第30話 力こそ正義

 北の街まで奴隷を買いに行く、買い物が半分、旅行が半分と言ったところか、

 せっかく異世界に来たと言うのに、迷宮とアパルトマンの往復、図書館が一番遠い場所だなんて行動範囲が狭すぎる、

 妊娠しているマルチェリーナと娘ラムは留守番、バンビーナと二人と言うのも気兼ねなく過ごせて良い、

 マルチェリーナも良い奴隷なのだが、主人と線を引こうとするところがある、そこへ行くとバンビーナは良い感じに俺に甘えて来る、この距離感が心地良い。


 そうそう、旅は馬だ、四頭の馬を借り受け、俺とバンビーナが騎乗、三体目には荷物を積んで、最後の一頭は予備と言うかローテーションで休ませている、

 小学生みたいなバンビーナだが、器用に馬を乗りこなす、


 四頭の馬、16の蹄の音が街道を鳴らす、この辺りは高い山は無いけど、緩やかなアップダウンの連続する丘陵地帯、街道は岡の中腹を縫うように通されているので、少し先に何がいるのか分からない、

 こんな状況で一番危ないのは野盗だと言うのは平和な日本から来た俺でも思いつく。


 外を歩くと言う解放感からか鼻歌を歌っていたバンビーナだが、急に真顔になった、

「バンビーナ、どうした?」

「います、 この先の右に曲がった先に3人、もう少し先に5,6人はいますね」

「あの道を曲がった先で道を塞いで、三人が逃げ道を塞ぐ算段だな、バンビーナ、弓を出せ」

「はい、ご主人様」


 倒木か何かで道を塞ぎ動けなくなったところを前後から襲うつもりだろう、迷宮で鍛えた俺の弓がどれだけ通用するか試してみるか、

 片側はガケ、反対側は急な斜面と言う逃げ場の無い場所に馬を進めた俺達を待っていたのは数人の男達、

 いかにも田舎町のチンピラ的な男がニヤニヤ笑いながら言う、

「よう、旅の兄さん、ここは関所だ、通行料を払ってもらう規則なんだよ」

「そうか」


 俺は相手に対応する隙を与えず弓を放ち、リーダー格の男の眼球に矢が生え、鈍い音を立てて地面に横たわる、

 隣のサブリーダーっぽい男に狙いをつける、矢を向けられ反射的に刀を落とし、顔をガードする男、

“バカな奴だ、矢の威力を知らないらしい”

 腕を貫いた矢は男の顔に刺さる、


 二人を倒した時点で勝負はあった、丸々太った食べ頃の子牛が来たと思ったら、凶暴な狼だったのだ、

 的確な状況判断の出来る男は俺に背を向け逃げていくが、奴の首筋に矢が生え、街道を血で汚す、

 逃げ場の無いガケで獲物を待っていたのがアダになったな、

 バンビーナは器用にも騎乗の体勢で、真後ろに弓射、後ろの逃げ道を塞いだ3人を次々と射殺して行く。


「逃げる奴は殺す!」

「待ってくれ、俺達は関係ない、奴らに無理やり連れて来られたんだ」

「信用出来るか、ここで死んでもらうぞ」

 相手が強いと分かった途端に態度を変える様な連中を信用する気はない、


「だったら、お前ら二人でそこの死体を片付けろ」

「分かった、何でもするから、助けてくれ」

「本当だ、俺達は無理やり連れて来られただけなんだ」

「そんなゴタクは聞きたくない、汚い死体を谷に放り投げろ」

 生き残りの二人は死体をガケから放り投げ、ガサガサと藪の中を転がっていく醜い死体、


 バンビーナだが俺の横にやって来る、

「あの二人、死体を投げ込む時に、小さな声で謝っていました」

「ふん、無理やり連れて来られたのは、やっぱりウソか、どうするかは分かっているな」

 黙って頷くバンビーナ。


 最後の一体を投げ込んだ二人は俺の前に来て懇願する、

「お願いだ、約束は守った」

「そうだな、ところでお前達はどこから来た?」

「麓の町だ、頼む命だけは」

「何と言う町だ!」

「オリスカニーと言うところから来たんだ、本当だ!」


 やけに身ぎれいだと思ったら、やっぱりそうか、街のチンピラの小遣い稼ぎの関所ごっこ、

“あーあ、今夜はオリスカニーに泊る予定だったが、どこで寝よう”


「バンビーナ、行くぞ」

 俺はお前達には興味を無くした、そんなていで再び街道を歩き始める、充分距離をとった、奴らも安心した頃に、突然バンビーナが後ろを向き、弓を放つ、

 後ろの方で鈍い音が二つ聞こえたが、俺達の旅に影響は無いだろう、

 そこら辺のケダモノや野良の魔物の食事だ、野盗に身を落とした連中には相応しい死に方だろう。


 前の世界の基準では正当防衛は成立しないだろう、

 まごうことなき“殺人”だが、罪の意識にさいなまされる事は無かった、これが無抵抗の相手ならともかく、凶器を俺や俺の奴隷達に向ける様な連中だ、

 力が正義なんて価値観の連中だ、自分達より強い相手に遭えばどうなるかはわかっていただろうに。

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