第26話 キズものにしちゃいました
加護縫いの服は見た目だけなら普通の服と変わらない、それでいて多少の怪我なら痕もつかない甲冑の様な強度、
だが一定の強度を受けると服がバラバラになってしまう、
魔物からバックハグされて服が飛び散ってしまったマルチェリーナには俺の上着を貸したが、大切な部分が辛うじて隠れる程度、普段から上乳や腰周り、太股を晒していた彼女だが、服と一緒に自身もなくしドオドした彼女を見ていると不謹慎ながら熱くなってしまった。
▽
迷宮ギルドの受付に行くと窓口の女性が大騒ぎして、フード付きのマントを貸してくれた、
「オース様!この人顔に怪我しているじゃないですか、まさかこの恰好でここまで来たんじゃないですよね?」
「ああ、けど顔の怪我くらいで済んで良かったよ、てっきり骨折でもしているかと思っていたし」
「そういう問題じゃありません、女が顔に怪我をする、それも獣人族の女性がですよ、大問題ですよ」
「回復のポーション飲めば怪我は治るんじゃないの?」
「はぁ~」
受付嬢はため息をつき、バンビーナからは同情の目で見られる、
「オース様、そんな便利な薬があるなら薬草屋は廃業ですよ」
「そうなのか?」
アニメでは回復ポーションが定番だったのだが、この世界ではそんな物は存在しなかった様だ、
「それじゃあ、回復魔法をかけてくれよ、ギルドには治療所が有るって聞いたけど?」
「オース様、回復術は全てもと通りになる訳じゃないんです、怪我をした部分が盛り上がったり、変形したりするんです、脚とかなら仕方ありませんが、お顔に回復魔法をかけると、顔つきが変わってしまう可能性があるので、普通はかけません、女性には絶対かけません!」
「ご主人様、顔の怪我は薬草を貼って自然に治るのを待つのが一番ですよ」
バンビーナが“これ以上恥じをかかせないで”そんな表情で教えてくれる。
「とにかく、今日はそのマントをお貸ししますから、絶対に怪我を見られない様に帰ってくださいね、それと傷が治るまで部屋から出さないで、
奴隷に恥をかかせると、主人の品性が疑われますよオース様」
その後滔々と説教をされたが、この世界では女性は顔が命、特に獣人族にはその傾向が強く、顔に怪我をした状態を見せるのは裸で歩くのと大差がないと言う考えだそうだ。
▽
図らずも長期の休みを取る事になった俺達のパーティー、マルチェリーナは、
“ご主人様に不浄の物をお見せする訳にはいきません”
そう言って一番狭い部屋に閉じこもって出て来ない、時々バンビーナが食事を差し入れ、薬草を交換しているみたいだ。
良い機会だからプリメラさんに家庭教師を頼もうと思ったけど、マルチェリーナが嫌がった、
“わたしは顔に怪我をした醜い状態です、穢れが移ってしまいますので、ご容赦ください”
ドア越しにそう、頼まれた、困ったところにバンビーナが言う、
「プリメラさんの話ですと図書館と言う場所があって、そこには一生かけても読み切れない程の本が棚いっぱいにあるそうなんです、そこで勉強会を開いたらどうでしょうかね、ラムにもいい刺激になると思うのです」
プリメラさんに図書館の話をしたら大賛成してくれて、次の家庭教師の授業は図書館で行う事になったけど、これって家庭教師じゃないよね。
▽
街路樹と言うかもはや森レベルの木立を抜けた先にそびえたつ白亜の壁、窓は小さく所々に通気用のスリットが開いているだけ、窓が小さいのは本が日焼けをしない為だろうか、合理的な考えの異世界だ。
「オースさん、先日お話しした通り、図書館の利用にはお金がかかります」
「大丈夫、ちゃんと準備したよ、登録料に銀貨5枚、利用料銅貨50枚、しっかり人数分あるから」
「それと本日授業を行う貸し切りキャレルに銀貨1枚かかります」
「あの~、プリメラさん、今日はお弁当を用意して来たのですけど、どこで食べるのですか?」
「バンビーナちゃん、大丈夫よ中に喫食コーナーがあるから、
あー、そうそう忘れていた、図書館は途中退場出来ません、もう一度入る時には改めて利用料の銅貨50枚を支払わないといけませんよ、その代わり中の施設は充実しているから」
日本では図書館は行政サービスとして無料が原則だったが、こちらは有料施設、登録料が年間5万円、毎回5000円の利用料、更に読むのは基本図書館内のみ、貸し出しは有料で本の価値に応じて供託金を支払う仕組み、
利用できるのは社会の中の上以上の人達だけ、貧乏人は知識に触れることすら許されない厳しい世界だ。
システムは違うけど図書館独特の雰囲気は同じだった、磨かれて黒光りのする木製の床と重厚な本棚に並ぶ皮の背表紙は老翁の様な雰囲気、
建物は上から見るとロの字形をしていて、中庭とそれを囲むピロティが休憩場所の様で、それとは別に食事を出す店もある。
閲覧コーナーにはキャレルと言う読書スペースがずらりと並んでいるけど、その奥に有料キャレルと言って防音された部屋がある、学生達の勉強会等に使う部屋だそうだ、
「それじゃ、この部屋は1日貸し切りました、荷物を置いたら書架を案内しますね」
普段ははしゃいだり、おどけたりするラムも、図書館と言う大人の空間のせいだろうか、真面目な顔をして本に向きあう。
その日1日みんなは何冊も本を抱えてキャレルにこもって過ごした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます