第14話『二つの世界で比べた感覚の違い』
第5階層。
探索者として活動していくのなら、必ず超えなければならない壁だし、少しでも強くなるためには必要なことだから。
「
「う、うん。でも正直、ちょっと怖いかも」
少しだけ目線を下げている様子から、たぶん察していることは合っているんだろう。
「危険な状況になったら、莉奈が先に逃げて大丈夫だから」
「嫌だよそんな、仲間を見捨てるような真似したくない」
「酷なことを言うようでごめん。今の莉奈はこの階層に少しでも恐怖心を抱いてる。違う?」
「うん……」
トラウマや苦手意識に対して攻めているわけではない。
矯正させたいわけでも、強制的に挑戦させたいわけでもない。
あくまでも自分の意志で克服して欲しいし、障害は自分で乗り越えてほしい。
「それに加えて危機的状況になったとして、正常な判断と行動はできる?」
「……できないかも」
「少なくとも僕は、この階層は一人でも攻略できる。なら、生存確率を少しでも上げるとしたら庇いながら戦うより一人の方が上手に立ち回れる」
「……わかった。そのときはそうするよ」
直球で伝えてしまったのは酷だと思うけど、自分のことを把握するのはダンジョンにおいて必要不可欠なスキル。
自身を過剰評価しすぎた人間が、モンスターとの力量差を見誤って命を落とす場面を何度も目の当たりにしてきた。
そして、引き際を見定められる能力もまた冒険者もとい探索者として必要なスキルだ。
「基本的な立ち回りは僕が先行。莉奈はモンスターの側面や背後を狙うようして」
「え、でもそれじゃあ
「大丈夫だから、とりあえずやってみよう」
「
快く返事していないのは、今までの僕に向けられていた変な意味が関係しているんだろうけど……あそこまで動けるのを見せてまだ信じられていないのが逆に怖い。
さすがに連携して戦闘を繰り返したら理解してくれるんだろうけど……してくれるよね?
「よし、じゃあ始めよう」
手始めに4体が集まっている【ミニウルフ】を標的に定める。
僕がやることは4つ。
モンスターの注意を引きつけ、回避と防御を繰り返し、莉奈の初撃で不意打ちをしてもらい、混戦となる前に加勢して一気に討伐する。
盾役の人間が居ない場合、スキルやトラップを使わないならこうやって戦うのが最善策だ。
「――ほらこっちだ!」
『グルルルル』
あっちの世界でも散々経験した。
最序層のモンスターは特に、目の前に居る標的を基本的に狙い続ける。
声も出せば相乗効果が生まれる、本当に単純な獣のように。
「っおりゃ」
こうやって一番後ろのモンスターが討伐されたとしても、反応しないぐらい。
莉奈は「え?」、と自分が標的にされないことと簡単に討伐できたことにキョトンとしているが、初見ではその反応も理解できる。
「莉奈、次!」
「う、うん!」
次は僕も後方に跳んで動きを見せ、莉奈の攻撃に注意が向かないようにすると――。
「たぁっ」
簡単に二体目を討伐完了。
そしてここからは僕も参戦。
「はっ――」
「――」
「え。た、倒せちゃった、倒せちゃったよ!」
一気に二体を討伐し、莉奈が最後の一帯を討伐。
辺りに他のモンスターが近づいてきていないのを確認。
莉奈が無邪気に笑ってはしゃいでいる様子を見るに、軽いトラウマはすぐに払拭できたようだ。
「凄い、凄いよ! こんなスムーズに倒せるなんて思ってもみなかった」
「莉奈が予定通りにしっかり動いたおかげだよ」
「一体一体だけだったら全然苦戦しないんだけどね。数が増えるだけで一気にどうしたらいいかわからなくなっちゃうの」
「冷静に判断を……と頭ではわかっていても、同時に攻撃されると自分のリズムが崩されるからね」
「そうそう、そうそう。
「……ま、まあ」
なるほど。
ここまで戦闘を繰り返してもなお理解してもらえない様子から察するに、下手したら当分はこの調子で話が進んでいくんだろう。
本当の意味で理解してもらえるいつの日が訪れるのを気長に待つしかなさそうだ。
「じゃあこのまま、三回ぐらい繰り返して終わりにしようか」
「この調子だったら、自身が付けられそう!」
「常に視野を広く持ちながら戦っていこう」
「うんっ」
嬉しくも悲しくもこっちの世界とあっちの世界のダンジョン内の違いは、今のところ感じられない。
知識とステータスとかはあっちの世界を持ち越しているし、出現するモンスターに違いがないから新鮮味は少し薄れているけど、新人の莉奈と一緒に行動することは初心を思い出させてくれる。
だけどダンジョンで活動していくなら、別のことも考えていかないといけない。
このままゆっくりと攻略を進めていくなら、二人のままで大丈夫だけど、必ずどこかで人数不足による攻略上の負担を感じるようになってくる。
お金が必要な
事情や状況をすり合わせていかないとだけど、とりあえずパーティ戦というのも経験してもらいたい気持ちもある。
まあ、僕自身もこっちの世界にまだまだ慣れていないし、焦らずやっていこう。
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