第10話 ランドセル奴隷
道すがらプリメラさんと話をしていたが、彼女は王立学問所を卒業して今は家庭教師の仕事を探している途中だそうだ、
「……帽子屋さんはわたしの親戚なの、店番だけだし、暇な時には本を読んでも良いと言う条件だったしね」
「早く仕事が見つかると良いですね」
「ねぇ、オースさん知ってる? 美人は家庭教師に採用されないんだよ」
「それは何で?」
「主人と良い関係になって家の中にゴタゴタを起こすからよ」
面倒な話を投げて来る人だ、仕事が見つかれば美人じゃないと証明されるし、仕事が見つからない方が良いですね、とは言えないし。
「あっ、ここよ、ハンスさんの工房」
ズンズンと入って行くプリメラさん、
「ハンスさーん、お客さんよー」
奥の方からノソノソ出て来たのは40代くらいのいかにも職人と言った感じの男性、
「なんでぇ、プリメラの嬢ちゃん」
「お客さんよ、この子の背負いカバンを作って欲しいの、えっと図面はね……」
どんどん話を進めて行くプリメラさん、こちらは何もしなくて良いから楽で良いけどね。
「分かった、シカの子こっちに来な採寸してやる」
恐る恐る職人の方に向かって行くバンビーナ、
「ハンスさんか、俺はこの子の主人だ、見ての通り小さな子だから多少値が張っても良いから柔らかい素材を使ってくれないかな」
ハンスの工房に来てから初めて口を開いた俺、職人ハンスとプリメラは顔を見合わせている。
「なかなか大切にされている奴隷だな」
「俺の大切な相棒なんだ」
フ~ン、そんな顔で俺を見たハンスはバンビーナに向き直る、
「バンビーナだったな、イニシャルをエンボスしてやる」
「ひゃい、ありがとごじゃます」
▽▽
転移魔石を取った日から俺は絶好調、初日に王宮練兵場で見せたキレキレの剣技で魔物を圧倒、
そして何より頭がスッキリ、いつもモヤがかかった様なボヤァ~とした感覚が無くなり解像度が上がった様な気分、
変わったと言えば、もう一つ、朝トイレにこもってハァハァと荒い息をするようになった、俺は童貞のアニメおたく、リアルの女性とは仲良くなる方法は知らないし、バンビーナに手を出す外道にもなれない、察してくれ。
▽
転移魔石で6階層の入口までジャンプすると、バンビーナは黄色の通学帽から突きでた耳をクルクル動かす、
「こっちの方にいます!」
子供の歩調でトテトテと俺を先導して行くのだけど、通学帽とランドセル、何より低い身長、
薄暗い通りで女子小学生の後をつけて行く様な錯覚に陥る。
「ロントラがいます、一体だけですけど、大きいですよ」
「かまわん、行くぞ!」
ロントラは上向きの二本の牙を持ったネコ科の魔物、サーベルタイガーの牙が上向きになった生き物を想像して欲しい、
上の方の初心者階層では大きめのネコくらいだったけど、6階層ともなると二周りは大きい、それでいて動きが俊敏、
だが問題無い、むしろ大きい方が魔石も大きくて稼ぎも多い、
先を行くバンビーナが停止のハンドサインを送って来て、俺に剣を渡す、
俺は魔物を見つけると剣を腰だめにして突進して大型犬くらいの牙の生えた生き物に向かっていく、
上の階層ではザコだったけど6階層ではなかなかの難敵、牙ネコは俺の肩くらいまで平気でジャンプして攻撃をかわす、俺はロントラの着地点を読んで剣を振るがクリーンヒットは生まれない、
そんな時俺の視覚の外から鋭い投石、一瞬だがロントラの注意が反れる、
バンビーナのサポートだ、
力が拮抗した状態ではわずかな事でバランスが崩れる、横薙ぎに払った剣がロントラの頭蓋を叩く、そんな簡単に絶命する様な相手ではないが、ひるんだ所に次から次に斬撃と突きを浴びせ、遂にサーベルタイガーもどきはそのまま真横に倒れた。
「ご主人様、お疲れさまでした」
「バンビーナが上手いタイミングで石を投げてくれたおかげだよ」
エヘヘッと破顔する鹿の子、本当は危ない事はしちゃダメって叱るつもりだったけど、この子の笑顔を見ているとそんな事はどうでも良くなる。
難敵ロントラを倒して魔石を回収するとそのまま帰り路、6階層だと魔石も大きく、一体で上層階一日分以上の稼ぎになる、ここで欲をかくよりもゆっくり休みたいから今日はそのまま転移魔法陣で帰る事にした。
▽▽
転移魔法陣をくぐる、最初の頃は突然違う場所に出て来るファンタジー設定に戸惑ったが、最近は普通に使いこなしている、
午後の早い時間、バンビーナと並んで家路に向かおうとしていたところで声をかけられた、
「オース様」
ヒョロっとした男性、いかつい連中が多いこの街ではそれだけで浮いた存在だ、彼はえっとー、
「ヘリオスですよ、ギルド職員の」
「ああ、制服じゃないと分からないよ、今日はお休み?」
「やっと仕事が終わったところですよ、オース様も今お帰りですよね」
「まぁね、半端な時間に帰って来たから何しようか迷っているところだよ」
「オース様、宜しかったら三人でお茶でもしませんか、わたしがおごりますから」
「それは良いね、勘定は俺が持つよ、結構稼いでいるんだよ、ギルド職員なら知っているか」
「いやいや、貴重なお休みの時間をつきあわせるのですから、わたくしが」
何と言うか、人づきあいのスキルが低いので会話が進まない、そんな時にバンビーナが俺の上着を引っ張る、
「どうした?バンビーナ」
「ヘリオスさんを家にご招待したらいかがでしょう、お茶受けはヘリオスさん持ちにすれば角が立ちませんよ」
「バンビーナがこう言っているけど、どうします、狭い部屋で良ければ」
「それは願ってもないです」
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