第8話『愛用の剣と共に』

 目標討伐数自体は多い。

 普通に考えたら、各々でやるよりは共闘した方がいろいろと効率的に進められるのはわかっているつもりだ。

 あっちの世界でパーティというシステムはあったし、何度もいろんな人と共闘して、その効率のよさを実感している。


 でも、申し訳ないけど柏田かしわださんとは別行動をとりたい。

 試したいことが沢山ある、という自分勝手な理由だっていうのはわかっている。

 だけど、第4階層だったらモンスターの出現率も少ないし大丈夫、なはず。


 ――まずは剣と拳。


「――」


 標的は、3体の【ミニウルフ】。


「ふん、はっ、はっ――!」


 ……なるほど。

 剣で斬ったら血飛沫は上がるし、刀身や体にも血が付く。

 だけど、対象のモンスターを討伐したらそれらはすぐに消える。


 そして、拳で弱めに殴ると討伐はできなかったけど怯ませることはできた。

 ということは、物理攻撃などによって気絶させたりすることができるということだ。


 ここまで全て、あっちの世界と全く一緒だ。


「次も3体」


 今度は殴りと蹴りを合わせ、モンスターを怯ませて隙を作る戦い方を実践する。


「……の前に、少しだけ確認したい」


 自分がどれだけ体を動かせるかを試しているけど――正直、拳と脚が痛い。


 周りにモンスターは居ないし、今のうちにステータスを確認しよう。


―――――――――――――――


レベル 2


 体力  102

 防御力 102

 攻撃力 102

 俊敏力 102

 精神力 102

 知力  102


 振り値 2


―――――――――――――――


 しかしどちらの世界でも共通するのは、どれぐらいのモンスターを討伐したらレベルアップに繋がるのかが不明なこと。

 せっかくステータスを確認できるのに、そこだけは残念だ。


 冒険者になった最初の頃、レベルアップを期待して何回もステータスを確認していたのが懐かしい。


「それにしても……」


 体を動かした瞬間からわかってはいたものの、低レベルのときと比べてしまう。

 こうも体力の限界を感じることがないのは、逆に自分の体じゃないんじゃないかと疑ってしまうほど。


 この感覚のズレみたいなのを早く修正したいところ。


「配信ってこういうときにした方がいいんだろうけど……」


 彼女とパーティを組んでいる最中に配信をするのは、たぶんよくないよね。


 今のところはほとんどわからないけど、こっちの方も慣れていきたい。

 少しでもお金になるんだから継続していきたいけど……それ以外に、一応は監視対象者ということを忘れてはいけないな。

 ダンジョン攻略を謳歌していたら何も文句を言われない、ということで間違ってはいないんだろうけど、実際のところはどういう目論見があるんだろうか。


「そういえば、恩恵はどうなってるんだろうか」


 異世界に召喚されたその日、その地に立つ前、女神様と邂逅を果たした。

 というより、どうやらあっちの世界都合で呼び寄せられたから、加護のようなものを授けてくださったんだけど。

 一応、超能力というわけではない。


 使い方そのままに、空中に空間を意識して手を伸ばす。


「これはありがたい」


 空間に手を入れると、空中に収納されているものがアイコンとなってわかりやすく表示される。

 沢山の物はあるけど、その中でも使用頻度が多いものは上の列に表示され――愛用していた武器を取り出す。


「まずは、これとこれだな」


 取り出したのは紫紺色の鞘に収められた、漆黒の柄に同じ色の刀身の短剣と片手直剣。


「短い間だったけど、予備に回ってもらうね」


 今まで使っていた剣を右に、左腰に漆黒の直剣を、腰に短剣をベルトで巻き付ける。


「これぐらいかな」


 このまま防具を取り出してもいいけど、それだと感覚が追い付かない。

 強い防具を装備したら、ここら辺のモンスターは歩いているだけもダメージを追うことはない。

 でも、それじゃもしものときに攻撃の威力を見誤って怪我を負ってしまう可能性がある。

 まだ未知数のダンジョンでそれをやっちゃうのは危ないからね。


 だから、まずは慣れ親しんだ武器で攻撃するのに慣れていかないと。


柏田かしわださんの体力は……問題ないな」


 そして、残り討伐数は190体。

 いろいろと試していたから遅かったけど、ここからペースを上げていこう。


 紫紺の鞘から、漆黒の直剣を抜刀。


「まずはこれ1本で」


 左に3体、右に4体を確認。

 その先にも合計10体ほど見えるから、できるだけ足を止めないで狩り続けるか。

 じゃないと、休憩する時間も含めるとかなり時間がかかってしまうから。


「よし――っ」


 この低レベルでの生身の打撃は避ける必要はないけど、慢心はよくない。


「はっ」


 この2本の剣は、レアドロップ品を使用して作成した武器だ。

 基本性能として攻撃力が高く、耐久値がとてつもなく高い。

 だけど、一番の目玉は――。


「まずは7体。次はあっちの10体」


 ステータス向上――いや、ステータスが倍の数値になる。

 まだまだ付与されている効果はあるけど、今は関係ない。


 この、武器抜刀している時としていないときの差を体に馴染ませないと。


「まだまだ速度が足りない。誰にも見られてないし、もっと試すか」


 腰に携えている短剣も抜刀。

 長さは違うけど、瓜二つの剣は同じ素材でできている。

 余った素材で作ったのに、まさかの効果が同じというのだから当時は驚きを隠せなかった。


 つまり、この2本の剣を抜刀しているときステータスが4倍になる。

 数値だけ見たら凄いけど感覚が馴染んでいなかったら、ただの宝の持ち腐れだ。


「でも――」


 最初よりは体が軽くなっている気がする。


「よし10体。もっとだ」


 辺りを見渡し、次々に標的を定めて走り出す。

 このままもっと体を馴染ませたい。


 最初は咄嗟に助けた出会いだったけど、いい機会を貰えた。

 モンスターを討伐してお金も稼げるなんて、ありがたい話だ。


「まだまだ!」


 住む場所はあっても、自分で稼げるようにならないとね。

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