第21話 岐路
「岩崎さんが殺された。それに……岩崎さんが保管していた銃も1丁無くなっている……!」
岩崎さん……元町会長さんで、優しそうなおじいさん……
「南ざんは?」
「南さんは昨夜見回り役だったそうだ。南さんがいない時を狙われたんだ!クソッ!」
内部の犯行の可能性が高い……拳銃が保管されてあったとされる場所は、外部の者が簡単に入って来られるような部屋ではなかったし、そうだとしても見回りがいるから気づかれないということは考えにくい。
拳銃を奪ってそれをどうしたかだよな。弾丸は入っていなかったと言うが脅威がゼロとは言えない。
「今日の探索は中止だ……準備ができ次第、埋葬しに行こう」
またあれをするのか……
簡易的な葬儀が終わったあと、僕たち探索班は岩崎さんの遺体を埋葬するために探索班のうち数人で埋葬しに河川敷にやって来た。
僕たちはいくつも並んでいるお墓の、進藤さんが眠っている隣に場所を決めて掘り始めた。このままだと、隣のグラウンドまで全てお墓になってしまいそうだ。
埋葬が終わり車に戻る。もう春は目の前に来ているというのに、冷たい風が吹き抜けていく。
「寒ッ!すまん、俺ちょっと小便」
プリン頭の細谷さんだ。こんなことしかできないからと、埋葬について来てくれた。
「細谷さん、危ないからひとりで行くなよ」
「大丈夫だってすぐ戻ってくっから」
「お、俺もついていきます」
「ああ、悪いな飯島、頼む」
細谷さんもそこそこ戦える人だったらしいけど、ケガをしているしね。
ちなみに僕は寒いとか暑いとかは感じない……わずらわしさがなくていいんだけど、少しだけ寂しさを感じる。
代謝もないしエネルギー摂取も排泄も必要ない。純粋に内在魔力が僕を動かす原動力となっているらしい。
いったい僕はいつになったら人間と呼べるような身体を取り戻すことができるのだろう。
午後、避難所の運営委員が集まって今後の方針などを決める会議を行うことになった。なぜか僕も参加させられていたんだけど、会議は荒れた。
「じゃぁこのまま不安な夜を過ごせって言うのか?!この中に犯人がいるかもしれないのに?!」
「この避難所の人が犯人と決めつけるのは早いよ。こういうことはもっと慎重に……」
「そんな悠長なことを言って、次の犠牲者が出たらどうする!」
僕はさっき知ったけど、ここ最近イノセンスのヤツらがこの近所でちょくちょく顔を出すようになったそうだ。みんな怯えていて子供は外に出せないって言ってる。
南さんがさっきから腕を組んで黙ったままだ。それに気づいた恭介君が言う。
「南さん、あんただってこのままでいられるとは思ってないよな?相手を刺激しないで穏便に、なんて言っていたらいつの間にかヤツらの奴隷になってると思うぜ?」
奴隷か……
始めはゾンビから守ってやるから食料をよこせと言ってきたそうだ。それが徐々に要求が大きくなり、女のよこせだの車をよこせだの……反発してみたら、感染者を避難所に忍ばせて内から崩壊させ、そのどさくさで何人もの若い女性がさらわれたという。
確かにこのまま何もせずにヤツらの要求を聞いていたらそれはもう奴隷とも言えるのではないか。
「……やはりここで腹をくくるしかないのだろうな。時間との勝負でもある。大した作戦など練れないがやるだけやってみよう」
南さんのその言葉でイノセンス討伐作戦が決定した。
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