第3話 ヘニャヘニャで役に立ちません
寝不足のせいなのか、夜の営みが上手くいかないからなのか、今日は剣術も槍術もさんざんだった、
午後からは魔法の座学、
「……魔素と呼ばれる物質は今この空気中にも存在しています、ですが濃度が一定ではありません、特に濃いのは迷宮と呼ばれる場所でして……」
だめだ、聞いていてもサッパリわからん、言葉は入って来るのだけど、頭の中で理解出来ない、異世界魔法は高度過ぎだよ、
「質問が有ります」
「どうぞ、ミズホ様」
「こちらの魔道専門書には体内にため込んだ魔力は体内で循環させる事により、放出率が上がると書いてあります、
これは先程言った魔力を練ると言う事と同じ意味でしょうか?」
「その認識で問題ありませんよ、魔素は自然と体内に溜まって行きます、皆さんは通常の人達よりも魔素が溜まり易い体質のはずです、
ですが魔力は貯め込むだけでは力として発揮できません、体内循環、もしくは練ると言う言葉でもかまいませんが、その必要があるのです」
「それが属性付与と関係して来るのでしょうか?」
「フシミ様は大変聡明でいらっしゃる、体内循環の際に魔素の性質が変化いたします、この際に起きるのが……」
鶴舞さん達三人は熱心に質問しているし、魔道書を読み解き自分なりに解釈している、俺以外の三人は凄く頭の良い人達?
そんな日が数日間続いたが、剣の腕は初日がピークで後は落ちる一方、魔法学は、
“オース様は図書室で研鑽を積むのが良いでしょう”
なんて言われて教室から追い出された、
夜は相変わらずおとなしいままだよ、性欲を抜きにしても朝になれば自然に硬くなる部分はこちらに来てから一度も元気になっていない、
そりゃ俺は童貞だし、関係ないけどさ、まだ二十代だよ枯れるには早過ぎだろう。
基礎訓練を受け、あっという間に迷宮に潜る日がやって来た。
俺達迷い人には一人ずつ追う王宮騎士団の騎士がついて指導をしてくれるそうだ、俺にはアイガスと言う30くらいのイケメンな騎士が付き人に、
「さあ、ここが迷宮です」
案内の騎士が言うけど、石造り建物の階段を降りていくのだけど、途中でガラリと空気が変わったのが分かる、
「ここは1階層です、皆さまがた迷い人にとっては簡単すぎる階層かもしれませんが、どんな事でも順を追って覚えなければなりません、決して気を抜かない様に」
「エイッ!」
瑞穂さんが槍を突き出しイタチみたいな魔物を突き刺す、
「さすがです、ミズホ様、槍を抜いたら魔石を取り出してください」
瑞穂と伏美には女性の騎士がついて指導をしてくれているみたいだ。
最初は四人まとまっていたけど、次第にバラバラになって各々の速度で迷宮を下っていく、俺はその最後尾、
「オース様はお疲れのようですね」
アイガスが訊いて来るけど返事をする気力も無い、マラソン大会の後の状態が延々と続いている様なものだ、
迷宮の初日は剣も装備もアイガスに持ってもらい帰還となった。
その後も数回間迷宮に潜ったけど、他の三人は順調に実力を伸ばしていったが、俺はいつまで経っても3階層手前くらいでヘロヘロになってしまう、
異世界転生のアニメなんてウソだよ、本当の迷宮は疲れるものだぞ。
▽
いつまで経っても実力が伸びない人間を養うほど王宮は甘くない、俺は王宮の部屋を追いだされ、迷宮近くのアパルトマンに引っ越しさせられた、
“こちらの方が迷宮に近いので実力を磨くには良い環境でしょう”
なんてアイガスが言っていたけど、要するに厄介払いだ。
「オース様、こちらのアパルトマンは一年分の家賃は払ってあります」
一年後は路頭に迷うのか、前の世界とあんまり変わってないぞ、
「ああ、そう」
「それとですね、オース様は体力が無いので荷物持ち奴隷を使ってみたらいかがでしょう?」
アイガスの説明によれば荷物持ち奴隷を使うのはもっと深い階層に潜る冒険者達だが、俺の場合は体力が無さ過ぎてお話しにならないからだろう。
▽
奴隷商会に連れて行かれた俺、鎖に繋がれた哀れな奴隷が大勢いるかと思いきや、綺麗なカーペットの引かれた上質な家、執事が来客の受け答えをして、
キッチリしたメイドに茶を出される、
「まもなく主人が来られます、しばらくお待ちください」
慣れ慣れしく笑う訳ではないが慇懃無礼な対応でもない、完璧な表情のメイド。
しばらくすると50代くらいの締まった体形の男が現れた、こいつが主人か、
「ようこそ、オース様ですな、アイガス様より伺っております」
「あっ、どうも」
「迷宮での奴隷をお求めとの事ですが、戦闘奴隷をお望みでしょうか?」
「いや、荷物持ちで充分です」
「左様ですか、荷物持ちと言っても色々な種族がおりまして……」
奴隷商会の主人の話によると、多少値が張るけど人族の奴隷が一番良いと勧められた、なんと言っても人族は魔法が使える者が多いので、たとえ生活魔法程度でも迷宮では大きな助けになる、
まったく魔法の使えないのが獣人族、その分身体能力が高いらしい、
この商会の主人は盛んに人間の奴隷を勧めてくるが、異世界に来たんだからケモミミだろう。
「獣人の女の奴隷で、生意気な奴はダメだ、素直で主人に逆らわない性格が良い」
「ふむ、オース様、獣人は平気なのですかな?」
「別に」
「しばらくお待ちください」
そう言ってソファを立った奴隷商会の主人。
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