第31話 わたし大人になちゃいました

 異世界の旅行だが、泊りの基本は宿屋、テントと言うか野宿は物騒だ、もっとも野盗達を始末したので、オリスカニーの街に泊るのは更に物騒になった、仕返しが怖いからね。

 そんなわけで今夜はキャンプ、最後に外で寝たのは小学校の宿泊訓練だったかな、異世界アウトドア、

 俺がテントを建てる間にバンビーナは料理を作って行く、携行用の乾燥させた野菜や肉だが、素材の味を生かした料理を外で食べる、それだけで美味しさがかさ上げされる、

 満天の星空の下で食後のコーヒーを飲んでいると、キレイな歌声が響いて来る、

“ああ、馬の上で歌っていた鼻歌のメロディーだな”


「良い声だな、歌詞も優しそうだ」

「ありがとうございます、郷ではちょっとした有名人でしたよ」

 実年齢は18だが、実質10歳、高い声だが不思議と耳触りが良い、


「バンビ、隣に来てもっと歌を聞かせてくれないか」

「はい、ご主人様」

 チョコンと俺の横に座ると体重を預けて来るキレイな声の女の子、細い肩を抱き寄せる、

 星空の下で一つになる。


 ▽▽


 パッチリと目が覚め、テントの天井を見上げる、今は旅の最中、迷宮とアパルトマンを往復するだけの退屈な日々を抜けだし非日常の世界、

 昨日は色々あった、野盗に出合い、初めて人を殺めた、力が正義みたいな異世界だからいつかはこう言う日が来るのも分かっていたが、思いのほかアッサリと殺人をしてしまい、

 たいして後悔していない自分に驚いた。


 わざとどうでもよい事を考えて昨夜の事を頭から追い払おうとするが、見た目10歳の子に致してしまったと言う事実は残っている、

 バンビーナと一線を越えてしまった、俺はバンビが好きだ、一緒にいるから情が移ったのだろうか、恋愛と言う行為に一生縁が無いと思っていたので、この感情は良く分からない、

 だが、バンビが子供だから好きになった訳ではない、バンビだから好きになったんだ。


「ご主人様、お目覚めですか」

「バンビーナ、おはよう、今日はやけに声が……」

 俺のすぐ横、お互いの吐息がかかる距離だが、真っ白い肩を晒して微笑んでいるのはシュッとしたアゴの女性、丸かった顔は細長くなり、目の位置が上になっている、

バンビーナにお姉さんがいるとすればこんな感じだろう、

「誰だ?」

「バンビーナでございます、昨夜は可愛がってくださり、ありがとうございました」

「顔が全然違うぞ」

「そうなんですかぁ、身体も凄いですよ」

 嬉しさを隠せない態度で、夜具から身体を起こしたのは妙齢の女性、


 まっ平らだったはずの場所には大ぶりなリンゴが二つ、全体に大きくなっているけど、ウエストはキュッと絞れているし、お尻はプリプリと張りがある、手足も細く、ナデ肩とあわせて華奢な印象、昨日までの子供体形とは全く違う、

 成熟した華奢な大人と言ったところか。


「改めまして、ご主人様、お情けを授けて下さりありがとうございました、

 わたくしバンビーナは大人になる事が出来ました」

 大人の階段を登るとは、良く使われる比喩表現だが、文字通り大人になってしまったバンビーナ。



 ▽▽



 今まで着ていた服が全て着られなくなったと言う嬉しいハプニングもあったが、無事に河沿いの街ノルデン・フルスに着いた、

 河と言っても対岸が霞んで見えない、予備知識が無ければ海と思い込んでしまうよ。

 ノルデン・フルスはそんな大河のほとりに出来た貿易港。


 目当ての奴隷商会に行くと、出迎えてくれた女主人、歳は40位だろうか貫禄と言うか、油断できないやり手商人と言った感じ。

「ノルデン・フルスにようこそ、オース様、わたくしこの商会の主を務めておりますリーミニアと申す弱輩者でございます」

 すでに王都から先ぶれが出されていたのだろうか、俺が着くのは分かっていたみたいだ、

「これはリーミニア様、お迎えありがとうございます」

「道中難儀されたでしょう、戦闘奴隷などいかがでしょうか?」

「ノルデン・フルスの商人はせっかちですね、買い取りの前に売り込みをしたいのですが宜しいでしょうか」


 手紙で知らされているのだろう、得心した顔になった女商人リーミニア、

「まぁ、オース様ご自慢の奴隷ですか、楽しみですわ」

 俺が合図をするとバンビーナが入って来る、普段着ている上質な服ではなく、途中の村で買った質素な服、

「この娘バンビーナと申しまして、しっかり躾て有りますから娼婦には持って来いですよ」

「王都仕込みですね」

「まぁ、俺が一人で仕込んだ様な物ですがね、良い声で鳴きますよ」

 俺は精一杯ゲスになりきりニヤニヤ笑いながら言う、

「殿方は鳴かないウサギよりも、よく鳴く小鳥でお楽しみですからね、これは期待できますね」

「ところで後学の為に御商会の奴隷を見せて欲しいのですが宜しいですか?」

「ここは北のはずれ、王都の様な魔法の使えるヒト族は少ないですが、獣人は充実しておりますよ、さてさてオース様の目にかないますかな」


 王都の奴隷商会では応接間に通されて話をするだけで、奴隷が普段どんな風に扱われているのか分からなかった、

 二階に登り厳重な二重扉を抜けると、割と自由な雰囲気で奴隷達が歩きまわっていて拍子抜けした、

 数人毎の居室には扉すら付いていない、教室の様な場所では読み書きの授業をしていて、自習室では熱心に本を読んでいる奴隷もいた。

「わたしの奴隷達にはしっかり教養を積ませてから売る様にしているのですよ、その方が長く活躍できますしね」


「想像以上に自由な雰囲気でビックリしました、ここから出たくない奴隷も多いのでは?」

「そうですね、ここに来たばかりの奴隷達は泣いてばかりですが、数日も経つとここが気にいるようです」

「それだったらあんな厳重な扉はいらないのではないですか?」

「ああ、あれは……」

 厳重な二重扉は奴隷が逃げない為ではなく、不埒な男が入って来ない様にするため、

 美人で豊満な女性達が鈴なりになっているので、商会で働いている男共が変な気を起こすそうだ。


「そうそう、オース様、当館の娼婦候補奴隷ですが、しっかり閨の作法を仕込んでおります、いかがですかお嫌でなければご覧になりますか?」

 この質問にノーと答える男性はいないであろう、

 三階の階段を登ると、リズミカルで淫靡な音が響き、反対側ではローションの水音が聞こえて来る、

 薄いカーテン一枚で仕切っただけの場所で痴態が繰り広げられている、ここまで迫力があるとエッチな気持ちは萎えてしまう。

「オース様、相方を務めてみたくなりましたか?」

「俺ごときでは相手にならないでしょう」

「よろしかったですわ、ここは男子禁制、教官役も全て女性なのですよ、男が相手だと情が移ってしまいますからね」

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