第16話 抱っこして ▼バンビーナ▼
奴隷商会で下働きをしていたわたし、成熟前の獣人族が群れから出ると数年で死んでしまいます、強いハーレムリーダーのもとにいないと、あっという間に不安感にかられ、朝になっても目を覚まさない、
わたしと一緒に奴隷商会に来た子達、見目の良い子はお屋敷の下働きで売れて行きましたが、
売れ残った子達はみんな冷たくなって朝を迎えました。
わたしはもう18歳、寝る前になると暗い気持ちが心の中に満ちて来て、ウトウトと浅い眠りで朝を迎える、
“あと何回朝日を見られるだろう”
ブサイクなわたしの数少ない仕事が引き立て役、美しく成熟した女性の横に並び、醜い顔を晒すだけの仕事ですが、
オース様は引き立て役のわたしを選んでくださいました、
ご主人様は新品の服を何着もあつらえてくれますし、お食事も下げ渡しではなく同じテーブルで、さらに一緒のベッドで寝させて貰えます。
同じ寝所に寝ていて思う事は、
“わたしが成熟していれば”
胸やお尻が大きくなれば、ご主人様にたくさんご奉仕出来ます、こんなペッタンコの胸なんてガリガリで気持ち悪いですよね、
あっ、けどわたしが大人の身体になっても顔がアレだから相手にされないですよね、
いいのです自分の事は分かっています、情けないたれ目とブタみたいな鼻、田舎丸出しの口元、毎朝鏡を見る度に泣きたくなります、
ブサイクなわたしは一生殿方とは縁の無い生活を送っていくのでしょう、そんなブタ顔のわたしは毎朝ご主人様に口づけをしています、
気持よくお休みになっているご主人様の唇を貪る、奴隷として最低ですね、
鞭打ちされても文句を言えないわたしですがご主人様は見て見ぬふりをしてくださいます、どこまでお心が広いのでしょうか。
お昼寝する時にはわたしを抱っこしてくださいます、髪を優しく撫でられると、お腹の下が熱くなってきます、
ご主人様に抱きかかえられていると、身体の火照りが収まらず、悶々としていますが、最後は下腹の欲求に負け唇を重ねてしまいます、
せっかくのご主人様のご厚意を自らの欲求で踏みにじる最低の奴隷です、わたしは。
そんなダメ奴隷でも“バンビは可愛いよ”と優しくお声かけしてくださるお方です、
そんなお心の広いご主人様はわたしに家庭教師をつけてくださいました、帽子屋さんのプリメラさんです。
最初は算数の時間です分数と小数点の計算を教えてもらいました、料理をしていると半分とか三分の一とかは頭の中で理解出来ます、ですが算数の面白いところは頭の中のボンヤリとしたイメージを紙の上に式として書き出せるのです、
ほんの半刻の授業でしたが頭をガツンッと殴られた様な衝撃です。
少し休憩したら本読みの授業です、自分の名前とか簡単な読み書きは出来ますが本を声を出して読んだ事はありません、そもそも本なんて数えるほどしか見た事がありません、
わたしがひとくさり読むとプリメラさんが正しい発音で読んでくれるので、それを真似して読み返します、
不思議です、同じ話を読んでいるのに発音が変わっただけで田舎者丸出しだったのが街の洗練された女性になったみたいで気持ちが良いです。
そんなわたしをご主人様がニコニコ笑いながら見ている事に気が付きました、
「オースさん、さっきからバンビーナが集中できません、向こうの部屋に行ってください」
強引にご主人様を部屋から押し出したプリメラさん、
わたしとしては恥ずかしい気持ちと、聞いて欲しい気持ちが半々だったので複雑です。
「ねぇ、バンビーナちゃん、ご主人様とキスした?」
二人っきりになるとプリメラさんはとんでもない事を訊いて来ます、わたしは真っ赤な顔して下を向いているだけ、
「バンビーナちゃん、おねだりしてみれば?
オースさん優しいからきっとチューしてくれるよ~」
「……わたしは顔がアレだからご主人様は嫌がります」
さっきまでニヤニヤ笑っていたプリメラさんが真面目な顔になります、
「バンビちゃん、ちょっと訊くけど美人とそうじゃない人の違いは何だと思うのかな?」
「 …… 生まれつき? …… 」
「違いますよ、美人さんは表情なの、どんなに顔の作りが良い人でもいつも不機嫌な顔していたらイヤでしょ、
オースさんの前でスマイルを忘れない、それだけで好感度アップよ」
「だけど~」
そんなに簡単な事でしょうか?
「大丈夫だって、オースさんはバンビちゃんを気に入っているわよ、綺麗な服を何着も買ってもらって、何言っているの、
甘えた声で“ご主人様ぁ、チューして~”っておねだりしたら絶対に断らないわよ」
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