第9話『再会と提案』
結局、あれから1時間ぐらいで目標討伐数へ到達したわけだけど
ブレスレットの操作も慣れないと、と覚束ない感じにパーティの項目欄に発見した。
それから、顔を合わせないように地上へ戻り、ダンジョンの広さに感謝をしたのは、数少ない中の一つに入ってしまった。
せっかくの出会いではあったけど、事情を探ることなく深堀しないと決めたから。
僕がパーティから脱退すれば報酬は1人に入るし、俺は俺で討伐した分のお金は稼げたから、それでよし。
ということで、食事も済んだことだし、いろいろと周りのことを調べに――。
「あ」
「あー!」
どうしてこうなってしまったのか。
地上に出てから、かれこれ1時間は経過しているから大丈夫だと思ったんだけど……。
「あのえっと、
「その節はどうも。それでは、僕はこれからやりたいことがありますので――」
「ちょ、ちょーっと待ってください! でしたら、少しだけでもいいのでお時間をください!」
逃げ始める前に腕を掴まれてしまい、力任せに解くのは可哀想だよね。
「ま、まあ少しだけなら」
「お店の前で立ち話も邪魔になっちゃいますから、入っちゃいましょう」
「あーそれが、ついさっきここで食事を摂ったところでして。あそこのベンチでなんていかがでしょうか」
と、僕は人通りはあるものの、店の前に設置してあるベンチへ視線を向け、移動した。
「それで、何かありましたか?」
僕は、何食わぬ顔でそう質問する。
「まずはしっかりとお礼をさせてください。そして、受け取った報酬も分配させてください」
「いえいえ、お気になさらず。こっちは討伐報酬を獲得できただけではなく、レベルアップまですることができましたので」
「いやいや、それだけじゃこちらが納得できませんよ。私は20体ぐらいしか討伐していないのに、報酬を多く――いえ、半分ですら貰うのは恥知らずになってしまいます」
まあ、
「
「でも……」
目線を下げて納得していない様子。
困った。
こちらとしては本心で語っているし、現状、こちらは補助金が出ているからお金に困っているわけでもない。
しかし、それを馬鹿正直に口に出してしまえば嫌味になってしまう。
解決策を模索したいが、どうしたものか。
いっそのこと、ダッシュして逃げるのもありだったり?
だけど、それだともしも再会してしまった場合に同じことが起きてしまう。
「あ!」
悩んでいたと思ったら、急に表情明るく顔を上げ始めたものだから体がビクッと跳ね上がってしまった。
「
「いえ、今のところはソロですね」
「でしたら、私とパーティを組んでもらえませんか!」
「えぇ……」
そんなにキラキラとした目線を向けられても、どうしたものか。
僕のことが報道された、とかなんとかなっていたみたいだけど、そのことを知ってはいなさそうだし。
じゃあ別に問題ないのかっていうと、曖昧な、しかも監視対象としての立場がある以上、快く了承するわけにもいかない。
いや、もしかしたら――行動制限をかけられているわけではないし、監視されているといっても、補助するだけの価値を示し続けたらいいだけでもある。
「一応、どうしてその結論に至ったのか聞かせてもらってもいいですか」
「理由は2つです。パーティを組んだら、報酬の件で考える必要がなくなる……というわけではないですが、今回の件で太陽さんが首を縦に振ってくださらなくても、その後があります」
「なるほど、僕が首を縦に振るかどうかは別として、あながちその通りですね。もう1つは?」
「こちらは、図々しい話です。予定では早くて2日を予定していた【ミニウルフ】討伐を、たったの1時間で終わってしまいました。ほとんど太陽さんだけで。そんなお強い太陽さんの下で修業させていただけないかと思いまして!」
「なるほど……?」
ど、どうしてそんな流れに?
「あんなことがあった後で、気が動転してしまってパーティを組んだ際にレベルを確認せず申し訳ありませんでした。お強い方と知らず、無礼でしたよね」
「全然、そんなことはないですよ。気にしないでください」
自分の立場を
普通だったら、強い人とパーティを組んで楽にお金稼ぎを企むものだけど……この、曇りのない真っすぐな眼差しを向けられて、疑うのは失礼というものか。
「パーティを組む件、お受けしましょう」
「えっ、本当ですか!?」
強くなりたい――そう純粋に願う人というのは、好きだし応援したくなる。
そして、一緒に志同じく高みを目指したい。
もしも組織的な介入があった場合は、潔く身を引くだけでいいわけだし。
「一応ですが、僕にも急な予定が入るかもしれません。そのときは、申し訳ないのですがパーティは解散させてもらいます」
「はい大丈夫です! よろしくお願いします!」
「えっと、パーティを組むときってどうやって操作したらいいのかな」
「まずはブレスレットを起動して、パーティの項目まで移動します」
言われた通り、ブレスレットを指で叩いて、空中に浮かび上がっている画面を指で操作する。
「そこの1番上に、【パーティを結成】と【パーティ参加申請】があります」
「ほうほう、じゃあ前でいいのかな?」
「はい、この場合は太陽さんがリーダーになるので、そのまま操作を続けてください」
言われた通りに【パーティ結成】をタップすると、いろいろな設定項目が出てきた。
「いろいろとありますが、後から設定は変更できます。ですが、最初の3つの項目だけはパーティメンバーの了承が必要になりますので、別の方とパーティを組む際は注意してください」
「なるほど。じゃあ【経験値分配】【ドロップ品分配】【金銭分配】の設定をすればいいのですね」
「ですです。私はどの設定にされても文句は言いませんので、お好きなように設定してもらって大丈夫です」
「いやいや、さすがに気が引けるから【リーダー判断】にはしないよ。もう1つの【討伐者判断】というのも今回はなしで。だから全部【均等分配】にするよ」
「え……本当にいいのですか?」
「うん。柏田さんは、何かお金が必要な理由があるのですよね」
「ど、どうしてそれを」
「そりゃあ、普通に考えたら200体って数字を耳にしたら誰だってそんな想像しますよ」
「……お恥ずかしい限りです」
「それで、この後はどうすれば?」
「えっと、こんな感じにブレスレット同士を近づけると」
なるほど、全てにおいて体を中心というわけではなく、ブレスレットが中心に操作すると考えた方がよさそうだ。
僕と柏田さんの座っている距離は10センチも空いていないのに名前は表示されていなかったけど、ブレスレットが重なりそうな距離まで近づけると、【招待一覧】に名前が表示された。
ダンジョンではされるがままだったから、これである程度の理屈は理解できた。
「これで表示された名前をタップすると、確認ウィンドウが表示されます」
「これでいいのかな」
「はい、これで大丈夫です。これでやっと名前をちゃんと覚えることができました」
「どういうことです?」
「お恥ずかしい話ですが、たい――いえ、
「ああ、なるほど」
たしかに、珍しい方の名字ではあるけど、名前の方が覚えやすいからね。
たぶん気が動転していたと言っていたし、僕の名前を確認しようと思ったときにはパーティ一覧から消えてしまっていたのだろう。
「あの、それでなんですけど」
「どうかしました?」
「もしよかったらですが、お礼をさせていただきたくて!」
「いえ――」
お金が必要な人間からご飯を奢ってもらうにも、飲み物を奢ってもらうにも気が引けてしまう。
だけど、僕は名案を思い浮かんだ。
「もしよかったらなのですが、探索者関連の施設などを案内してもらうことは可能でしょうか」
「え?」
「実は僕、こっちに来たばかりでして。いろいろとわからない点が多いのです」
「わかりました! 私はいつでも時間が空いていますので、道案内なら任せてください!」
「よかったら、この後時間は?」
「え、は、はい! 大丈夫です」
「それでは、行きましょうか」
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