第5話 ご主人様と同じテーブル

 バンビーナを採寸して仕立て直す間、俺は奥の部屋に通され紅茶を出される、前の世界では服なんて量販店でしか買った事がなかった、高級品を売るお店はこんな対応をするのがデフォなのだろうか。

「鹿獣人のお子ですね、成熟前の奴隷に加護縫いとは、なかなかおりませんよ」

「怪我をしたり死なれる事を考えれば安い物だろう」

「左様でございますね」

「加護縫いとは言っても万能ではないだろう、どれくらい耐えられるのだ?」

「それは難しい質問でございますね、加護縫いは本来持っている耐久力を引き上げる事で身体を守っております、

 お客様の様な冒険者でしたら基本の耐久力がお強いでしょうから、それを更に引き上げますが、獣人の娘さんはまだ幼いでしょうから、同じ比率で耐久力を引き上げたとしても……」

 要するに加護縫いは強い人は更に強くなれるけど、基本体力が少ないと数倍耐久力を引き上げても効果はそれ程、と言う訳だ、

 加護縫いの限界が超えるといきなり怪我をする訳ではなく、服がバラバラになってしまうそうだ、あの冷たい迷宮で全裸、死ぬよりはましか。



 フィッティングルームから出て来たのは、真っ白な肩と太股を露わにした幼女、おヘソが見えるか見えないかの黒皮がボンテージ衣装みたいで背徳的だ、

 後ろから見るとまだ成長前の小さなお尻から白い尻尾がチョロリと覗いている。

 衣装の露出が増えるとスラリとした肢体も露わになる、細い手足はアニメのキャラがそのまま出て来たみたいだ。


「なかなか似合っているぞ」

「ありがとうございます」

「次は普段着だな、部屋着と外出用の服、それと下着も余分に欲しいだろう、

 この子の服を見つくろってくれないか?」

「かしこまりました」

 品の良いマダムはセンスも良い、可愛らしい普段着のキュロット、オシャレな外出用のスカートを選んでくれた。




 成熟前の獣人奴隷に新品の服を何着も買い与える、店ではかなり珍しい存在だったらしく、俺が店を出て行った後、

“奴隷よりも服代のほうが遥かに高い”

 と噂していたそうだ。


 ▽▽


 アパルトマンに戻った時には西の空が紅く色づいていた、

 そうそう、ここでアパルトマンの説明をしておこう、日本にあるカタカナ四文字のアパートとは全く別だ、

 大通りに面した壁には細い隙間しかない、そんな狭い入口を通って行くと、中庭に出る。


 アパルトマンの各部屋の入口や大きめの窓は全て中庭側に面していて、外階段を昇って部屋に行く、ちなみに俺の部屋は3階だよ、

 風呂は1階に共同浴場があるけど、浴槽は無くサウナ、こちらの世界のルールでは風呂場で裸になるのは禁止と言うか、かなり礼儀知らずと思われるらしい、

 浴衣みたいな服でサウナに入るのが基本だそうだよ、

 ちなみに男女混浴だけど服を着ているから、あんまり美味しくない。


 三階の部屋は3LDK 廊下は広々している、寝室にはかなり大きなベッドが鎮座している、家族は全員一つのベッドで寝ると言う習慣だそうだ、大き過ぎるベッドがあった時点で変だと思っていたのだが、習慣の違いだ。



 ▽



 部屋に帰り、落ちついたら食事の時間、通りのパン屋とデリカッセンで買って来た、このデリカッセンは陶器のポットにミネストローネみたいなスープも売っているので、自炊しなくてもよい、

 異世界に来てもコンビニ飯の生活だ。

「ほら、お前の席はここだ」

 食事の準備をしているのだけど、自分の立ち位置が分からず右往左往しているバンビーナ、

「わたしも席についてよろしいのでしょうか?」

「当然だろ、二人分買って来たんだ、冷める前に食べるぞ」

「白パンにスープ、こんなに厚いハムまで……」

 どうやらこちらの常識では奴隷と主人が同じ部屋で食事をする事が有り得ないそうだ、

 奴隷と言うか、労働者階級の食事は一日2食、やたら量の多い黒パンかリゾット、塩気の多いオカズが少し、

 炭水化物とり過ぎじゃない?



“ケフッ”可愛くゲップをしたバンビーナをジッと見ていると、顔を真っ赤にして俯いてしまった、

「恥ずかしいです」

「満足してくれて嬉しいよ」

「ご主人様、もったいない言葉でございます、私たち奴隷は主人の下げ渡しを食べる様に教育されております」

「一人で食べてもつまらないだろう、一緒に食事をするのも奴隷の仕事だと思え」

「ありがとうございます、ご主人様の無聊を慰める様なお話しを出来れば良いのですが、生憎教養が無いので」


「だったらお前達獣人族の話を教えてくれないか、俺達人間と違う所とかが有れば教えて欲しいものだ」

「そうですねぇ、一番の違いは、獣人族はメスしか産まれないと言う事でしょうか」

「それでは、どうやって子供を作るのだ」

「えっとー、何回か妊娠したメスは30歳手前くらいでオスになるのですよ」

 頭の中にオレンジのストライプ模様の魚が思い浮かんだ、性転換する種族とはさすがは異世界。


「そうか、お前達は子供の期間が長いそうだな」

 耳まで真っ赤にしたバンビーナ、

「えっと、ですね、私たちメスは、オスからお情けを頂くと、

 そのぉ~、割と短い間に身体が出来あがっていくのですよ」

「大人になったからエッチをするんじゃなくて、エッチをすると大人になるのか」

「はい、まぁ、そう言う事です」

「ふーん、じゃあ俺とエッチな事をするとバンビーナも大人のお姉さんになる訳だ」

「ご主人様はヒト族ですよね、幼い子供が特に嫌いな種族だと聞いております、わたしにお情けを授けるなんて有り得ないですよ」

 小さくため息をついた鹿耳の女の子。

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