第13話『強さの秘訣はなく、ただ必死なだけ』

 さて、夕方まではダンジョンに滞在しないとして。互いの戦い方のすり合わせや情報交換の時間にしたい。


莉奈りなは、基本的に何階層で狩りをしているの?」

「第3か4階層かな」

「なるほど」


 初めて出会ったあのときは、いろいろと切羽詰まっていたんだろうね。「今日中に数万円が必要」と言っていたし。


「……わかってるよ。たった1階層違うだけでダンジョンの難易度が変わっちゃうってことは」

「まあ、いろいろと事情はあるだろうから」

「前に、1回だけパーティを組んだときがあって。短時間だったんだけど、かなり効率よくお金が貯まったから――今度は一人だったらもっと稼げるんじゃないかって思っちゃったの」


 たぶん冒険者であれ探索者であれ、少なからず経験することだ。

 常にパーティを組んでいるような人には縁がない話だけど、その日その日でメンバーが変わると効率の違いに驚くことがある。

 そして、それはパーティからソロになったときも同じく。


 莉奈りなも例外なくそれに当てはまっているんだろうけど、かなりの落差と敵の強さにああいう展開になってしまったんだろう。


「でも、本当に凄いよね。私は見苦しい感じになっちゃったけど、太陽たいようは一人であんなに沢山討伐しちゃうなんて」

「まあ経験があるからね」

「ゲームとかだけの知識で戦えちゃうなんて、凄すぎるよ」


 もう僕は諦めているから、ツッコミはしないよ。


「それにしても、やっぱり中二病ってやつなんだね。それ」


 ……耐えるんだ、耐えるんだ僕。


 基本的に武器となるものは地上で装備できない。

 だから、ダンジョンの入り口が設けられている施設で管理されているんだけど――まあこれはこっそりと空間から取り出した。


 そして、莉奈が向けている目線の先にあるのは紫紺の鞘に納められている漆黒の剣と短剣。

 物珍しいとはいえ、変な意味の込められた目線で見るのだけはやめてほしい。

 だってこれ、死闘の果てに――いや、今はいいか。


「何もかもを否定しきれないのが悔しい」


 もう見せてしまおうと二本を抜剣する。


「ほえー、パッと見だと全然斬れなさそうだけど。もしかしてダンジョンに模造剣を持って来ているわけじゃ……もしかして、そこまで拗らせて……」

「ちゃんと切断できるし、威力だってちゃんと出せるよ」

「ふぅーん、そうなんだ。そっちの剣は私と同じやつだね」

「うん」

「も、もしかして三本で戦うとか言い出したりしないよね」

「さすがにそれはできない。でも、二本で戦えはするよ」

「ほほ~」


 その、痛々しい人を見るような哀れみの目線、どうにかならないかな。

 こんな低レベルで数本の武器を持っていたら、そりゃあ変な人みたいな扱いをされたっておかしくはないけどさ。


「じゃあこのまま第4階層まで移動して、少しずつすり合わせしていこうか」




「――じゃあ先に私から」


 莉奈りなは抜剣し、【ミニウルフ】一体と対峙。


 レベル8の探索者であれば、油断さえしなければ容易く討伐できるはず。

 大体の狩場が第3か4階層を言っていたから、もう戦闘に慣れているだろう。


「よっと――はいっ」


 やはり、【ミニウルフ】のタックルをヒョイと後方へ跳んで回避して、その着地を踏ん張りに利用して剣で一突き。

 流れるような戦い方に迷いがなく、虚言でないことを証明してくれた。


「あと5体ぐらい、様子を見ていてもいいかな」

「大丈夫だよ。よーし、次いくよー」


 勢いよく踏み込んで切り込むこともでき、軽快な足取りで右に左に立ち回っている。

 剣を振り下ろすことにも躊躇いがなく、常に力んでいる様子もない。

 次々と標的を見つけては突進していっているから、視野を広く持てていると思う。


 ソロでやっていた期間がどれぐらいかはわからないけど、ちゃんと基礎ができていてる。


「倒したよっ」

「スムーズな戦闘だったね。観ていて清々しかったよ」

「ふふんっ、これでもレベル8だからね」


 鼻を鳴らして胸を張っている様子を見るに、たぶん莉奈りなはほぼ同レベルの人としか関りがないんだろう。

 別にそれが普通だし、何が悪いってわけじゃないんだけど。


「じゃあ次は太陽たいようの番だね」


 正体を隠したいわけじゃないから、出し惜しみはしない。

 まずは支給品の剣で。


「――行くね」

「うん――え」


 標的を定め、突進。

 ちょうどよく並んでいた【ミニウルフ】2体をすれ違いざまに斬り裂く。


「いい感じに馴染んできたかな」


 次の標的を発見。

 散らばっている点のように立っている【ミニウルフ】計5体を効率よく討伐できるルートをイメージする。


「よし――」


 ルート通りに駆け出し、足を止めることなく、体を捻り、スライディングをし、跳躍して流れを止めず討伐しきる。


「す、凄い」


 ここまでしたら、さすがに信じてもらえるだろう。


「それ、どれだけ練習したの!?」

「ん?」

「だって、あれでしょ! 脳内シミュレーションを繰り返したり、反復実戦をしたんでしょ?!」

「それは確かにやっていたときもあったとけど、でもさすがに違うでしょ」

「何が違うの? でも凄かった!」

「力を示せてよかったよ?」


 なんということでしょう。

 ここまでやって、僕の力は練習や妄想の賜物という結論に落とし込まれてしまった。

 今からでも断固として反論するべきではあるんだろうけど、こんなにパアッと明るい表情で目をキラキラされちゃうと……それでもいいっかと思ってしまう。


 どうせ時間の問題なんだし。


「でもでも、なんでそんなに強いの? いや、強くなれたの? 地上でも大変なトレーニングとかやってるんじゃない?」

「どうして強くなったのか、か」


 転移させられた最初は、冒険者として金銭を稼いで生活する以外の選択肢がなかった。

 だから、生き物すら殺めたことがなかった僕も剣を持ってモンスターを倒し続けたんだ。

 そこに目標も目的もなく、ただひたすら生きるためだけに。


 時間が経つにつれて、いろいろと変わっていったけど。


「1つだけ言えるなら――ただ必死なだけ、かな」

「必死?」

「うん。生きるため、お金のため、生活するため、憧れを追うため、目標を叶えるため――いろいろと理由はあるけどそのどれもが、必死なだけ、かな」

「……たしかに、そうなのかも。人それぞれに、やっぱりいろいろとあるんだよね」


 意味あり気に表情が曇るのを見るに、やっぱり最初の出会ったときに感じた違和感みたいな不安感みたいなものは当たっているんだろう。


「よし、互いの力も示せたわけだから、次は一緒に戦ってみよう」

「――うん、よろしくね」

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