第32話 犬のママ

 バンビーナを娼婦としてを売り込んだ俺は宿に帰ると、その後の数日間はノルデン・フルスやその周りを観光した、

 ノルデン・フルスは河の合流地点に出来た交易都市、街の中まで運河が入って来て、運河沿いにはレンガで出来た倉庫が並んでいる、

 街を少し離れると小さな湖があり舟遊びなんかが出来る。



 数日後連絡を受け、再びリーミニア奴隷商会に赴いた俺、

「ようこそオース様、お目当ての商品が見つかりましたよ」

「それは良かった、さっそく見せてください」

「あらあら、王都の方はせっかちですね」

 さりげなく数日前の意趣返しをされてしまった。


 リーミニアはいつの間にか短い木の棒を取りだし、ブツブツ言いながら軽く振ると、”ブォン”と言う音がして、耳詰まりした様な感覚、

「オース様、防音魔法です、獣人は信じられないくらい耳が良いですからね、わたし達は内緒話が出来ないのですよ、ドアの向こうにはお目当ての商品が控えておりますのでね」

「その耳の良さでずいぶん助けられました」


「左様でございますか、バンビーナからオース様の事はお聞きしました、荷物運び奴隷獣人に新品の服を何着もあつらえて、食事は同じテーブルで、更に子供達には家庭教師までつけているそうですね、この館にいる者達には天国に見えますよ」

「売られた先が天国なら、奴隷達も早く売られようと努力をするでしょう」

「オース様は面白い事をおっしゃいますね、なんでもバンビーナを大人にしてあげたそうですね」


 これはいったいどういう感覚なのだろう、前の世界で見た目10歳の女の子と事に及べば逮捕案件待ったなしだろうけど、

「バンビーナは俺によく仕えてくれました、感謝の気持ちを表したのですよ」

「幸せな奴隷ですね、成熟前に里から追い出された獣人は早死になのですよ、彼女達は群れで生活をしているので、単独で生きていくと言う事が難しい精神構造と言いましょうか」


「人間とは違うのですね」

「そう言う事です、獣人族は良い主人に買ってもらえば長生きしますけど、お情けまで授けるとは、情に厚いお方ですね」

 前の世界では犯罪行為だけど、情に厚いと褒められるとは。



「ところでバンビーナはどんな奴隷を選んだのですか?」

「やはりオース様は変わっておりますね、奴隷同士の相性を見ると言うのは初めてですよ、

 先輩奴隷のバンビーナと仲良くなれる相手を探して欲しいとは、聞いた時には何の冗談かと思いましたよ」

「家の中がギスギスするのは嫌なものですよ」

「オース様は母娘の奴隷を希望だとお聞きしましたので、バンビーナは母娘と同じ部屋に入れておきましたよ、

 獣人族は母娘の絆が強いので離れたがらないのです、素質が有るのにメイドや娼婦として売れなくて安値で農家の手伝いに売られて行く母娘が多いのですよ」

 少しため息が混ざった声のリーミニア、少し間が開く。


「さて、バンビーナの選択を見てみましょうか」

 リーミニアが合図をするとバンビーナと数人が応接間に入って来た、俺の顔を見ると嬉しそうな顔をして歩み寄ろうとしたが、女主人リーミニアの圧を感じ、綺麗な奴隷のお辞儀、

「バンビーナ、座りなさい」

「はい、ご主人様」

 カーペットにひざまずくバンビーナ、


「さてバンビーナ、一緒に働いても良いと言う奴隷は見つかったのか?」

 俺はカーペットに膝立ちしている鹿耳獣人の女性に声をかける、

「ご主人様、一応あの二名でしたら、仲良くやれそうだと思いました、

 あの、あくまでもわたくしが、そう思っているだけですので、ご主人様のお気に召さなければ無理には……」

「さてさて、数日間奴隷部屋で暮らしてみて、一緒に暮らしても良いと思ったのが二人とも犬獣人族でしたか」


 奴隷商人リーミニアの言葉に俺達は並んでいる犬耳に目を動かす。

「ずいぶん大きいな」

「ああ、あれは北方垂れ耳犬獣人族ですからね、垂れ耳犬は体格が良いのが特徴ですがネーポムカは群を抜いております」

 女子バレー選手、それも中学高校レベルではなく、全日本レベルの選手を彷彿させる背格好、

 手足はスラリと長く、腰骨の位置は俺のヘソより上じゃないだろうか、ショートカットの髪型が余計にバレー選手っぽい、

 短い髪にはレトリバーみたいな垂れた耳、顔つきもレトリバーっぽく、優しそうだ、

 だが一番の特徴はビーチボールみたいな巨大な胸、胸と身体の比率は普通の巨乳女性と同じ位だろうけど、身体が大きいから相対的に胸も大きくなるとはいえ、サイズがバグっている。


「力はありそうだな」

「まぁ、見ての通りですが、いくつか問題もありまして」

「どんな問題が?」

「身体は大きいのですが、顔が幼いのですよ、もう少し大人っぽい顔でないと殿方の食指は動かないでしょう」

 確かに体格は立派だが、顔はロリ顔、俺にとってはむしろ好み、


「顔は問題無いだろう、それでもう一つの問題とは?」

「運動神経が無いのですよ、黙って重い荷物を担ぐだけなら問題無いですが、剣や槍は扱えませんよ」

「迷宮での荷物持ちだから構わないよ」

 マルチェリーナがそんな感じだし。


「そうそう、ネーポムカの娘はネララと言いますああ見えて10歳ですよ」

「15歳でも通りそうだな」

 母親似の美人顔、クラスにいた成長の早い子みたいで、体格が良く、すでに胸元が膨らみ始めている10歳児、

「垂れ耳の娘ですから、育ちが良いのです、

 隣にいるのが立ち耳犬獣人族のアポロニアでございます」


 身長と胸がバグっているママ奴隷の隣に立っているのは、小柄な女性、多分バンビーナと同じ位だと思う、

 全体的な雰囲気がママと言うよりもJK、

 整った顔をピンッと立った三角の耳は柴犬みたいな精悍さがある、惜しむらくは胸がほぼ無い、レモンくらいはあるのだろうが、隣に特大スイカがいては存在を示せない。


 俺の心の中を読んだのかリーミニアが言う、

「アポロニアも顔が残念なので性欲処理系ではなく、戦闘系の奴隷です、荒事に慣れておりますし、剣、槍、弓一通りはそれなりに使えますよ、

「それは頼もしいな」

「ただ残念な事に娘がブタ顔なのですよ、獣人族であの顔はないですね」

 リーミニアは両手の平を上に向けて”ダメです”のボディーランゲージ、


 アポロニアの隣に所在なさげに立っている小さな女の子、クセッ毛の髪をポニーテールにしているけど、顔はダメな子だ、

 いや、これは周りがおかしいからだろう、ネーポムカ親子や母娘のアポロニアは芸能人、その中に街の子が一人混ざった状態、

 昔のバンビーナみたいな田舎臭さがあるけど、普通の子だよ、そうそうあの子の名前はサリアと言うそうだ。

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