第22話 偵察
このままだと明確な作戦や目標も曖昧なまま、イノセンスたちの根城を叩くことになる。
孫子の兵法に『彼れを知りて己を知れば、百戦して殆うからず。』という言葉がある。敵を知って自分を知れば百戦やったって負けることはない―みたいな意味だったと思う。
僕がひとりで行って全員をぶっ殺せば簡単だとは思うけど、人質がどれたけいるのか、どんな状態なのか何も分からない。それにあまり僕が無双しているところを見られたくないんだよな……
とはいえ、早く解決したいし、僕は単独で偵察することに決めた。もちろん、みんなの許可なんて得ないけどね。
夜、寝床を抜け出して屋上から外に出る。
屋上には24時間監視がついているけど、この前まで普通の住民だった人たちだ。簡単にすり抜けられた。屋上からピョンと飛び降りて、一旦、国道に出る。北千住方面に南下したら都道467号線を東へ向かってひた走った。
街はまったく明りが灯っていない。晴れた夜空に星がきらめいている。
僕は、道路に放置された車を避け、邪魔なゾンビたちはバールで頭を割りながら進んだ。
しばらくすると、目的地の駅前のデパートが見えてきた。
まずは道路を1本はさんですぐ隣の駅ホームの屋根に上り、デパートをうかがう。1階部分は自動ドアのガラスが割られているからゾンビに支配されていると思うんだけど、この辺りはほとんどゾンビがいない。イノセンスどもが綺麗にしてくれたのかな。
6階と思われる窓あたりに、わずかだけどチラチラと光が見えているのが分かった。
結構大きなデパートだな……本当は索敵とかの感知系の魔法が使えればよかったんだけど。探索に時間がかかりそうだ。
すると、5階のベランダのような作りになっている非常口から3人ほど外に出てきた。僕はとっさに姿勢を低くして様子をうかがう。2人は男で1人は女性のようだ。2人ともお面をしているからイノセンスで間違いないな。
「たまには嗜好を変えて外でヤろうじゃねぇかぁ~」
「確かに!逆に燃えるッス」
男たちは嫌がる女性の頭をわしづかみにしたり殴ったりして大人しくさせようとしている。
はぁ……思わずため息がもれた。これがアイツらの常態か。
そういえばアーレスでもさんざん同じような状況を目の当たりにしてきた。そういったヤカラを僕たちは容赦することはなかったけど。
一人が女性を羽交い絞めにすると、もう一人がズボンを脱ぎ始めた。抵抗を止めて静かに泣く女性が痛々しい。
もう僕の心は決まった。
僕は助走をつけて、駅のホームの屋根からデパートに向かって思いっきりジャンプした。
バンッ
決して狭くはない幅の道路1本分を超える大ジャンプだ。自分の身体能力に少し驚いたけど、これならちゃんと届く。
踏み切ったとき思ったよりも大きな音が出てしまったけど、ヤツらが気づく前に僕は脱ぎかけズボンの男の顔面目掛けて飛びヒザ蹴りを入れた。
「ッガ!」
と、身体をひねって、スタッとベランダに着地した。
「な、なんだオメェ……」
羽交い絞めにしていたもう一人の男が言う。ピカ◯◯ウのお面を被っている……
騒ぎ出す前にベランダのヘリと壁を蹴ってそいつの背中側に回ると、首を掴んでペキッと270度くらい回してやった。
「あ、ぁぁ……」
女性は恐怖のあまり悲鳴も上げられずただただ震えていた。僕は半裸状態の女性に自分のウインドブレーカーを肩にかけてあげて、
「もう大丈夫でずよ。みんな゙を助げだいので、でぎれば分かる範囲で中の様子を゙教えでもら゙え゙まぜんが?」
女性はコクコクと首を縦に振って応えてくれた。でも中に入る前にこの男どもをどうにかしないと。
まず首があさっての方向に向いているピカ◯◯ウお面の男が着ているツナギを脱がせて僕が着る。僕には少し大きい。もう一人のズボン抜きかけ男は中年小太り。お面が潰れてしまっているが息わずかにはある。このままここに置いておいても厄介だから2人ともそのまま5階からポイと落としてあげた。
ピカ〇〇ウのお面を拝借。
「さぁ、いぎまじょう」
怯える女性を先頭に、僕は薄暗い店内に侵入していった。
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