第14話 いっぱい突いて

 バンビーナの見立て通り、ドロップしたのはインゴットだった、それが3本も、

 受付のお姉さんは目を丸くしている、バンビーナは小さい胸を反らしてドヤ顔。

「オース様、こちらは仰る通り“インゴット”でございます、ドロップアイテムはそうそう出る物ではございませんよ、人によっては数年に一回あるかないか、と言われております」

「ドロップアイテムも買い取ってくれるのか?」

「ご希望でしたら買い取りを致しますが、鍛冶師ギルドに持ち込む事をお勧め致しますよ、その方が買い取りも高いですし」

 そんなレアなアイテムを一日に数本も手に入れたとは。



 ▽



 その後も迷宮に潜り試行錯誤をしてみたが、ドロップアイテムの出し方が分かってきた、

“魔物を後ろから、無防備な状態で攻撃”

 これがドロップアイテムの必勝パターン、バンビーナがジャンプして魔物の注意を引いたところで俺が後ろから攻撃、

 単純だが意外に難しい、冒険者たちは滅多にパーティーを組まないのが一番の理由、換金の段階でもめ事を起こすならまだ良い方で、魔物を倒した直後に仲間に刃を向ける者がいるくらい無法地帯、

 奴隷が重宝されるのは、こう言った裏切りの下地があるからだろう、迷宮は人間の本質を暴き出す場所と呼ばれているそうだ。



 ▽



 醜い人間を横目にコンスタントにドロップアイテムを稼いでいく俺とバンビーナ、出て来るのは殆どがインゴットなのだが、かなりレアなアイテムらしく、一本持ち込むだけで金貨、つまり百万円単位のお金が懐に入って来る、

 チートではないけど、稼ぎ過ぎと言う自覚はあるので全てのインゴットを持ち込む様な事はしない、

 冒険者ギルドから紹介してもらった貸し金庫に預けて、10日くらいに一回のサイクルで鍛冶師ギルドに持ち込んでいる。


 ギルドと言うのは、まぁ組合みたいなものだ、加盟しないとその街で商売は出来ないし、大まかな値段が決められていて、安売りして自分だけ儲ける、なんて業者が出ない様に監視もするし、

 業者同士のトラブル解決や行政との折衝も仕事のうちだそうだ。


 そしてギルドのもう一つの役割がレアアイテムの公平な分配、

「ギルド長はいるかい?」

「よう、オース、またアイテムの持ち込みか」

「余っているならやめておこうか」

「そんな訳ないだろう、お前さんがコンスタントに持ち込んでくれるおかげで工房同士のレアアイテム取り合いのケンカがなくなり、気持よく会合が開けるよ」


 鍛冶師ギルドのギルド長は50代くらいの気さくな人、以前は自分で工房を運営していたが、稼業を息子に譲った後はギルド長に収まり、工房街に睨みをきかせているそうだ。


「ギルド長も大変だな」

「たいした事ないよ、インゴットさえ有ればな、

 ところでオースよ、持ち込むばかりじゃないで、新しい武器をつくらないのか?」

 今のところ武器に不満はない、結構硬い魔物を切っても刃こぼれ一つしない剣はさすが王宮騎士団謹製と褒めてあげたい、

「特に困っていないけどなぁ」

「そっちの女の子のエストックをみせてくれないか?」


 バンビーナに合図すると、腰の剣帯から取り外したエストックを丁寧な仕草でギルド長に渡す、

「ちょっと見させてもらうよ」

 工房で働く人は武器を見る目も独特だ、精密機械の検査をするかの様に丁寧に色々な方向からエストックを見たと思うと、バンビーナに目を移す、

「お嬢さん、この剣は少し重くないかな?」

「頑張るから平気です」


「ギルド長さん、この剣はこの子に合って無いのか?」

「いや、エストックとしては極限まで軽量化されている、ヘルマンの工房だけの事はある、

 だが刃を見た限りでは突きばかりで斬撃をした形跡がない、レイピアにすればもっと軽くて扱いやすくなるぞ」

 ギルド長の言葉に目をキラキラさせているバンビーナ、ここは買ってあげないとね、


「どうするバンビーナ、新しい剣が欲しいか?」

「それはもちろん……わたくし奴隷ですので、ご主人様の判断に従います」

 あくまでも奴隷の矜持を守ろうとする健気な少女に大人二人は苦笑する。

「ギルド長、それじゃインゴットを使ってレイピアを作ってくれないか?」

「工房はどこか指名はあるのか、なければ入札になるが」

「入札とは?」

「インゴットを使ってレイピアを作る機会はまず無いんだ、冒険者達は大剣ばかりだしな、そうそう、大剣でもレイピアでも使うインゴットの量は同じなんだ、

 大剣はまずハガネで芯を作ってそこにインゴットをまとわせるのだけど、

 レイピアだったらインゴットだけで剣を叩くんだ、こんな仕事は職人だったら誰でもやってみたいんだ、わかるだろう?」


 ▽▽


 新しく剣を作ってもらえると言う事になりご機嫌なバンビーナ、普段は黙って家事をするのだけど、今日は鼻歌を歌いながら晩御飯の支度をしていた、

 この子の機嫌が良いとこっちまで気分が良くなるよ。


 小さな身体で毎日重い荷物を担いで、自分の体格に合わない剣でも文句一つ言わずに黙って頑張る子、

 その晩はバンビーナの身体をマッサージしてあげたよ、

 最初は嫌がったけど、途中からトロンとしたメス顔になった。

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