょうどレベル100ぐらいの差があるはず。


 身体的な能力差という見方もできるけど、少なくとも今の僕は体が羽のように軽く、攻撃の威力は岩をも砕けそうで、肉体は鋼のように……たぶん硬い。


 しかし複雑な心境なのが、どれぐらいのモンスターを討伐したらレベルアップできるのかがわからないこと。

 あっちの世界もこっちの世界も基準がないから、なんとも歯痒い。


「まさか私がレベル10になれちゃうなんて、本当に夢みたい」

「切りがいい数字になると嬉しいよね」

「うんうんっ」


 莉奈はレベル8になったばかりで喜んでいたのに、もうレベル10になった。

 これがまさに歯痒いところで、レベル8になりたてなのか、もう少しでレベル9になるところなのか、このどちらかがわからないところが。

 レベルアップすると身体的な能力と感覚がズレるから、できたらレベルアップをして狩りを終えるのが望ましいから。


「振り値って、ずっと悩ましいんだよね。太陽はもう振っちゃった?」

「いいや、まだだよ」

「方針が決まっちゃうからねぇ。スキルとか魔法で戦うなら精神力と知力を上げたくなるし、でも敵の攻撃に怯えず戦える体力・防御力・俊敏力を上げたいよね」

「難しいところだね」


 ここでありがたいことに、莉奈がステータスの情報をくれた。

 後で確認したらすぐ把握することができたけど、その手間が省けて助かる。

 【体力・防御・俊敏】はHPヒットポイントや身体的な強度や筋肉にかかる負荷に影響を及ぼし、【攻撃】は力の込め具合や疲労を抑えることができ、【精神・知力】はMPマナポイントやスキルや魔法などに影響する――という感じに。


 そもそもこっちの世界にステータスがあるのか、それを数値化できるデバイスがあるのか……等々考えてみようと思ったけど、そもそもダンジョンが出現している時点で考えるだけ無駄な気がした。

 世の中には知らない方が幸せ、みたいなこともあるし、そもそも技術を理解できないだろうし。


「それで、これからのことを考えてみたんだ」

「え、もう次の階層に行っちゃうの? さすがに心の準備ができてないよ」

「最序層は、第10階層までは危険度に大差はないからそこまで身構える必要はないよ」

「そうなの?」

「好戦的なモンスターの種類は増えていくけど、集中力を切らさず連携を怠らなければ問題ないよ」

太陽たいようの知識って凄いね。まるで本当にダンジョンを攻略してきたみたい」


 莉奈は「ははぁ~」と感心しているみたいだけど、ここで「本当に自分で攻略したからね」と言ってもどうせ信じてもらえないんだろう。


「そこで、二人のままでも大丈夫だけど先を見越した経験を積んでおきたいと思って」

「先を見越した?」

「うん、パーティの人数を増やして戦ってみたいと思って」

「え……」

「ダンジョン攻略を進めていくうえで、どうしても人数が必要なときが絶対にくる。そうなったとき、大人数とは言わずとも最低5人と実戦経験があるとないとじゃ立ち回り方が全然違うからね」


 こっちの世界はあっちの世界よりダンジョン攻略が進んでいない。

 僕のステータスとかを加味したら、たぶん50階層ぐらいまではソロでいける。

 でも、それはもしものときに通行人と遭遇する可能性を加味しているから。

 その可能性すら0の状況で、お金を積まれたとしても絶対に死地に飛び込むような真似はしたくない。


 ここでふと思ったのが、もしかしたら政府か機関は探索者の育成を僕に担わせようと画策している可能性が浮かび上がった。

 訓練校や専門学校的な場所でぬくぬくと育った探索者ではなく、叶えたい夢のため、求める願望のため――日々実践経験を積んでいく向上心の在る探索者を。


「それで、実はもう申請は出してみたんだけど――お、連絡が来てる」


 ブレスレットを部屋で独りイジってみて、様々な使い方がわかったけど……とりあえず、あの【眼鏡をかけた受付嬢】らしき連絡先だけが登録されていることを発見。慣れない、空間に出現したチャット機能で文字を打って連絡してみた。

 小学校のときに少しだけ習ったタイピング技術は悲しいもので、たった数行の文字を打ち終わるのに丸々一時間を使ってしまった。本当に歯痒い想いをしながら。


 更に悲しいことがあって、音声入力ができたし、そもそも通話をかけたらよかった、ということを全てが終わったときに気が付いたこと。

 最新の技術はありがたいし恩恵を感じるけど……浦島太郎になった気分だ。


「うわ、凄い急だ。個人的には明日ぐらいからがよかったけど、この後すぐにパーティが組めるんだって」

「そうなんだ」

「まあ申請が通ってしまったのは仕方がない。今日も頑張っていこう」

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