第15話 イモ臭い田舎娘でごめんなさい
インゴットで最高級のレイピアを注文したけど、しばらく時間がかかりそう、
新しい剣が出来ると分かっているのに、古い剣で迷宮の戦いをさせるのは、可哀そうなので、剣が完成するまではお休みにした、
とは言っても、休みにするとバンビーナは一日中家事をやっていて少しも休まない、これは良くないな。
「バンビーナ、これからプリメラさんのところに行くぞ」
「はい! ご主人様」
プリメラさんにバンビーナの家庭教師をお願いした、家庭教師の相場なんてまったく分からないからお任せだけど、帽子屋の店番が暇な午前中にしてもらった、
教えるのは読み書きと簡単な計算。
▽
「……ご主人様、今日はスカートとキュロットのどちらが良いですかね?」
「どっちでも、好きな方で良いぞ」
「髪の毛をサイドアップにしてみましたけど、いかがでしょう? 前の方が良かったですか?」
「どっちも似合っているぞ」
「大変です、ご主人様、今日の下着は柄物です、ブラウスの下から透けてしまったらどうしましょう」
「大丈夫だと思うぞ」
家庭教師の初日、バンビーナは朝から大騒ぎだった、プリメラさんが来るだけで王様が来るかのような大騒ぎ、
少女の質問にぞんざいに答えていたら、最後は小さな頬っぺたを膨らませてしまった、
「ご主人様は関心が無さ過ぎです、お客様が来るのですよ」
腰に手を当て、可愛い口を尖らせながら、
“わたし、怒っています”
アピールをするけど、所詮は見た目10歳で微笑ましい、
ヘリオスさんを招待する時にはこんなに騒がないけど、やはりプリメラさんは女性、同性に恥ずかしい姿を見せたくないのだろうか。
こちらの世界の時間は2時間単位、一日を12に分けていて、教会の鐘で時刻を知るのだけど、
3回鳴ったら、朝の6時、8回鳴ったら8×2で16、16時だから夕方の4時、
最初の頃はいちいち計算していたけど、ほんの数日ですっかり馴染んだこちらの時制、そうそう時間の単位は刻と呼ぶよ。
プリメラさんは4の鐘が鳴ってしばらくしてからやって来た。
▽
「このスカートの絵柄綺麗でしょ、刺繍屋さんが一人でやると6刻かかるのよ、これを2刻で仕上げるには職人さんは何人いれば良いかな?」
「えっと、二人だと3刻ですよね、三人いれば良いかな?」
今一つ自信の無いバンビーナは質問系の答え方をしてプリメラさんの反応を見る、
「さぁ~、どうかな、まずは図を描いてみるね」
直線を描いたら六等分して、割り算と言うか分数の説明が始まった、バンビーナは家事をするだけあって、分数の概念はあるのだが、系統的な教育を受けていないので、上手に言葉に出来ないのだ。
「それじゃ、最初の質問に戻るよ、一人で6刻かかる刺繍を四人の職人さんがやったら時間はどれくらいかかるかな?」
「えっと、1刻半です」
「バンビーナちゃんはどうして1刻半だと思ったのかな? 2刻かもしれないよ~」
「いえ、違います、6を四人で割ると、一人1、余りが2で、更に四人で割ると二分の一だから、1刻半になります」
バンビーナは最初こそ図を描いていたけど、途中から暗算で答えを出す様になった、数字の概念が頭に浮かぶ様だ、奴隷で教育を受けていないはずなのに頭が良いのでは?
算数の次は一般教養、何を教えるかと思ったら話し方のアクセント、この世界では着ている服で社会階層が分かるが、同じ中流階級でも農民と街で商売をやっている人間、工房で働いている人間、言葉のアクセントが違うのだ、
農村出身者はなんと言うか田舎くさい喋りかた、最初の頃のバンビーナが田舎娘に見えたのはイモ臭いアクセントも関係している、
早口でしゃべりかけて来るのは店の売り子、工房街の人達はやはり独特なアクセントがある。
教科書と言っても字の大きな絵本の様なものだが、それを音読させる、面白いからずっと聞いていたいけど、バンビーナが照れ出して、結局プリメラさんから途中退場させられた。
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